アストロウェポン────異世界転生?女になったから弱いんだが……

@oleocan

第1章 落ちた少女

第1話 落ちた男①


「クラウディ……」


声が聞こえた気がした────


男は目が覚めた。


身体は動かず、ぼんやりと目を開けていると滲んだ視界が徐々に鮮明になっていく。まず目に入ったのは夜空。二つの丸い月のようなものが夜空に浮かび、煌々と輝いている。そしてそれを彩るかのように小さな点の星が散らばっていた。


彼は息も忘れて見ていたが、ふと呼吸をすると激しく咳き込んだ。口の中で血の味がした。


────寒い。


季節が冬なのかわからないが、時折吹き付ける風は露出した肌に刺さった。


呼ばれた声に反応しようと身体を起こそうとしたが痺れたように動かない。身体は冷え切りぶるぶると震えた。


────なんだ?何が起こった?


割れるような頭痛が襲い、彼は身じろぎした。聞こえるのは木々のざわめきと時折聞こえる、聞いたことのない虫や動物の鳴き声。


彼がどうしようもなくじっとしていると徐々に体の感覚が戻って来た。


首を横に向けると同じように倒れている人がいた。


「ルーディ……」


小さく呟いた瞬間、頭にどうしようもない頭痛がし、走馬灯のように記憶の映像が走った。


笑う少女と取り巻き……村の人々……それを襲う人々……追いかけてくる人……野宿……追いかけてくる人……繰り返し


しかし突然ヒビが入ったように映像が割れ、彼は咳き込んだ。


────何だこれは?!


疑問に思ったのも束の間、夢でも見ていたかのように彼はその記憶を忘れた。


────ここは……


痺れる身体を何とか起こしてフラフラと立ち上がり、辺りを見渡した。


────確か俺は


最後の記憶を伝い、自身が戦闘中であったのを思い出した。『後悔しろお前は永遠に────』そんな言葉と手を伸ばす敵、それを切り落とそうとして……。


彼はまた頭痛に襲われ、こめかみを抑えた。


────そう、俺は誰かと戦闘中だった……だが


辺りを見渡したところギョッとした。視線を落とすと数にして十数人が、切り刻まれて地面に横たわっていた。息をしているものはいない。何人か触れて見たが血も渇ききって死後何日か経っている。


見知った顔はおらず、違う服装のものが先程隣で死んでいた1人。それを取り囲むように3人、そして少し離れたところに2人とあとは転々と死体が続いている。


状況からみるに先程の死んでいる少女が野盗に襲われ、なんとか相打ったというところだろう。足跡が人の物しかないところをみるとそういうふうに見えた。


だが、彼の記憶とは違う場面だった。


────となるとここはどこだ?


彼は改めて周りを見るが、景色に見覚えがなかった。何より空に浮かぶ2つの月など見たことがなかった。


最後の記憶では確か室内だったはずで、それに作り物のプラネタリウムにしてはリアルすぎた。


「うっ……」


激しい頭痛がさらに襲い、その場に倒れ込んだ。意識が遠のいてくる。


────ここにいたらまずい


辺りの死体を一瞥して何とか再び半身を動かし、端の草むらに倒れ込んだ。再び野盗が襲ってくるとも限らない故、気絶したら今度こそ死ぬ恐れがあった。彼は血液と土の味を吐き出そうとしたが、叶わず泥のように眠りに落ちた。





鳥がさえずる声で彼は再び目を覚ました。酷い空腹と喉の渇きに自身の服を探り、木で出来た水筒を見つけて口につけた。残量は少なかったが、一気に飲み干す。


ある程度渇きを癒すと気怠い身体を起こした。


辺りは明るく陽が照らしている。


────夢ではないか……


草むらを掻き分け道を確認するとため息をついた。


死体が転がったまま惨劇を語っている。少女と野盗の死体が。


彼は道に出て再度状況を確認した。どうやら死体が放置してある感じを見るとここはあまり使われない道なのだろう。


自身の服装を見ると転がった少女と似たような旅人のような服装だった。


てっきり彼女が単身で戦ったのかと思っていたが、自身も戦ったのだと悟り再び少女のそばに行った。幼い顔立ちと長い黒い髪。生気のない瞳は僅かに金色を帯びていた。


────誰だ?


彼は首を捻った。おそらく関係があるのだろうが、全く覚えていないのだ。それよか自身のこともほとんど忘れてしまっていた。自分の容姿や出来ることを除いて。


覚えのない土地、曖昧な記憶。彼はどうしたものか頭をかいた。


見たところ、野盗に追われて森の奥に行こうとしていたみたいだった。


────行ってみるか


そう決めるが、まず彼は散らばった死体をまさぐり、使えそうなものがないか探した。


干し肉、パンが1週間分。丸薬のようなものが1ダース。取り敢えず肉とパンを食べて飢えを満たした。水筒は1人ずつあったが溢れたり蒸発したのか移し替えても2本分、約500ml程度しか集まらなかった。荷袋も拝借し、自身が持っていた荷袋合わせて二つを背負った。見たことない硬貨らしきものもあった。


────ドルかユーロか?ルピとかか?


首を傾げながらもそれも一応集めて小袋に入れる。あとは毛布を一枚とランプ等。一度色々詰めたが体力が衰えているのか盛大に転び、仕方なく最低限とした。


そして転がっている抜き身のシミターのようなもの2本とナイフを5本拝借する。


彼は再度荷物を確認すると背負った。重たいが食料もあり、数日あれば体力も戻るだろうと考えた。


彼は森の奥へ向き、再度振り返った。自身によって荒らされた死体。ふと彼は目を開けたままの少女の亡骸のそばにいき、そっと目を閉じさせた。


何故そのようなことをしたかわからないが、そうしないといけない気がしたのだ。


ため息をついて森に向き直り、彼は歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る