第11話 限界突破(寸前)と迫る足音
「もうヤダ……帰りたい……お風呂入ってふかふかベッドで本読みたい……」
私の心の叫びは、もはや具体的な願望へと変化していた。しかし、悲しいかな、現実は非情である。目の前には光る呪いの巻物(仮)、隣にはスパルタ鬼教官(確定)。私の精神力は、風前の灯火どころか、もはや消し炭寸前だ。
それでも、カイエン隊長の「続けろ」という無言の圧力(と、「解読できれば平穏が戻るかも」という米粒ほどの希望)に突き動かされ、私はズキズキと痛む頭を抱えながら、必死で巻物に意識を集中させる。
(契約……血……印……力……この単語たちが、頭の中でぐるぐる回って……繋がって……あれ……?)
集中が、まるでゾーンに入るかのように、極限まで高まった瞬間。
バラバラだったキーワードが、パズルのピースがはまるように、一つの不吉なフレーズとして、私の脳内に直接響き渡ったのだ!
『古き印を継ぎし王家の血よ、彼の者との契約を思い出せ。力には代償を、裏切りには……滅びを』
「―――ひっ!?」
思わず、喉の奥から引き攣ったような息が漏れる。な、何、今の!? これは単なる古い記録なんかじゃない! まるで……呪いの言葉、そのものではないの!? 王家の血? 契約? 代償? 裏切りには滅び!? 物騒すぎる! ヤバすぎる! 関わりたくない度MAXよ!
そのおぞましいフレーズを理解してしまった瞬間、私の頭痛は、まるで頭蓋骨が内側から割られるかのような激痛へと変わった! 視界がぐにゃりと歪み、目の前の巻物の緑色の光が、網膜に焼き付くように強くまたたく!
「う……あ……ぐ……」
意識が急速に遠のいていく。体がぐらりと傾ぎ、椅子から転げ落ちそうになる。口からは、自分のものではないような、意味不明な、しかしどこか古めかしい響きの言葉が、勝手に漏れ出そうになる!
(だ、ダメ……! 何か……何かヤバいものが、出てくる……!)
必死でそれに抗おうとした、その時だった。
「おい、しっかりしろ! 飲み込まれるな!」
鋭い声と共に、カイエン隊長の手が、素早く私の肩を掴んだ。その声には、普段の無表情からは想像もできないような、焦りの色が確かに滲んでいるように聞こえた。彼は、私の額に自身の冷たい手を当てると、何か短い、しかし複雑な響きの呪文のようなものを低い声で囁いた。
すると、不思議なことに、私の意識を苛んでいた激しいノイズと頭痛が、すぅっと、まるで霧が晴れるかのように和らいでいく……。
「は……ぁ……、はぁ……」
荒い息をつきながら、私はカイエン隊長を見上げる。彼は、僅かに眉を顰め、私の顔を覗き込んでいた。
(……た、助かった……のかしら……? この人、もしかして、ただの無愛想じゃなくて……?)
ほんの一瞬、彼に対して「感謝」に近い感情が芽生えかけた、その時だった。
ピピピピピピピッ! ビーッ! ビーッ!
部屋の隅に置かれていた、あのランプ型の通信用魔道具が、けたたましい警告音と共に、狂ったように激しく赤く点滅し始めたのだ!
同時に、遠くから、しかし確実に、複数の人間がこちらへ向かってくる足音が聞こえてくる! それも、ただの足音ではない。重く、統制の取れた、軍隊のような響き……!
カイエン隊長は、忌々しげに舌打ちすると、私と巻物を素早く交互に見た。
「……時間切れか。敵の動きが思ったより早かったな。ここまでだ」
彼は、私が呆然としている間に、机の上の巻物を素早く閉じると、有無を言わさぬ力強さで私を椅子から立たせた。
「行くぞ。ここも安全ではなくなった」
「え? い、行くって……どちらへ!? まだ解読は途中ですし……って、痛たた……まだ頭が……」
混乱と頭痛でふらつく私。しかし、カイエン隊長にお構いなしという様子で、私の腕を取ると、今度は入口の扉とは逆の方向――部屋の奥の、何もなかったはずの壁――へと向かって歩き出した!
「ちょ、ちょっと、そっちは壁ですわよ!? まさか、壁抜けの術とか……!?」
「黙ってついてこい」
カイエン隊長は、壁の一部に手を触れ、何かを操作した。すると、ゴゴゴ……という重い音と共に、壁の一部が、まるで隠し扉のように内側へと開き始めたではないか!
「ひぇぇぇぇ! 隠し通路!? まるでスパイ映画ですわ!」
私の驚き(と若干の興奮)をよそに、カイエン隊長は私をその暗い通路へと押し込む。背後からは、もうすぐそこまで迫った足音と、扉を叩くような乱暴な音が聞こえてくる!
「私の平穏な読書ライフどころか、完全に命が狙われるハードモードに突入してるんですけどぉぉぉぉ!」
暗い通路へと引きずり込まれながら、私は心の中で絶叫する。果たして、私たちはこの追手から無事に逃げ切れるのか!? そして、あの呪いの巻物(仮)がもたらす本当の厄災とは!?
ミレイユ・フォン・ローデル、本日何度目かの人生最大のピンチ(絶賛更新中)! もう、どうにでもしてぇぇぇぇ!
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