ピロートーク

篠原宙兵

事が済んだ後に

「終わって直ぐに煙草吸うような男は嫌われるぞー」


 三時間いくらと言ったピンクな空間での営みを終え、至福の時間だとばかりに煙草に火を付けた瞬間、彼女が文句を付けてきた。


「煙草は、嫌いか?」


「ううん、嫌いでもない」


 なら何故文句などつけたのだろうか。

 こっちも少しばかり文句を言いたかったが、それこそ嫌われる男のムーブなので自重する。


「1本吸うか?」


「吸わなーい」


「そうか」


 嫌いではないが吸いはしないらしい。

 女とは摩訶不思議である。 

 そんな俺の事など知ったことかとばかりに、彼女は俺の膝に頭を乗せ、フスフスと匂いを嗅ぎ始める。


「そんなおっさんの匂い嗅いで楽しいか?」


「うん、楽しいよ」


「よくわからん」


 彼女はにこやかに、そのまま、匂いを嗅ぐ行為を続行する。

 嫌ではないのだが、少しばかり擽ったい。


「ねぇ、知ってる?」


「何をだ?」

 

「 セッタとね、香水が混じりあった匂いってね、物凄い色気を感じるんだ」


 色気を感じる、艶やかにそう笑う彼女自身に物凄い色気を感じてしまったのだが、認めるのもなんとなく癪なのでお茶を濁すこととした。


「小娘が何を言ってるんだか」


「ぶー、これでも百戦錬磨だし!」


「それは今の1戦だけでよくわかった」


「ふーん?」


 疑わしいとばかりの声色でどうでも良さそうに彼女は答えた。


「ま、本当のことっぽいし許してあげるー」


 彼女は適当な返事をしつつ、フスフスと彼女に嗅がれることによって元気を取り戻してきてしまったナニかをツンツンとしはじる。


「おじさん、彼女とかいないのー?」


「いたらこんな事やってない」


「ふーん?」


 もう恋愛なんて歳でもない。

 一時的な快楽を求めるだけで十分だ。


「なら私が付き合ってあげようかー?」


「……心にもないことは言うべきではないぞ」


「本心だよー?」


「無理だな。俺は独占欲が強いからこんな遊びはやめさせるぞ」


「んー、それでも構わないってか、別に好きでこんなことやってる訳じゃないし?」


「好きでやってるんじゃないなら金か?」


「んーん、寂しいからやってるだけ」


 …………それを一般的に好きでやっている言うのではなかろうか?


「一心不乱に私を求めて貰えると寂しさが紛れるんだ。あ、そういう意味じゃ結局好きでやってるって事になるのか」 


「お前程の美人さんならこんなことやらなくても求めるまでもなく男に相手されない時間はないだろ」


「そんなこともないよ」


 寂しそうに彼女は笑うが、正直疑わしい。


「あ、信じてない顔してる」


「それは、まぁ……」


「時間かけて口説かれてもね、事が終わった瞬間興味を無くすような人って多いんだよ。ヤるまでに全力を出して釣ったあとは餌を上げないようなの」


 ……耳が痛いな。


「だから最初から体ありきで行こうかなーって思って」


「行動が大胆すぎる」


「エッチなことも嫌いじゃないしー」


 彼女は笑いながら俺のをツンツンしている。

 つんつんされる度にピクンピクン反応してしまう。


「この、1勝負終わった後にだらけながらくだらない話をする時間も好きなんだ。それこそヤる前にカフェや居酒屋で話すことなんかよりもずっと」


 所謂ピロートークって奴がお好みらしい。

 俺もこの時間は嫌いではない。


「おじさんはちゃんと話に付き合ってくれるから好き」


「……すぐさま煙草に火をつけたクソムーブをカマした後なんだが?」


「酷い人はもう終わったから話しかけるなって感じだけどおじさんはそれが無いし。なんならまだまだ元気だし、ポイント高いよ!」


「お前みたいなのがいたらすぐ元気になっちまうだろ」


「そうとも限んないよー」


 とても嬉しそうにツンツンしている。

 もう既にツンツンされてもピクンピクンともしないレベルでガチガチである。


「どんだけギラついててもさぁやるぞって時に勃たない人も案外多いし」


「多いのか」


「うん、多いよ。そんな人に限って君が可愛すぎて緊張で……とか馬鹿の一つ覚えみたいに言うんだもん。ちょっと失礼だと思わない?」


「確かにそれは失礼だとも思うし少しばかり情けないな。あと、俺は自分しか知らないがお前を前に勃たないなんてことは正直信じ難いぞ」


「結構多いんだよ。そんでもって他にも私が頑張ってお手伝いして、さぁゴムつけるぞってタイミングでしおしお〜ってなっちゃうのも結構いるよ。ま、明らかに慣れてないなーって感じの人に多いしそういうのは仕方ないんだけどさ」


「…………いい女だな」


「でしょー? その点おじさんはこうして1回終えたあとも私でビンビンだからかなり高評価! 男らしさが凄いよ!」


「褒めてもらってあれなんだが、これは喜んでいいところか?」


「もちもち!」


 にこやかに明るい感じに口ではそう言いながら手つきの方はとても妖艶になってきた。


「おじさんも、そろそろ耐え難くなってきてそうだし二回戦行くー?」


 手だけではなくペロリと劣情を煽りながらそういう彼女に俺は返答する。


「煙草吸った直後だし歯位はみがいてこようか?」


「いーよ、別に。おじさんも舐めた後にキスしても嫌がんなかったし私も全然へーき!」


「そうか」


 そして俺は誘われるがままに2回戦へと突入していくのだった。


 

 

 

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ピロートーク 篠原宙兵 @tyuhei

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