謎
……何だかんだ言いながら、結局また遅くまでやり取りが続いてしまった。
”保護者的な立場” としての固い決意は、一体どこへやら。我がことながら本当に情けない。
……いや。
悪いのは俺だけじゃない。
高森だって悪い。
俺はあらかじめ「今日はあまり遅くならないうちに終わろう」と伝えて、メッセージを始めた。ちゃんと時計を気にしながら、頃合いを見てキリを付けようと試みた。
何度も。
何度も。
……なのに。
俺が「じゃ、そろそろ……」と打とうとする度に「ところで……」と、高森の方から次の話題を振ってくる。それされると無視することもできないから、やむなく俺もメッセージを返すしかないわけで。
そして、その話題にキリが付きそうになると、再び高森から「ところで……」と次の話題が振ってきて。それされると無視することもできないから、やむなく以下略。
そんなこんなで、結局。
いつまで経ってもいつまで経っても、メッセージが終わらなかった。
そして迎えた、月曜日の朝。
今、目の前には俺の自転車。
そして隣には、見慣れた高森の自転車。
「……。」
こんなことで、本当にいいんだろうか?
俺は……。
◆◇◆◇
帰り道。
電車に揺られながら、ずっと考えていた。
どうしたら、高森とのメッセージのやりとりを、良い頃合いで終わることができるんだろうか?もしくは「ここで終わりにしよう。」と、思わせることができるんだろうか?
何しろ、話題にキリが付きそうになると、絶妙なタイミングで新たな話題を振ってくるんだよなぁ……。
それを無視して、一方的に俺からメッセージを打ち切るのもなかなかハードルが高い。
(……あれ?)
その時、今更ながら違和感に気が付いた。
(高森って、こんなに強引なタイプの子だったっけ……?)
帰り道を一緒に歩く時は……まぁ確かに、主に高森が喋って、俺がそれに相槌を打つ流れが多いけど。
でも、高森だけが一方的に……って訳ではなかったはずだ。話題が途切れることだって、当然ある。
そんな時、高森が無理に話をつなごうとするような印象はなかった。
「……。」
アプリを開いてメッセージの履歴を読み返すと、改めてその違和感に気付かされた。あまりにも話題のつなぎ方に無理がある。
まぁ単純に「ストレス発散に、メッセージを続けたかっただけ。」という可能性も無いとは言い切れないのだけれど……。
でも昨日、俺は最初に「今日はあまり遅くならないうちに、終わろう。」とハッキリ伝えているのだ。
高森は、そんな俺の言葉を理解できない子ではない。むしろ普段の高森なら、俺の意図を汲んで自分がどうあるべきか考えてくれる子だと思う。
……にも関わらず。
ここ数日。高森はやけに強引にメッセージを続けようとしている。
そこには、何か意図が隠れていたのだろうか?もしくは、何が彼女を突き動かしていたのか?
……。
でも結局、答えを知っているのは彼女だけだ。どんなに俺が考えたところで結論は出ない。
もし仮に答えが出たとしても、それが正しいかどうか俺にはわからない。
でも。
そうであるなら。
無理にメッセージを打ち切ろうとするのも、良くないのかも知れない。
もし、彼女が意図して話を引き延ばしていたのだとすれば、そこには何らかの事情が隠れているはずなのだから……。
なら、俺のすべきことは何か?
少なくとも、メッセージをやめることではないんじゃないか?逆に、高森の意図や事情をできる限り拾って、寄り添ってやることじゃないだろうか?
つまり。
……そこまで考えた所で、電車が駅に着いた。改札に向かう人波に乗って、俺も降りる。
いつもの時間。
いつもの駅。
いつもの駐輪場にある、俺の自転車。
「……。」
そこには再び、付箋紙が付いていた。
幡豆さんへ
今日で折り返しです。
あと2日。頑張ります! みやび
……そうだな。やっぱり。
ついに自覚せざるを得なかった。
どうやら俺、致命的に高森に甘い。
おそらく、「嫌われてでもメッセージを打ち切る。テスト前だから早く寝せる。」なんて決めたところで、たぶん実行できないだろう。
何故なら俺は……。
「はぁ……。」
溜息とともに付箋紙を剝がすと、昨日と同様、カバンの中にそっと仕舞った。
……やっぱり、
捨てることはできそうにない。
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