まとまらなくて、落ち着かなくて
いつもの時間。
いつもの駅。
「……あれ?」
ふと気づいた違和感に、思わず声が出た。
いつもの駐輪場。
そこに高森の姿がない。
……ついでに自転車もない。
一瞬、場所を間違えたのかと思って辺りを見回したのだけれど。目の前にポッカリと空いた駐輪スペースが、その可能性を否定していた。
ここは、いつも高森が自転車を止めている場所だ。間違いようもない。だって、俺の自転車の隣なのだから。
知り合ってからここ数週間。高森はいつだって俺より先にここへ帰って来て、そしてここで俺の帰りを待っていた。
しかし今日、ここには高森はいない。自転車もない。つまり、先に帰ったのだろう。
なぜ……?
いや、別に約束しているわけでもないし。だから先に帰ってくれて、何ら問題はないのだけど。
ないのだけど……。
「……。」
さりとて、ここでぼーっと突っ立っていても仕方がない。ここに高森の自転車が無いということは、高森は既に帰ったのだから。なら俺も、帰るしかない。
自転車を引き出して出口に向かうと……カラカラと車輪の音が、妙に耳についた。
自転車を押して歩いてるんだから、音がするのは当然なのだけど。でも、こんなに大きな音だったろうか?
当たり前の音が、やけに大きく聞こえる。それくらい、久しぶりだったんだろう。一人で歩く帰り道が。
駐輪場を出て、自転車を走らせて、赤信号で止まって……つい考えてしまう。
何で今日は先に帰ったんだろう?
何かあったんだろうか?
頭をよぎるのは、そんなことばかり。
当然、答えなんて出る訳もなく。信号が青になって、再び自転車を走らせる。その繰り返し。
自分でも信じられないことだけど。
何だか、心にぽっかり穴が空いた気分だった。
要はそれくらい、高森と一緒に歩く帰り道が俺にとっての “生活の一部” になっていたらしい。
「と、言ったってなぁ……。」
俺と高森は、家族でも恋人でもない。
所詮、ただの知り合いだ。
なのに毎日会って、毎日話して。
そうして毎日、一緒に帰る。
そんな状況を、すっかり当然のように思ってしまっている自分がいて。冷静に考えれば、そっちの方が変な話で。
……でも。
もし、それがありうるとすれば?
それは、どういう状況だ?
「……。」
思考が変な方向に走りそうになって。
慌てて打ち消す。
おいおい……。
いったい何を考えているんだ?俺は。
相手は未成年だぞ?
それも一回りも年下の。
俺と高森は、そういう関係であってはならないんだっての。それを認めてはいけないんだっての。
……そういうことだ。
「……。」
まだまだ暴走しそうになる思考を、必死に抑えつけながら。さらに力をこめてペダルを漕ぐ。
認めることは出来なくて。
でも、蓋をすることも出来なくて。
いったい……何を考えているんだか。
俺は。
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