■ Weekend: What She Couldn't Say
***
「……。」
ドアを閉めると、
「カチャン」という音だけが玄関に響く。
今、この家には
「ただいま」も「おかえり」も無い。
それは、私の望む平穏ではあるけれど、
淋しくないと言えば、それはウソになる。
……でも。
とりあえず、模擬試験は無事に終わった。
あの人からのプレッシャーは、
いつもどおりだったけど。
でも、不思議なことに、
今回はとてもリラックスして受験できた。
いつもみたいに、
押しつぶされる様な恐怖感はなかった。
「……。」
ふと、一人の顔が浮かぶ。
いつも駐輪場で会う、不思議な人。
普通、赤の他人が困っていても。
そこで声を掛けたりなんて、しない。
少なくとも、私には無理。
……だから私も最初は警戒していた。
声をかけてくるとすれば、
きっとそれは “下心” だと思ったから。
なのに。
その人は何の見返りも求めず、
私を手伝ってくれた。
そして名前も告げずに去って行った。
まぁ……代わりに、名前の入った
“落とし物” をして行ったのだけど。
だから、その人のことが気になった。
もう一度会って、きちんとお礼を言って。
話をしたくなった。
……。
これがどういう感情なのか。
まだ、自分でもよくわからない。
でもとにかく今、週明けが待ち遠しい。
今度はどんな話をしようか。
『♪♪~』
……でも。
そんな私の幸せな夢は、
突然鳴った着信音ひとつで。
いとも簡単に覚めてしまうんだ……。
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