第2話 川を流れる死体
そんな仙人峡というところは、今ではパンデミックも一段落したことで、人数制限もなくなったので、かつての賑わいを取り戻したといってもいいだろう。
「キャンプというと、時期がある」
ということで、冬の時代のキャンパーは、どうしても少なくなっただろう。
しかし、最近では、
「一人○○」
「ソロ○○」
ということで、任期があるものが増えてきた中に、
「ソロキャンプ」
というのがブームになったりしたことで、
「そもそも、ソロというだけに、一人で静かに行う」
というのが、そのメリットだった。
しかも、最近では、
「ドラマやアニメ」
さらには、バラエティ番組でも、
「ソロキャンプ」
をテーマにしたものが増えてきた。
ということで、
「キャンプ場に来る人も増えた」
ということである。
それも、季節にかかわりなく、冬でもである。
「冬の方が人が少ない」
ということでの人もいることだろう。
さらに、冬の方が空気が澄んでいるということで、
「景色を堪能できる」
と考える人も多く、そうなると、
「プロキャンパー」
と言われてもいいレベルの人も多いということであろう。
キャンプ場には、炊事場なども用意されているが、河原もあり、そこでキャンプをしてもいいということになっている。
河原専用のキャンプ広場もあり、そこでは、釣りを楽しむ人が多いのであった。
「山のキャンプ場と、河原とでは、ソロと団体の比率としては、どうなのか?」
ということになれば微妙であるが、
「同じ人が、今回は山。今回は河原」
という感じで、使い分けるという人も結構いるのであった。
そんな仙人峡の河原のキャンプ場を今回利用しているキャンパーは、二組だった。
片方は、ソロキャンプであったが、もう片方は、男女のカップルであった。
「年齢的には夫婦なのかも知れない」
と思えるくらいで、もし夫婦だとすれば、
「子供はいないのではないか?」
と思えた。
子供がいれば、育児に大変な時であろうから、キャンプなどしているん場合ではないだろう。
しかし、それも、子供を預かってくれる祖父母のような存在がいれば、不可能ではない。果たして、このカップルはどれなのだろう?
ソロキャンプの人は、学生であろうか? 二人のカップルに比べれば明らかに若い。
そして、二組ともそれを分かっているのか、ソロキャンパーが敬語を使っているのに対して、カップルの方は、彼に対して、ため口だったのだ。
そっちの方が見ていても違和感がないので、
「お互いに問題なければ、それが一番だ」
といえるであろう。
カップルは、それぞれに協力してのキャンプで、どちらかというと、
「まだ素人なのかも知れない」
というようなぎこちなさがあり、逆に、ソロの彼の方は、
「何をするにも手慣れていて、その分、プロの裁きが感じられ、頼もしい」
と感じさせるのであった。
実際に、二人のカップルは、彼のことを、
「頼もしい」
と思っていて、二人になった時、
「お隣キャンパーさんが、手慣れている人でよかったわね」
と女性の方が言うのに対し、男性の方は、臆することもなく、
「そうだね」
と答えた。
プライドのある人だったら、そこで少し憤慨した態度をとってもしかるべきだが、この、
「どちらとも取れない」
という態度は、彼女に対して、どのように感じさせたのだろうか?
かといって、男性の方は、冷めた性格ではなさそうだ。
彼女の方は、結構話題をふってくる方だが、それを無難に返している。それを見ると、
「口下手というよりも、話題性というものに乏しいだけなのかも知れないな」
と考えると、
「彼女の方に話題があるんだから、凸凹コンビに見えるけど、それはそれで、うまく歯車が噛み合っている」
ということになるだろう。
この発想は、実は、ソロキャンパーが感じている、カップルの印象だった。
それぞれに、悪い印象を持っているわけではない。ただ。ソロキャンパーの方は、話す相手がいないだけで、その発想は、
「自問自答を繰り返している」
といってもいいだろう。
それが、二組の間での問題であり、
「お互いに知らない方がいい」
というわけではなく、
「このことを相手が知れば、相手も安心するだろう」
というような、
「実にまれなケースだ」
ということになるだろう。
逆に。これくらいの人間関係というものが、世の中にもっと増えれば、
「人間関係」
というもので神経をすり減らしたり、
「人間不信」
なるものに陥る人は少ないだろう。
もっといえば、
「精神疾患」
などと呼ばれる病気も減って行き。その分、
「住みやすい世界になる」
ということだろう。
しかし、下手をすれば、
「国家や自治体」
などというものが信じられないということが今回の、
「世界的なパンデミック」
によって分かったことで、
「すでに、手遅れだ」
というほどの状態になってしまうということだろう。
だが、少なくとも、ここのキャンプ場は実に平和で、お互いに、
「相手の自由は尊重する」
という状態でありながら、
「できる時間は共有したい」
という気持ちがあるのか、
「お食事、ご一緒しませんか?」
と言い出したのは、女性からだった。
このような雰囲気で、女性から言い出すというのが一番しっくりくることであり、このカップルは、それだけ、人間関係においては、気を遣うことに長けている人たちだといってもいい。
それぞれ。自分たちの分だけしか用意していないはずだったが、
「2+1=3」
という公式を、うまく使うということで、拘留が生まれるというのは当たり前の発想だといってもいいだろう。
ただ、
「発想が凝り固まってしまい、世間の常識というものを最優先で考えてしまう人には、このような機転が利く」
ということはないといえるだろう。
逆に、
「これだけの機転が利かないと、キャンプというものは成立しない」
ということであり、逆にいえば、
「機転が利く人でないと、キャンプができない」
あるいは、
「キャンプに行こうという気が起きないのではないか?」
ということになるであろう。
キャンプ場が自分たちが考えているよりも静かで自由だ」
と思えるからできることであり、
「自由というものの本当の意味を分かっているから、見ず知らずの相手であっても、気兼ねなく気を遣うことができる」
ということになるのであろう。
その日は、夕食前に、
「釣りでもしませんか?」
ということで意見が一致した。
そもそも、河原でキャンプする人は、基本的に、
「釣りを楽しむ」
ということを目的にしている人が多いだろう。
しかし、この二人は、
「私たち、釣りは初めてなの」
ということであった。
相変わらず、話をするのは女性側で、それに対して男性が、助言をしているとか、女性が、意見を求めるということをしているわけではなかった。それを考えれば、
「このカップルは、夫婦であろうがなかろうが、息がぴったりであるということに変変わりはない」
ということであった。
だから、ソロキャンパーも安心して、女性に話しかける。
知らない人がみれば、
「どっちが、彼女の連れか分からない」
ということになるか、それとも、
「男二人に女性が一人」
という
「三人のグループではないか?」
というどちらかに見えることだろう。
それこそ、食事の時間の団欒が、まさにその雰囲気を醸し出していた。
食事の時間になって、やっと、男性が口を開いた。
二人は、
「県内の商事会社に勤める仲間だ」
ということであった。
ソロキャンパーもその名前は聴いたことがあって、
「ああ、あの企業ですね?」
ということで、
「地元では、その業種としては、大手だ」
という認識を持っている会社だったのだ。
「私の方は、こじんまりとしたオフィスに勤めているので、対照的というところでしょうかね?」
といって笑顔で話をしていたが、彼はソロキャンパーというだけあって、
「あまり人の多いところは苦手なのかも知れないな」
ということで、見るからに彼は、
「適材適所の会社に勤めているんだな」
と感じたのであった。
適材適所という意味では、
「自分たちはどうなのか?」
と思ったが、
「傍からはどう見えるか分からないが、自分たちは、あまり今の会社に満足しているとは言えないかな?」
と感じているようで、ソロキャンパーを見る目が、どこか羨ましいという目で見えているのではないかと感じたのだ。
その日は、魚が思ったよりも釣れず、期待外れだったという思いもあったが、話が弾んだことで、すぐにお腹がいっぱいになった。
「解放感からの胸がいっぱいだ」
ということになるのだろう。
元々、このソロキャンパーの人も、最初は、友達とのキャンプから始まった。最初から、ソロキャンをするほど、
「他人と一種にいるのが嫌だ」
というタイプではなかった。
「何かがあったから、一人がいいんだ」
と思うようになったのだ。
そうでもなければ、同じキャンプ場でもう一組しかいない場合、その
「お隣キャンパーさん」
が、
「せっかく一緒になった縁なので、ご一緒しましょう」
といってきたとしても、
「はい、そうですか?」
とは言わないだろう。
「せっかくですが、私は一人がいいので」
と、相手に井山思いをさせても、初志貫徹を貫くはずである。
「そうでなければ、自分が自分ではなくなってしまう」
というくらいに感じるだろうからではないだろうか。
しかし、このソロキャンパーは、隣の親子と仲良くキャンプをすることを選んだ。それは、
「かつて、人とのキャンプの楽しみを知っているからだ」
ということになるだろう。
「では、なぜ、一人キャンプを選んだのだろうか?」
それは、
「何かがあって、人とは煩わしいと思うようになった」
ということであり、
「その何かというのは、人間関係によるものだ」
と考えられる。
また、他のパターンとしては、
「何かの事件があった」
ということ。
あるいは、
「裏切られた」
と感じたこと。
考え始めるときりがないともいえるだろう。
そこには、
「人間の感情の数だけ、理由というものが考えられる」
といっても過言ではないからだった。
だから、
「他の人がその理由を詮索する」
ということは、
「時間の無駄になるのではないか?」
といえるだろう。
その日の夕餉は、結構楽しかった。適当に酒も飲んだので、夜は結構早めに眠ったような気がする。
「いつ眠りに就いたのか覚えていない」
というほど、疲れていたということで、おかげで、
「ぐっすり眠れた」
といってもいいだろう。
朝は結構早く目が覚めた。ただ、何度か夜中に目を覚まし、何度となく、眠りに就いたことで、時間の感覚が少しマヒしていたのかも知れない。
「そろそろ起きるか?」
と思った時は、時間的に、まだ早朝の5時くらいかと思っていたが、時計を見ると、7時前くらいになっていた。テントの外に出てみると、すで夜は明けていて、
「おはようございます」
と、お隣キャンパーさんは、朝食の用意を始めていた。
「ゆっくり眠れましたか?」
と声を掛けられたので、
「ええ」
と答えたが、自分の方が先に起きるつもりだったことで、先を越された気分になり、少し目覚めの気分は、あまり気持ちのいいものではなかった。
彼は昔から、自分がしようと思ってことを先にされたり、指摘されると、ばつが悪いとという思いからなのか、非常に反発したくなる気持ちがあった。
特に、親に対してはその傾向が強く、反発心が大きかった。
だが、それは、今はまわりに対しては、その気持ちが大きい。
「だから、ソロキャンパーになったんだ」
ということを、いまさらのように思い出させることになったのだろう。
「そっか、そうだったよな」
と、感じると、自分で自分を、まるで荷が主を噛み潰したような、中途半端に嫌な気分にさせられたものだ。
お隣キャンパーさんが、朝食の用意をしている間、なかなか目覚めのよくない彼は、目を覚まそうということに苦労しているところで、何やら悲鳴のようなものが、遠くから聞こえてきた気がした。
それは、目覚めの間の特有な感情からで、
「遠くで聞こえたかのように思うのは、なるべく、目覚めの感情を刺激したくない」
という思いからで、一種の錯覚であり、実際には、そのお隣キャンパーさんによる悲鳴だった。
しかし、こんなところで、悲鳴を発するなど、尋常ではないということで、何とか無理矢理にでも目を覚まさせた彼は、表に飛び出した。
そこで、見たのは、何やら、大きなものが川を流れてきたことだった。
それが人間であることは、すぐに分かったが、川から流れてきていることから、それが、
死体であるということも、疑いようがないと思われた。
仰向けになっていることで、胸に刺さっているナイフが、朝日に光っていた。
しかも、川を流れてきたことで、水にぬれているだけに、ナイフの光が鮮やかだったことは印象的だ。
「とにかく警察を」
ということで、警察に連絡をし、
「この間に、朝食を済ませよう」
ということを考えたが、さすがに精神的にも、朝食をゆっくりとできるだけの余裕があるわけもなく、
「何を食べたのか分からない」
というくらいに味がしなかったといってもいいだろう。
山のキャンプ場ということで、近くの駐在所からは、すぐに制服警官がやってきたが、刑事と思しき人がやってきたのは、それから、半時ほどしてのことだっただろう。
「なるほど、このキャンプ場は、このあたりで、川の様子が一変するわけですな?」
というのが、刑事の最初の印象のようだった。
「はい、だから、ここがキャンプ場になっているんです」
とソロキャンパーが答えた。
なるほど、ここは、少し広い川になっていて、水深は結構浅く、河原には石が結構敷き詰められた状態で、少々広いところを作っている。
まわりは、森に囲まれていて、まわりからも隔離されているような感覚なので、
「キャンプ場としては、最高だな」
と、一人の刑事は、ここに、たくさんのテントが密集している状況を想像することができることから、
「なるほど」
と、独り言ちていたのだった。
しかも、それだけの人がキャンプをしているところに、このような死体が流れてくれば、さぞや大パニックになったであろうことは、十分に想像ができる。
それを考えると、
「キャンプ場というのは、時期によって、まったく違った顔を見せるんだろうな」
と感じたのだった。
初動捜査」
ということで、鑑識が入っての、捜査だったが、
「上流から流れてきたのは明らかだが、この上に、殺人現場になるようなところというのがあるんだろうか?」
と刑事が言ったが、それを聴いたソロキャンパーは、
「ここは、これより上流のほとんどの場所は、森の中にあるので、川に近づくことはあまりできないんですが、この川は、名水の一つと言われるくらいの場所ですので、キャンプ場から、上流であれば、数か所、川に近づくことのできるところがあるんですよ」
と言った。
「そこは、一般の人が普通に入れるところなんですか?」
と刑事に聴かれ、
「中には、入口があって、鍵がかかって簡単には入れないところもありますが、一般の人が水を汲みに来れるところがあるので、そこだったら、夜中でもなければ、結構人がくると考えられるところはありますね」
ということであった。
「あなたは、いかれたことあるんですか?」
と言われたので、
「ええ、昨日も、このキャンプ場に入る前に、少々大き目のペットボトル数本に水を汲んでからここに来ましたからね」
というので、
「じゃあ、その時も同じ目的の人はたくさんいたんでしょうね?」
「ええ、それはそうでしょう。それに、たぶん、毎回同じ人だとは思いますよ。案外と同じ時間だったりして、顔見知りも多いはずだと思います」
「なるほど」
といって、刑事は納得したが、死体の具体的な様子は、まずは鑑識に任せて、川の奥に行っているようだった。
「ここまでは、本当に狭い川で、水深も低そうだけど、だから普通に流れてきたものが、ここで広く浅くなったことで、流れ着いたものは、ここで止まってしまうということになるんだな」
と感じたようだ。
「これなら、キャンプ場に向くわけだ。
ということで、もう一度まわりを見渡すと、
「絵に描いたようなキャンプ場というのは、こういうところをいうんだろうな」
と、刑事は感じていた。
「鑑識さん。何か分かりましたか?」
「死因は、胸を刺されたことによる、出血多量でのショック死にほぼ間違いないでしょうな。死亡推定時刻は、たぶんですが、昨夜の夜半ということでしょうね。日付が変わる前後1時間というところでしょうか? 上流から流れてきたわりには、存外にきれいな死体といえるかも知れません」
ということを聴くと、
「じゃあ、この死体は、死体になってここを流れてきて、朝目を覚ましたキャンパーが見つけた時は、すでに夜半から、ここに流れ着いていたということになるのかな?」
というので、
「ええ、そう考えるのが自然な気がします」
「じゃあ、あとは、司法解剖の結果待ちということですね」
「そうですね」
ということであった。
刑事は、次に、
「被害者の遺留品」
を確認することにした。
説明が遅れたが、その死体は女性で、年齢は、20代か、30代というところか、すでに顔色は完全に失っていたが、口紅の深紅の色が、まったく褪せていないことから、余計に悪い顔色が、見ているだけで、気持ち悪く感じさせるほどになっていた。
「この服装」
ということで
「もし、この死体がここで発見されたわけでなければ、服装にまったくの違和感はなかったことであろう」
というのは、その服装が、明らかな、
「OL風」
といってもよかったからだ。
「女性用の紺のビジネススーツ。しかも、ズボンではなくスカートだ」
ということであった。
「この格好。完全に通勤用の制服といってもいいんじゃないかな?」
ということであるので、
「ここに来たのは、誰かと一緒にきたのか、誰かに呼び出されたのかによって、事情がかなり違ってくるんじゃないかな?」
と、刑事は考えたのだ。
近くには、遺留品はなかった。
「川を流れる間にどこかに行ったのか?」
それとも、
「殺害現場に置かれているのか?」
ということであり、殺害現場にあるとすれば、
「バックか小物入れのようなものがあり、その中に入っているのではないか?」
と考えられた。
とりあえず、まずは、
「殺害現場の特定というのが急がれる」
ということになるであろう。
彼女の来ていたビジネスっスーツは汚れてはいたが、
「少なくとも、暴行を受けたという感じではなさそうですね」
と鑑識が言った。
刑事も鑑識も、最初に考えたのが、
「女をどこからか拉致してきて、乱暴した挙句に、刺殺して、そのまま川に流したのではないか?」
ちいうことであった。
それであれば、
「制服を着ている」
ということの辻褄は合うわけであり、そうなると、
「どうしてわざわざ川に流す必要がある?」
ということになる。
どうせなら、ここのように、森の中にある場所という、死体を隠すには格好の場所があるわけで、
「埋めてしまう」
ということが一番犯人にとって、都合がいいといえるはずだ。
捜索願は出されるだろうが、警察が、この場所にたどり着くということは、誰か目撃者でもなければありえない。
それを考えると、
「死体遺棄事件どころか、殺人事件などということになるわけもなく、その他大勢の、失踪事件として、迷宮入りする」
ということになるだろう。
ということは、
「犯人にとって、死体を隠すという意図は一切なく、逆に死体が見つからなければ困る」
ということを思うと、考えられる動機はないわけではない。
「保険金詐欺」
あるいは、
「遺産相続問題」
という、どちらにしても、
「金がらみによる犯罪」
ということになるのではないだろうか?
「犯人にとって、死んだという確証がなければ、動機もないということで、やはり、身元の確定が、最優先だ」
ということになるだろう。
ソロキャンパーさんが、ちょうど、この辺りの地図を持っていたので、そこには上流の水くみ場というものが示されていることで、刑事も自分たちの地図に、そこを明記したのだった。
第一発見者に、前日からの行動や、大体の事情だけは聴いておいた。
その話による限り、
「彼らが、この事件に関与していることはないだろう」
ということで、あくまでも、キャンパーさんは、
「第一発見者」
ということで、しかも、実際の犯行現場がここではないということを考えれば、今のところ、聞ける事情は限られているということであろう。
一応、住所、指名、連絡先くらいは聴いておいて、
「もし、何かございましたら、連絡を取るということで、今日のところは」
として、第一発見者は、お役御免ということになった。
しかし、いくら、第一発見現場とはいえ、事件に関係のある場所ということで、さすがに、
「このままキャンプを続けるということはできないだろうな」
ということで、キャンプもお開きになるようだった。
「ちょっと気の毒だな」
と刑事は感じたが、
「まあ、これも仕方のないことだ」
と後ろ髪をひかれながら、とりあえず、最優先である、
「犯行現場の特定」
を急ぐことにした。
地図に示された場所は三か所、そこには、赤い×印があり、その中の一つは、その×印のまわりに、〇印が書かれていた。
「この場所が、彼の実際に水を汲んだ場所になっているんだな」
ということで、そのまわりを見ると、
「ああ、なるほど、ここが一番駐車場から、川に入るまでに近そうだな」
ということで、安易な気持ちでその場所までいったが、実際には、想像以上に、厄介なところのようだった。
というのは、
「地図だけでは、想像もつかない」
というほど、駐車場から川までは、結構きつい階段になっていた。
「地図には等高線があるものだが、こんなに短い距離で等高線なんて、あってないようなものだ」
と感じた。
しかも、その川の奥は、滝のようになっていて、急流であるということもあってか、結構な轟音と、川面に打ち付ける水の勢いが激しいからか、まるで、霧がかかったかのような場所は、想像以上に冷たい場所だった。
「真夏だったら。気持ちいい」
といってもいいだろう。
しかし、実際にそこまでくると、
「急な階段を昇ったことで掻いた汗が、今度は滝による湿気と湿気によるべたべたさによって、一気に冷やされることで、
「身体がまるで鉛のように重たい」
という錯覚に駆られるのを感じるのであった。
なるほど、確かにここにやってくる人は、キャンパーが言っていたように、結構いるようだ。
その証拠に、駐車場には10台以上の車が止まっていて、実際に水を汲んでいる姿を、車の台数から想像してみると、
「彼の言ったことも、まんざらでもないだろう」
と感じたのだ。
だが、実際に行ってみると、そこには数人しかいない・
「おや? あれだけの車は何だったんだろう?」
と刑事は思った。
疑問に駆られた刑事は、そこにいる人に聞いてみた。
「中茶上にはあれだけの車があったのに、他の人は?」
というと、
「ああ、この場所には複数の水くみ場があるので、それぞれの場所にいるんじゃないかな?」
と教えてくれた。
地図上では、一つしか印はつけられないということであろうが、刑事とすれば、
「それだったらそうと、あのキャンパーも教えておいてくれればいいのにな」
と感じたのだ。
今のように、
「現地で聞けばすぐに分かる」
と思ったからであろうか。
それとも、警察が嫌いで、
「いじわるでもしてやろうと思ったのか?」
とも感じたが、
「まさか、そんな子供のようなことをするわけもないだろう」
と思ったのだが、それはあくまでも、警察側の考え方。
庶民が警察に対して、どちらかといえば、あまりいい気持ちはないということは分かっている。
何といっても、公務というのを鼻にかけていると思っていると感じているからであった。
「同じ公務員でも、役所仕事とは違うのにな」
と思っていても、実際には、同じことを何度も聞いてみたりという、杓子定規なところは、確かに否めない。
それを思えば、
「警察官というのは、因果な商売だ」
と感じるのだった。
警察官が、そこにいた人に聞いた道を歩いていくと、そこは、水くみ場としては、少し厄介なところで、バランスを崩すと、滝つぼに飲まれそうなところであった。
だから、今では、立ち入り禁止の札が立っていて、矢印の標識が立っている。どうやら、別の場所に誘導するようだった。
だが、刑事が気になったのは、その矢印ではなく、立ち入り禁止の柵ができているその先に、石でできた台のようなものがあり、そこに、黒いエナメル性の女性用のハンドバックが置かれていることに気づいたからだ。
日が昇ってきて、明るく感じられる今だから分かるのであり、しかも、他の、
「常連さん」
ということであれば、
「この先を降りていけばいい」
と思うことで、視界は、まわりに及ぶことはないと考えると、誰も何も言わなかったというのも分かるというものだ。
初めてきた場所で、しかも、刑事は証拠を探そうと躍起になっているのだから、すぐに見つけることはできたが、それまでに何人がやり過ごしたかとも思ったが、実際には、そんなにたくさんはいないだろうと感じたのだった。
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