転生憑依したらすでに寝取られていた

花京院典明(はなけいいつかさどるべい)♀

第1話 主人公になっていた

「え」


 俺が一番最初に発した台詞だった。


 俺、というか主人公の部屋。一般高校生のインテリア。俺が生活していた、最低限の家具が置かれた殺風景な部屋とは大違い。


 窓際にベッドが置いてあり、カーテンをきっちりと閉じている。中の様子が見えないようにだろう。


「あら、バレちゃった」

「ごめんなぁ、秀くぅん」


 で、何故か主人公のヒロインと主人公の親友が裸でくんずほぐれつしていた。流石に見た目も中身も思春期に達していたので、彼らが何をしているのかは分かる。正面から組み合い、女の方は男の腰へと両足を絡ませていた。


 俺は思わず手に持っていた学生鞄を床に落とす。顔を俯かせ、肩を小刻みに震わせる。


 二人は悪びれもせず、笑っていた。


 俺は勢いよく顔を上げ、怒鳴った。


「お前ら人の部屋で勝手に盛ってんじゃねぇ! さっさと出ていけや!!!!」

「え」

「えぇ?」


 今度は向こうが固まった。目を丸くしたまま唖然としている。


 乳と下半身丸出しやぞ。さっさと隠せや。


「人のベッドを汚すな。俺が今日もここで寝るってことを分かってんのか!?」

「えーと……」

「いや、そうじゃなくて……お前、彼女を寝取られて悔しいとかそういうのないのか?」


 二人が困惑している。正直、二人の名前は主人公の記憶にある。でも、俺個人がこの二人に好感を全く持っていないから名前を呼ぶ気すら起きない。好感どころか関心もない。


 A子とB太でいいだろ。楽だし、分かりやすい。


「知らん。そもそもA子とB太が今使っているその布団で今日も寝ないといけないことを考えると、早く天日干ししたいんだよ。体液で汚しやがって……お前らも掃除を手伝えや!!!!」

「A子!? 私、由香里ゆかりよ!」

「俺だって湊人みなとだぞ。なんだよ、B太って! 俺の名前、忘れちゃったのか!?」

「知ってるわ! 名前は知ってるが、正直それは今どうでもいい!」

『酷い!!!!』


 酷くない。お前らが主人公を裏切ってる方がよっぽど酷いだろうが。俺はこの世界のことを知ってるし、この世界の人間が自分とは違うと客観的に見れるから、主人公が寝取られてもノーダメージ。


 だってこいつらのことはTVで好きだった女優とかタレントがどっかの誰かと結婚したとかそういうふうな感覚に近いからな。俺としては心底どうでもいい。そもそも俺は芸能人とかが誰と結婚したとしても、何とも思わないからそれ以下かもしれない。


「お前らがこれから付き合うならそれでもいいから、早く手伝え。俺は今夜寝る時にお前らの体液臭い布団で寝たくないんだよ」

「臭くないわよ、私!!!!」

「俺だってちゃんと風呂入ってるわ!!!!」

「知るか! 早く手伝えや!!!!」


 この後、部屋の掃除を手伝わせて、家から追い出した。主人公の母親(憂いを帯びた未亡人の美女)に彼女のA子と親友のB太が肩を落としながら帰った理由を聞かれ、適当な相槌を打った。


 なんか知らんがもう疲れた。転生したらしいけど、どうでもいい。どうせ夢オチだろこれ。

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