りんご王国物語

はつトラ

1章 りんごの国

 りんご王国。直径2kmの円形の国。高さ20mの木製の壁で囲まれた国。壁の外に竜がいるらしい。だから国民は壁の外に出てはいけない。

 まるで国民が壁の中に閉じ込められているような話だ。でもおかしいなんて思ったこともない。それ自体がおかしいと思ったのは壁が崩れてからだった。

 僕は竜を倒したい。竜を倒して国の勇者になりたい。これは昔から抱いている僕の将来の夢だ。竜、それは壁の外にいる生き物だ。口から火を放つ。国の周りをうろついているらしい。

 毎年りんごの収穫の季節になると、国王はりんごを持って竜に近づき、りんごを竜に渡すという。その代わり、竜はりんご王国を侵略しないというきまりらしい。


 その考えがおかしいと思ったのは学校で発表会があった11月17日だった。その日は、学校で将来の夢の発表会があった。僕はとても緊張していた。今はメラが話している。

「私は王家ですが兄がいるのでりんご農家になります。この国で一番すごいりんご農家になりたいです」

 拍手が湧いた。王家だからかみんな必死に拍手をしている。この国は国民の6割ほどがりんご農家だ。

「じゃあ、次はリベラだな」

不意に呼ばれてびっくりした。くじで順番を決めているので順番はランダムだ。少し好意を持っているメラの次で少しうれしい。

「僕は竜を倒したいです。騎士になり竜を倒して、国の勇者になりたいです」

 恥ずかしかったがみんな拍手してくれた。でも、カルだけは険しい顔をしている。どうしたんだろう。

「じゃあ、次はトランだな」

「俺は、父が街の衛兵隊長なので、俺も衛兵隊長になりたいです」

 じゃあ、将来僕はトランの部下だな。将来のことを考えるのは楽しい。


 そんな感じで発表会は終わった。なぜかカルに手招きされた。そういえばカルは僕の発表に拍手してなかったな。何か不満でもあるのだろうか?

「どうしたの?」

「リベラ、本当に竜なんて信じてるのか?」

「えっ、どういうこと?」

「だから、竜がいるかどうかってこと」

「そんなのいるに決まってんじゃん」

 彼は少し黙って考え込んだ後、口を開いた。

「よく考えて。国民が、壁の外に出れないのは何でだと思う?」

「そりゃ、竜がいて危ないからでしょ」

「それだったら竜が壁を越えたら俺らおしまいじゃん」

「まあそうだけど」

 僕は考え込んだ。

「今まで疑問に思ったことないか?」

「ないね」

 僕はあまりにも竜を倒したくてそんな事考えたことなかった。

「この際言うけど俺は外に出たことがある」

「捕まるじゃんそれ」

「そうだけど、てか何で外に出たら捕まると思う?」

「えっ、それは、あれだ。竜に殺されないようにするため」

「外の人は竜が迷信で今はいないことも知ってるんだ。それをバレないようにするため。なあ、いっそ放課後そっと壁の外に出ようぜ」

「壁の外に出れるの」

「ちょ、声がでけえ」

 僕は驚くと声がでかくなる。周りはこっちを向いている。何かメラがこっちに来た。

「やばい。バレたか?」

 カルが小声で言った。

「メラは竜がいないって知ってるのかな?」

「そんなの知ってるに決まってるだろ」

「やばい。来た」

 メラは僕らの前に立ち止まり

「壁の外に出れるの?」

 と、子供のような声で言った。まあ僕らはまだ子供だけど。カルは困ったような顔を一瞬浮かべて、メラに聞いた。

「メラはどうせ外に行ったことあるだろ?」

「ないよ」

「ウソだろ。国王と一緒にりんご売った収入で贅沢してるくせに」

「ちょっと、決めつけは良くないよ」

 カルもメラも少し不満そうな顔をしていたがメラが突然

「じゃあ、外ってどんなところなの?」

と聞いてきた。メラは外にホントに行ったこと無いのだろうか?王家のお嬢さんなのに。

「じゃあ、ちょっと語ってやるかあー」

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