第2話
いやあ困った。どうしよう。
……餓死。空腹で死か。まぁそれも俺らしいっちゃ俺らしいのかな。
死ぬ時でさえ上にはいけないんだな。
そう思いながら近所をふらふら歩いてたら、玄関が開きっぱなしの古い家を見つけた。
……田舎はセキュリティーが甘い。
こじんまりとした木造建の家は見た目からしても家鳴りがすごそうだ。壊れかけている屋根やつたが好き放題はってある外壁から察するに、家を修繕できる人がいないのだろう。
「……ジジイかババアかな……」
つぶやいて、透はにやりと笑った。
この感じ、若者は住んでいないだろう。老人なら透ひとりでどうにでもできる。
全財産寄越せだなんて言っていない。箪笥にでも入っている金を少々いただくだけだ。
どうせ俺は死ぬ身だ。これくらいいいだろう。
そうっと玄関から入り、透はさっと靴の有無を確かめた。
小さな女性もののサンダルがちょこんと置かれてある。色味やデザイン、形からいって高齢者用のもので間違いないだろう。
そしてサンダルはあるが靴がない。……多分、外出中だ。
ゆっくりと家の中に入る。
……温かい匂いがする。
家の中はごちゃごちゃとしていて、どれもこれもまとまりはなく古めかしいものばかりだった。
畳まれずあちこちに置かれた野菜の段ボール。塗装の剥げた木の机。花柄のヤカン……。
透の記憶の中に見覚えがあるものはひとつもないのだが、なんだか懐かしい気持ちになった。
カチコチ、と振り子時計が埃をかぶったまま動いている。ずいぶんと高い位置にあるこの時計の掃除をできる人はいないのだろう。
さて、どの辺に金がありそうかな……と引き出しを漁ろうとした時、玄関から物音が聞こえた。
「あらあ、誰?タエちゃんでも来てるの?」
やばい。
足音がどんどんと近づいて来た。
「今ちょうど裏の畑へ大根取りに行ってたのよう。よかったらタエちゃんも……」
隠れる時間もなく、透は固まったままその老人と目が合った。
……終わった。
このまま通報され、警察行きとなり、山で死ぬことはできなくなってしまう。
餓死よりも最低だ。
どうしよう……と思っていたら、そのおばあちゃんは手に持っていた大根をぼとりと落とした。
「宗介‼︎帰ってきたのね‼︎」
おばあちゃんは涙をいっぱい浮かべ、透に駆け寄り抱きしめた。
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