怪異転生 ~やっと死ねたのに都市伝説として蘇ってしまった~

@kurokiG

怪異始まり

第1話 ソレ

 狭い一室の隅でテレビを見ている。

 テレビでは、悪を懲らしめる正義のヒーローが活躍していた。俺は長い前髪を分けて食いつくように画面を凝視する。


 ヒーローは好きだ。しかし、それだけが理由でテレビを見ているのではない。


 この部屋にはテレビ以外なにもなく、他に行う事など何一つないからだ。

 それ以外にも理由がある。


 アイツに蹴られた腹が痛い。痛さを和らげる方法も知らない。

 この痛みを感じないように集中するしかなかった。


 長時間この態勢でいたため、体が痛い。

 軽くストレッチをしようと立ち上がると首に繋がれた鎖がじゃらじゃらと音を立てた。


 俺はいつの間にか身長が大きくなり、しっかり立ち上がると鎖はピンと一直線に張るようになっていた。


 体を伸ばそうと力んだ瞬間、足に激痛が走った。

 何年も運動をしていないため、足をつってしまったようだ。


 態勢を保つことができずにそのまま倒れ込んだ。

 前に倒れ込むと首に繋がれた鎖に反動が加わり一瞬俺を支えた。

 しかし、俺の体重を支えきれなくなった鎖は根本から壊れて俺は地面に倒れ込んだ。


 「ごほっ!おっ!」


 しばらく人と話をしていなかったためか喉もかすれて上手く声が出ない。


 しばらくの間、地面をのたうちまわっていた。

 疲れてうずくまると、体が少し楽になっていることに気が付いた。

 鎖が取れたため、常に後ろに引っ張られる感覚がなくなっていたのだ。


 これからどうしようか。鎖が壊れたからと言って自由になれるわけではない。

 アイツに見つかれば新しい鎖を付け替えられるだけだろう。

 

 俺は自由になりたい。頭の中では答えは出ていた。


 「死のう。」


 このまま生きていても苦しいだけの人生が待っている。

 死という結論にたどり着くまでに時間はかからなかった。


 しかし、何かが引っかかり実行できずにいた。

 理由を考える。そうか、アイツがのうのうと生きていることが許せないのか。

 俺が死んだところで、アイツはいつも通りに生活をし、卑しい笑みを浮かべながら生き続けるのだろう。

 そんなことが許されるのだろうか。許されるはずがない。

 

 アイツを殺そう。その後に自分も死のう。


 決意を固めてドアを見た。ドアは当たり前だが施錠されている。

 俺はテレビを持ち上げドアになげつけた。

 テレビを持ち上げる度に体が痛んだ。しかし、それ以上に自由が楽しかった。

 10回以上テレビをなげつけるとドアは開くようになっていた。

 もちろんテレビは原型を留めていない。俺は扉を開け外に出た。



 扉を開けると豪華な廊下が目に入った。

 廊下を見るのは久しぶりだ。


 幼少期、まだ俺がソレと言われる前はこの廊下も歩いたことがある。

 豪華な装飾が施された下品な廊下を歩く。角を曲がった先に厨房を発見した。

 幸い、今は誰もいないようだ。

 

 俺は、厨房から包丁を取り出した。

 アイツを殺すための包丁だ。


 厨房を出てしばらく廊下を歩くがアイツは見つからない。

 窓の外を見ると、離れの建物に灯りが見える。

 今日は何かの集まりがあるようだ。


 アイツがそこにいる可能性が高い。俺はその建物に向かった。



 建物に近づくと中からたくさんの人の声が聞こえる。

 なぜか俺は、この先にアイツがいることを確信していた。


 息を整え扉を開ける。

 中には欲望のままに肥えた中年の男達が群れを成していた。男達は一斉にこちらを見た。


 「なぜだ!なぜソレがここに!!」


 一人の男が叫んだ。


 そう、アイツだ。

 

 俺はアイツに向かって歩き出す。

 他の男達は恐れ慄いて俺から離れていった。

 アイツは俺から逃げ出そうとするが無様に転び、地面を這いつくばっている。

 俺はアイツの背中の上にまたがり、包丁を真っすぐ突き立てた。


 アイツの悲鳴が建物中に響いた。

 それでも物足りなかった。俺がアイツに蹴られ、殴られてきた回数はもっと多いのだ。その分ぐらいは耐えてもらわないと困る。

 数回、包丁を突き刺すともうアイツの声は聞こえなくなった。


 「動くな!!」


 警察官が拳銃を構えて警告をしてきた。

 ここにいる誰かが通報したのだろう。


 俺はもう満足していた。

 持っていた包丁を自分の胸に突き刺した。

 一瞬熱いような痛みを感じたが、その後は体全体が冷えていった。

 これで、俺はもう苦しむことはない。最後に初めて笑顔になれた気がする。

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