04.出会い④

「―――嫌だッ!」

「トワコ?」

「ひっ!」

「大丈夫?」


 知らない男に追われ、捕まる夢を見た。

 きっとシャルルさんからあんなことを聞いたせいだろう。

 飛び起きるとすぐにシャルルさんが近づいて声をかけてくれたけど、怖くて手を払いのけてしまった。

 すぐに気づいて謝ると彼は首を横に振り、瓶に入った飲み物を渡してくれる。


「あの、すみません…。怖い夢を見ちゃって…」

「それならいいんだ。はい、果実水だからきっと気に入るよ」

「ありがとうございます」


 手渡されたのはオレンジ色の水。

 悪夢を見て汗をかいていたのかあっという間に飲み干してしまった。


「気に入った?」

「はい、とてもおいしいです」

「それとパンと肉もあるけど食べられそう? さすがにずっと食べてないから心配で…」

「…そうですね、いただきます」

「どれぐらいに分けようか。トワコは口が小さいから小さめに分けてあげる」

「え? い、いや…そこまでしてもらわなくても…。自分でやります」

「僕がしたいんだ。これぐらいの大きさでいい?」


 介護されてる?

 大きいパンを一口で食べれる大きさにナイフで切りお椀に入れる。

 ご飯のように盛られたお椀を受け取り一口食べると食欲が湧いてきた。


「肉も食べる?」

「う、うん」

「干し肉でごめんね。今度絶対に美味しいご飯食べさせてあげる」

「いえ、十分です。あの…今更ですけど、助けて頂いてありがとうございました。それに寝る場所もご飯も…」

「やっぱりトワコは他のメスと違うなぁ。ううん、気にしないで。トワコに好かれたいがためにやってるだけだから」


 ドストレートな物言いに言葉が詰まる。

 何だろう。この世界の人たちは皆こんな感じなのかな。日本人の私にしてみたら慣れなくて居心地が悪い。悪い気はしないけど。

 と言うか、年齢イコール彼氏無しの私にその台詞への返答は難しすぎる!


「申し訳ないけど明日も部屋にいてくれる?」

「は、はい。シャルルさんはどこか行かれるんですか?」

「うん。もっと落ち着ける場所に住みたいから街から出たいんだよね。トワコはどんなところに住みたい? トワコが気に入るところに住もう」

「え? い、一緒に住むんですか…?」


 助けてくれたのは感謝しかないし、何かしらお礼はしたいと思っていた。

 だけどシャルルさんと一緒に住むなんて想像していなかった…。いや、できるわけないよね!?


「トワコは僕が見つけたメスだし誰にも渡したくない。つがいにしてもらえるよう僕頑張るからさ、見てほしいんだ」

「いや…あの…」

「僕のこと嫌い?」

「そういうことじゃなくて…。私、シャルルさんのことよく知らないし、一緒に住むのはその結婚してからのほうが…」

「ケッコンって?」

「えーと、住むのはつがいになってからじゃないんですか?」

「そうだけど、トワコは家がないでしょ?」

「…そっか…」

「僕としては森のほうがトワコのことを守りやすいんだけど…。トワコは森より海が好きだったりする?」

「あのシャルルさん…」

「なに?」

「本当に申し訳ないんですけど…。き、記憶を取り戻したいんで…少しだけ旅?がしたいんですけど…」


 誰にも渡したくないと言ったときの目が怖かった。それにいくら優しい人だとは言え、一緒に住むのは怖い…。

 だったらもっとこの世界のことが知りたいし、……気が引けるけどいつでも逃げれるように外にいたい…。

 外の世界が危険なのは解ってるけどまだシャルルさんのことを信用しきれない。

 何より元の世界に戻りたい。その為の情報も集めたい。

 恐る恐る提案すると沈黙が流れる。


「シャルルさん…?」

「できれば外に出したくねぇんだよなぁ」

「ご、ごめんなさい!」

「いいよ、トワコの望み通りにしよう。確かに記憶も大事だったのに気遣えなくてごめん」

「違うんです! 私のわがままで…! シャルルさんはよくしてもらってるのは解ってるんですけど…」

「大丈夫。じゃあ明日は旅の準備してくるよ。留守番してて」

「あ、ありがとうございます。何かお手伝いしましょうか?」

「え?」

「変なこと言いました?」

「いや…。メスがそんなこと言うなんて…驚いただけ。大丈夫だよ、外は危ないから留守番してくれてる方が嬉しい」

「解りました」

「うん。あ、そうだ。果物もあるけど食べる? それともまた寝る?」


 チラリと外を見ると先程まで明るかったのに少し薄暗くなっていた。

 たくさん眠ったからさすがに寝れないかな。


「いや、眠くないから起きてます」

「わかった。他に何か欲しいものある? 僕はこのあと少し行くところがあるから」

「え、今から!?」

「うん。遅くなるけど絶対に帰って来るから安心して」

「解りました。あの、トイレとかは?」

「トイレとお風呂はあっちの扉だよ。タオル持って来るよ」

「あ、大丈夫です。持ってるんで」

「ああ、トワコの荷物? 珍しい素材だよね」

「そ、そうですかね?」

「でもその鞄だとちょっと持ち歩くのに不便だし…。別の鞄に入れ替えていい?」

「あ、はい。旅をするなら背負えるほうがいいですもんね。荷物も軽くしたほうがいいかな…」

「僕が持つから大丈夫だよ」

「いやいや、自分の荷物なんで!」

「トワコは優しいんだね。でも僕に任せて。それじゃあ行って来るね」


 当たり前のことを言っただけなのに優しい…?

 シャルルさんの言葉に眉をしかめると目を細めて手を振り、部屋を後にした。


「とは言ったものの、どうやって暇を潰そう…。いやその前にお風呂入ろう! さすがに気持ち悪い」


 言われた扉を開けるとトイレと人一人入れるぐらいの木の桶。


「お湯の出し方聞けばよかった…。でもトイレは普通で安心した」

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