第33話
リラの唄が続く中、俺たちは影に向かって突き進んだ。
「トウガ、もう一発いけるか!」
ノシュが叫び、俺は剣を構え直した。
「いける! ノシュ、右から回れ!」
「了解!」
ノシュが素早く横に展開し、俺は真正面から踏み込む。
影がこちらに顔を向けた。
その目の奥に、一瞬だけ迷いが見えた気がした。
俺はためらわなかった。
「ホイサー……命はここにあり!」
声をぶつけると同時に、渾身の力で斬りかかる。
影が呻いたような音を上げ、また後退る。
「効いてる、トウガ!」
ノシュが叫び、脇から斬りかかった。
リラの唄も高まる。
「ホイサー……ホイサー……火よ、力を!」
俺たちの声が、風と雪を押し返すように広がっていく。
影が、ゆらりと後退り、ついに向きを変えた。
「逃げるぞ!」
ノシュが指差す。
影は、雪の中を滑るように遠ざかっていく。
俺は剣を下ろし、息を吐いた。
「……追わない」
「いいのか?」
ノシュが不思議そうに聞いてきたが、俺は頷いた。
「声が届いた。もう、戦う必要はない」
リラが小さく呟いた。
「よかった……」
雪の中で、俺たちは立ち尽くしていた。
風が俺たちの身体を撫で、雪を巻き上げる。
でも、もう怖くなかった。
「トウガ、オレたち、勝ったんだな」
「……ああ、勝った」
ノシュとリラが笑った。
俺も、自然と笑みがこぼれた。
俺たちは守ったんだ。
この村を、この命を。
「戻ろう。皆が待ってる」
俺は剣を鞘に納め、広場に向かって歩き出した。
「トウガ!」
ユイがチセから飛び出してきた。
「無事だったんだね!」
「ああ、無事だ。もう大丈夫だ」
子どもたちもわらわらと出てきた。
「トウガー!」
「ノシュも!」
「リラも!」
皆が駆け寄ってきて、俺たちにしがみついた。
その小さな温もりに、胸がいっぱいになった。
「ありがとう、みんな……」
リラが涙を拭いながら呟いた。
「ここは、あたしたちの家だから」
ユイも叫んだ。
「絶対に守ろう!」
「守るさ」
俺は皆を見渡して、はっきりと宣言した。
「この村は、俺たちの声で作るんだ。誰にも壊させない」
子どもたちが一斉に頷いた。
ノシュがぼそっと呟いた。
「でも、また来るかもな……」
「来るだろう」
俺は正直に答えた。
「でも、恐れるな。声を重ね、命を繋げば、俺たちは負けない」
リラが拳を握った。
「うん、絶対に負けない!」
「オレも!」
「わたしも!」
皆が叫んだ。
雪は降り続いていた。
けれど、俺たちの中にある火は消えなかった。
俺は囲炉裏の前に立ち、皆に向かって言った。
「今日から、見張りの訓練を始める」
「えっ、また?」
ユイが笑いながら聞いた。
「ああ。村を守るために、皆で交代で見張る。子どもたちも、声を上げる練習をする」
「やるやる!」
「ぼくも!」
「わたしも!」
小さな声が、次々と重なる。
「それから──」
俺は続けた。
「新しい祠を作る。村の中心に、大きなものを。声を集めるために」
ノシュが嬉しそうに叫んだ。
「でっけえ祠、いいな!」
リラも笑った。
「祈りがもっと強くなるね」
「そうだ」
俺は頷いた。
「この村の声を、世界に響かせるんだ」
皆が一斉に拍手をした。
雪と風の世界で、俺たちは確かに一歩踏み出した。
命を繋ぎ、声を繋ぎ、未来を織るために。
*
【作者からのお知らせ】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
第1章はこれで完結となります。
本作は、ドラゴンノベルス中編部門コンテストへの応募のため、いったん更新を停止させていただきます。
もし皆さまからの反響が大きければ、コンテスト終了後に連載を再開する予定です。
応援や感想をいただけたら、とても励みになります!
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!
追放された雪祓い師の俺が、極北でカムイと語り最強精霊使いになった件 ☆ほしい @patvessel
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