第27話

 影のような魔霊が何体も地面から這い上がり、砦の廃墟を這い回る。


 金獅子隊の兵たちは剣を抜き、弓を構え、訓練された連携で応戦するも、魔霊たちは物理の一撃を煙のようにすり抜け、すぐに再生して姿を取り戻す。


 「物理攻撃は通らん! 加護がなければ無意味だ!」


 ターニンが怒声を上げる中、俺はすでに次の術式を展開していた。


 「ナーガの息吹、八相調和……顕現せよ、“サティアンの鎖陣”!」


 八つの加護が、俺の周囲に展開する。

 火が前方に焼き払い、水が霧を呼び、風が陣形を守り、地が基礎を固める。

 雷が術の輪郭を描き、幻が敵の認識を撹乱し、光が正義を照らし、闇があらゆる執着を飲み込む。


 それぞれの加護が交差する点に“輪”が生まれ、砦全体を覆う巨大な封陣が浮かび上がった。


 「封じるぞ、動くな!」


 その叫びと同時に、地面に根付いた封印の光が爆ぜる。

 魔霊たちが呻き、暴れ、叫び声のような咆哮を上げながらひとつ、またひとつと封陣に引きずり込まれていく。


 しかし、中央の主塔からだけは、まったく別次元の気配が立ち上っていた。


 「……まだいる。これは“上位存在”だ」


 俺はそこへ歩みを進めた。


 魔霊の大半を封じ込めた今、残された問題は“核”――この瘴気の根源だ。


 階段を登り、崩れかけた主塔の扉を押し開けると、そこには“黒き玉座”があった。


 そしてその玉座に、鎧を纏った何かが座していた。


 骸骨のような顔。

 目のない眼窩に、青白い光が宿り、瘴気が身体から絶え間なく放たれている。


 その姿は、かつてこの砦を守っていた将軍、ジャトゥラン大佐に酷似していた。


 「……お前は、生きていたのか」


 俺の問いに、鎧の影は嗤った。


 「生きてなどいない。だが、死ぬこともできぬ。我は“使命”を全うできぬまま、アスラの残滓に触れ、意志を捻じ曲げられた」


 その声には、怒りでも悲しみでもない。

 ただ、終わりなき義務感と自己否定が渦巻いていた。


 「我が兵は死んだ。砦は堕ちた。それでも私は命じられている。――この地を、守れと」


 その言葉と共に、将軍の影が立ち上がる。


 瘴気を纏った剣を抜き、俺に向かって振り下ろしてくる。


 「ナラヤン・ラーチャ。貴様がこの地を穢す存在ならば、我は貴様を斬らねばならぬ!」


 衝突する刃と刃。

 俺の神印の剣が火と雷を纏い、将軍の瘴気剣とぶつかり、空間が震える。


 「……俺は、穢しに来たんじゃない。救いに来た!」


 その一言に、剣の閃光が増す。


 戦いは、ここからが本番だった。

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