第14話 回帰する視線
ある晩、ミカはふと思い立った。
これまで一度もまともに見たことがなかった、自分自身のAV作品を見返してみようと。
かつての契約事務所に連絡を取り、排泄シーンを絵画作品として描くことへの許可を正式に得た。
過去の記録を、外からではなく、自分の内側から見つめ直すために。
小さなモニターの前に座り、再生ボタンを押す。
画面に現れた若い日の自分は、無言で便器に腰を下ろしていた。
清らかな横顔。何も恐れず、何も偽らず、ただ静かに、自分の身体を世界へと開いていく姿。
ミカは息を呑んだ。
モニターの中の自分は、ただ排泄しているだけだった。
だが、その姿には、どこまでも透き通った“生”が宿っていた。
羞恥も、計算も、演技もない。
自らの存在を疑うことなく、ただ自然の律動に身を任せ、内側から外へと放たれる自己を肯定していた。
排泄するという行為が、こんなにも純粋で、こんなにも美しかったとは──。
今の自分にはもう、とうてい到達できない、生命の原点そのものだった。
涙がまた溢れた。
──これが、私だった。
ミカはモニターを見つめながら、スケッチブックを広げ、震える手でペンを走らせた。
画面の中の自分を、ありのままに描く。
身体の緊張、汗ばむ肌、排泄の瞬間に走る微細な震え。
次々とページを埋める。
それは模写ではなかった。
あの日の自分を、もう一度“生かす”ための祈りだった。
排泄の絵を描く──それは今や、過去の自分との対話だった。
出せなくなった身体。
けれど、確かに“出していた”身体が、ここに存在したという事実を、ミカは改めて抱きしめようとしていた。
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