第3話 初仕事
眠りについていた フェルマはアラームの音で目を覚ます。
アラームを消すため 起き上がり、辺りを見渡す。
オフィスの一室で酒に酔いつぶれ寝ている光景が広がっていた。頭が痛い…二日酔いで間違いないだろう。
「…何だこの酒瓶?!」
歩き出すと辺り一帯には日本酒が何本も落ちていた…そうだ思い出した。あの後ペルツァが自分と酒豪対決をしたんだ。それで…そこから先は覚えてないから多分負けたんだろうな…
そう思いながらアラームを止めて回る。
アラームを止めている時。ふと思ったことがある、オニキスとペルツァが居ないことだ。
皆を起こさないように忍び足で廊下に出る。
2人を探しに行く事にした。
廊下を歩いてる途中。1人の職員を見つける。
「あのー…すいません。オニキスさんとペルツァさんは知りませんか?」
2人に関して聞いてみた。
「ああ、あの人達ならこの時間帯だと訓練所だと思うよ。」
お礼を言い、訓練所へと向かう。
訓練所近くに足を運ぶと爆発する音、重いものが落ちる音、その中に、微かな話し声が聞こえる。
少し考えればわかる事だ、2人は戦っているのだろう。
そう思いながら扉を開けるーー
中は手前に休憩用に作られたであろう場所と同時に、射撃場が広がっており、奥にはガラス張りに真っ白な白い部屋でオニキスとペルツァの戦っている様子が見えた。
2人とも 速かった。
オニキスは片手のナイフだけで飛んでくる氷や炎をまるで当然かのように切り接近する。
ペルツァも負けておらず、銃弾の様に飛ばしながら後ろへ下がる。
オニキスだがそれよりも早く接近する。接近されたペルツァは腕に氷を作りオニキスに殴りかかる。それをオニキスはとっさにナイフで受ける。
「反応速度と能力の使用判断は悪くない。だが、未だ遠距離がその程度だと長期決戦はきついぞ?」
「なら、これはどうだ!」
その答えを出すかのように地面から木が生えてくる。それをエレベーターのように登るペルツァを見ながらオニキスはニヤリと笑う。
「おもしれえ!遠距離戦を見せやがれ!」
そう言い、後ろにジャンプしながら西部劇のガンマンかの如く撃ち始める。
それを生やした木でガードし、弾を撃ち切ったところでまたもや炎が飛んでくる。
「また…いや!炎の中に岩を入れたのか!」
それを見破った瞬間、ナイフの逆刃刀を使い思いっきり打ち返す。その岩は木にぶつかりめりこんだ。
「まだだ!まだこんなんじゃ他のやつを倒すことなんざできねえ!」
銃の弾をリロードし、改めて攻撃し始める。木のまわりを走り回りながら撃ち合いが続いていく。
オニキスが弾を撃ち尽くすと同時に炎、氷、電撃、そして先程の炎の岩をランダムに撃ち続ける。
オニキスは回避とナイフによる受け流しをしながら反撃するタイミングを伺う。
「お前ならこのぐらい受け流せるだろうな!これでも喰らえ!」
ペルツァがそう言うと、木の根元が開き、何か転がってくる。
「ん?なんじゃこれ…あ、やっべ!?」
中を見た途端、全力で逃走を図るオニキス。
転がってくるものをよく見ると氷の中には炎が暴れていた。ゆっくりとヒビが入り、氷が破裂する。その時、氷の破片が辺り一帯に飛び散り、炎が舞い踊る。
「しゃっ!おもしれえ!どんどんこいやあ!」
先ほどの爆弾を更に出されながらも、避けながら反撃の機会を伺っていると、辺り一体が火の海となっていた。木の下にも火は来ていたが、木には火を纏う事はなかった。
「なるほどなるほど…自身の能力で木の耐久性を底上げ、しかもこんな状態じゃあ近接では まず近づくのが難しい…こんな状態じゃ、普通は無理だよな。」
オニキスは状況を飲み込んでいると
「オニキス!お前はその程度で諦めるやつじゃねえだろ!どうせ策を練ってるんじゃ無いか?」
オニキスはそれを聞いてニヤリと笑う
「ペルツァ、簡単な話だ。」
そう言い放つと猛ダッシュで炎の中を走る。
「突っきって木を登るか木を倒す!単純だ!」
そう言いながら、氷の爆弾を高速で避けつつ登っていく。しかも上から更に打ち込まれてるのにも関わらず そのスピードは減速せず、いつの間にかペルツァの目の前まで来ていた。
「ちっ、お前やってる事脳筋すぎるんだよ!」
そう言い、先程の氷の腕に更に氷を纏わせて殴る。オニキスはそれをナイフでガードし、お互いに反動で木から落ちてしまう。
地面に着地すると、2人は向かい合って即攻撃を再開するーーー
しばらくして、アラームがなり、2人は戦闘態勢を解く。
「っし休憩だ〜!」
2人は先程の戦いを振り返りながら部屋に戻ってくる。その時、目が合いこちらに気づいた。
「あ、フェルマじゃん、どったの?」
オニキスがキョトンと質問してくる。
「あ、色々と質問がありまして、まずは訓練お疲れ様です。」
そう言いながら先程の空いた時間に買っていた水を手渡す。
「すまんな、ありがとう。」
「感謝するわ…」
2人はそう返すが。
「いえいえ、自分にとって ふたりは 恩人でしかないので…あの会社から助け出してくれたんですから。」
モジモジと呟きながらあの日の事がフラッシュバックする。間違いなく1人なら30を超えてすぐに消えてたかもしれない。そう思うと恐ろしい。
そんなことを考えてたら背中を2人から叩かれる。
「んな事気にするな!俺たちは仕事でやった事だ。それに、今は"仲間"だろ?」
とてつもなく嬉しかった。泣きそうになったがグッと堪える。
「ありがとうございます!自分!精一杯頑張ります!」
背中をさすられながら、一瞬我慢してた涙を流した。この人達の為ならなんでも頑張れる。そんな気がした。
気持ちが落ち着き、休憩スペースで改めて話をし始める。
話をまとめると、オニキス達の手伝いをする為に直接教えてもらうという事だ。
「なるほど…なら、簡単な話だ!ついてこい!」
と…言われ2人について行ったのだが…
「どこですか…ここ…」
いきなり別世界の山奥まで来ていた。どうやらここで仕事があるようだ。
「んじゃ、説明するぞ〜。簡単に言えばとあるやつの見張りと、とある事の確認だ。」
どうやら、異世界転生者を見つけその人を尾行。本来起きるはずのない事件や事故を未然に防ぐのが仕事らしい。
そう説明を聞いてる間に、ペルツァが自分にベルトをつけている。
「お二方、すみません…これは…?」
なんだろう…パッと見は変身ベルトに見える…
「簡単に言えば透明化用の装置だよ!これ着けとけばやばいぐらい強くない限り大丈夫ぶい!」
そうオニキスは話す。
着け終わると、自分たちは人が来るまで話すことにした。
「そういえばオニキスさん達って見た目より年齢上ですよね。何歳ぐらいなんすか?」
「女に年齢聞くなよ〜!」
そう言われながら体を揺らされる。
ペルツァが笑いながら
「ま、減るもんじゃねえしいいだろ。そいつは700万越えで俺は今年で97になる。」
え?!と驚く自分に対して
「正確には710万ぐらいだよっ!」
と言うオニキスは力強く親指を立てながらにっこりとこちらを向く。
あまり実感が湧かないが、2人ともそんなにも離れてたのか。
「凄いっすね…だから初めて会った時あんなに落ち着いてたんですね…」
2人は得意げな表情で返す。
「あ、そういえば異世界転生のアニメとか漫画とか観る?」
オニキスは唐突に話し始める。
「まあ…1ヶ月休んでたんで大体観てました。というか… オニキスさんのおすすめ全部観てたと言うか…」
おかげで休んでる間 掃除とアニメ、漫画鑑賞に浸ってしまった…貯金が減った。
一番減ったのはご飯と漫画購入だな。
ちなみに何故見せたのかだが、
オニキス曰く、小説や漫画になった話は別世界にも影響があるらしい。だから沢山の話を見せたのか…
それを考え込むフェルマにオニキスは
「とりあえず小説とかにあるあるは大体こっちのあるあるでもある…つまりこの先やる事は大体後の話がわかる。」
あれ…今山奥だよな…って事は後で起きることは
「…15歳の少年が来るんですね。」
そう言うと、オニキスは目をキラキラさせてくる…あ、やっぱりそうなんだ…
「オニキス、フェルマ、そろそろ来るぞー。気配が2人だから多分ついてくるのは…メイドだ。」
そう ペルツァが言うと、本当に15歳ほどの少年とメイドが居た…
「本当にあるんだ…異世界に来て実際に見るのは初めてだ…」
よし、と言う表情をしたオニキスが先ほどと同じベルトにカードを入れ、姿が本当に見えなくなる。
「ベルトつけてるやつにしか話し声聞こえないし、気配は感じないし、姿も見られないから早くなれ。やり方は昨日渡したカードを差し込むんだ。」
ペルツァはそう話す。
あ、はい。と答えながらすぐにベルトを使い透明化し、先程の人達について行く。
ふと、疑問に思ったことがある。
「ひとつ聞きたいんですけど…本来起こることが無いことってなんですか?」
オニキスは簡単にまとめてくれた。
本来出会う事の無い人達が出会う。
見つける事が本来ないことが起きる。
次空間ゲートと言う壁に穴ができた状態。
直してる時に直してる人たちに出会ってしまう。
この次空間ゲートがゲームで言うバグらしく、みんな揃ってバグと言っていることが多いとの事。
このバグが1番の問題らしく、直してる間にその世界の住人が来てしまうと更にバクが起きる場合があるとの事。
しかも、バグをこちらが見つける前に見つける輩が居る時もあるのだとか…
「だから本当に嫌になるんよ。百歩譲って分からん奴がうっかりとか、知らずに近づくのはいいのよ?私らが?一生懸命直してるバグを?無理矢理こじ開けたり?挙句の果てにはバグを無理矢理作って移動するやつがおるんよ、まーイライラするわ!!まじ!」
表情が見ずらいがとにかく腹が立っているのは分かる。本当にそういう奴がいるから仕事をしてるんだろうな…
そんなこんな話しながら山小屋が見えてきた、どうやら目的地に着いたようだ。
オニキスはよーく見渡しながら頷く。
「ここかあ…これを見た感じ…"ユニークスキル、〇〇を手に入れたので山奥でスローライフを送ります"だな。」
本当にありそうなタイトルで尚且つ漫画だと100話行く前に終わりそうだな…
「あの、ここまで来たのはいいですが…どうするんです?」
オニキスは振り返りながら、ポケットからスマホっぽいものを取りだし手渡してくれる。
「とりあえず、別れてバグ探したいからこれ渡しておくわ。」
オニキスが手渡したのは…昔の携帯みたいなアンテナが付いているスマホだ。
画面には一本線があり、それが波を打てば近くにバグがあるらしい。
そして、オニキスが1人で山の中を回り、ペルツァさんと一緒に山小屋周りの確認をする事に。
別れた後、ふと思うことがあった。
「あれ?思ったんですけど、オニキスさんって超能力使ってないですよね?無いタイプの人なんですか?」
「あいつは使えないってタイプじゃなくて使わなくてもいいタイプなんだ。なんせ…いや、それは本人から聞いたほうがいいな。一応敵とかでもない限り人のを言うのはマナー違反だし。」
オニキスなら、簡単に言いそうだなあ…そう思い込む。
「なら、ペルツァさんの能力教えてくださいよ!訓練所で見てましたけど色々出てたじゃないですか!火とか、氷とか!」
訓練所のことを聞くとペルツァは
「あーまあ簡単に言うと全ての属性を操る能力だ。まあ物理攻撃、オニキスみたいなナイフで切られたりとかは無理だが。」
聞いただけでも強い…!
「それならペルツァさんが1番強いんですか?」
ペルツァは手を振りながら
「いやいや、俺より強いやつは居るよ。オニキスもそうだが、お前が会ってる奴ならクロユリもだ。」
ペルツァより強い2人…オニキスは確かに訓練所で戦ってたのを見てるから何となく分かる…クロユリって人形飛ばしてたし…そう言う力…人形って言うと呪いとか?
そんな事を考えたり、見回りをして行く事1週間ーー
森の中で観察していると、
貴族の子がまた更に1人、少女を連れて山小屋に入っていった。
「異世界転生者あるある!可愛い女の子が仲間入り〜!」
あるあるが来てテンションが高い横でペルツァは
「今のところ異常は起きてないな…まあまだ1週間だしこんなもんか。」
メモを取りながら冷静に状況把握する…この2人正反対過ぎるなと、そう思った。
「あの〜…いつもこんな感じなんですか?」
ふと、疑問に思った事を話し始める
「メモを取ったり、あの人達の観察するのも分かりますが、そこまで大変だ!みたいな事件とかは起きないんですね。特に見てなくても問題なさそうですが…」
冷静なペルツァがきっちりと話し始める。
「まあ本来1ヶ月かかるからな、適度に確認はして本来あるべき出来事に戻す。例え、俺たちがここにいることがあいつらにバレてもだ。」
そう話しているとオニキスが話に割り込み
「意外と転生者が要領とか分かり始めるのがこのぐらいだけど〜、この感じだと他の転生者達より"あれ"が来るかもね〜。なぁ、ペルツァ?」
未だテンションが高いオニキスは頭を撫で回しながら話し続ける。
「あ、あれって言うのは〜、たまに転生者を襲う輩が居るのよ〜!あんな感じ…に……」
そう言いながら指を指した先を見ると、2人の黒いジャンバーに黒いズボンを着た男がロープと銃らしき物を抱えていた。
「あれ…初めてですけど絶対ここら辺に住んでる人じゃないのは分かります…」
オニキスは冷静に銃を取りだし、2人に呼びかける。
「フェルマはペルツァとあいつらの背中取ってこい。1週間だが教えただろ?最低限は。」
「わ、分かりました!」
いつもの仕事の感覚で答えたら直ぐに森へ入りオニキスとペルツァに教えてもらった通りにことを進める。
ここで、ふと 気になった事を聞いてみた。
「あ、そういえばあの転生者に気づかれそうですが…」
「気にするな、どうせあいつらがここにいる時点で転生者の能力上やつらはバレてる。だが、俺たちはアイツらにはバレてないから透明化は解くなよ?」
はい!と、一声かけ、すぐに背後を取りに行く。
背後をもうそろそろ取れそうなタイミングで、オニキスが黒服2人の前で透明化を解く。
「な!一体どっから現れた?!」
いきなり目の前に現れた事に驚く男達にオニキスは
「んな気にすんなよ〜。とっ捕まって貰えれば仲良くするからさ!な?」
ニッコリと笑いながら拳銃を突き出す、相手も負けじと銃らしき物とナイフを構える。
「お!それジップガン(自作銃)か!バラして移動した後に組み立てれば確かに検問抜けられるかもな!あ、そんでもなあ…結構厳重なんだけどなぁ…あ、仕事は火薬を扱うんやな?」
等と話していると
「うるさい!早くどけ!俺たちはこの仕事で一山当てるんだ!」
それを聞いたオニキスは吹きだす。子供が漫才を観てるかのように、無邪気な笑いをしている。
「そんなの無理だよ~。だって〜、ほら上見てみ?」
そう言うと男二人は上を見上げるが…何も無い。強いて言えば木々があるだけだ。
「あーごめん違ったわ。」
そう言いながらまた指をさし
「お前らの後ろだわ。」
オニキスがそれを言うと同時に、ペルツァと一緒に背後を取っていた自分たちはペルツァが作り出した氷のバットで同時に殴りつける。
ただの氷だが、驚かせるには十分だった。
だが、ジップガンを持っていた男は驚いて暴発させてしまう。
オニキスにあたりそうだったが、すぐにしゃがみこみ、それと同時にクラウチングスタートのような構えを取る。弾丸を避けたらすぐさま走り出した。
ペルツァはジップガンを凍らせ、オニキスがすぐに近づいたと思ったら凍ったジップガンを蹴飛ばす。
そこに驚いてるその隙に自分は一人の男に体重を乗っけて羽交い締めにする。
もう1人はペルツァが手をくっつけた状態で凍らせ、思いっきり地面に蹴飛ばす。
「心配するな、凍傷しないように中に布を入れておいたからな。」
そう話している間に、羽交い締めにしてる男にオニキスが手錠をかけ、もう1人を拘束する。
自分の初仕事だが、問題無くやれた。
捕まえた2人を立ち上がらせ連れて行こうとすると、家の方から声がした。どうやら先程の人達が出てきたようだ。
「あー…私が話しておくわ。お前らそいつらを連れて行ってくれ。」
了承し、自分達は少し先にある車で異世界移動ポットのある場所まで行き、イリュージョンシティへ戻る事にした。
「さて、と…おい!転生者!こいつを見た事はあるな!」
振り返ると、自身の持っていた拳銃を突き上げ、正体を明かす。
仕事はまだ終わらない……
第3話 【完】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3話終了時点
フェルマ「今回オニキスさんめちゃくちゃテンション高かったですね。」
ペルツァ「あんだけテンション高いの久しぶりに見たよ。」
フェルマ「そうなんですね…あ、ところでこのカード。かなり便利ですよね。あのベルトに着けて透明化出来るなんて。」
ペルツァ「ああ、このカード自体がセキュリティになってて、危険な物のほとんどはこれが無いと使えないんだ。ベルトこと、"完全擬態式ベルト"は特に要警戒品になってて、カード刺した状態で、犯罪しようものなら即、刑務所行きだ。」
フェルマ「こう言う危ない物って本当にきっちり管理されてるんですね…」
オニキス「そうしないとやらかす奴は本当にやらかすからね」
ペルツァ「唐突に出てくるんじゃねえ。早くお前は転生者に説明して来い。」
オニキス「へーい。」
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