第11話 休息日
上級魔法を教わってから半年ほどが経過した。
上級魔法はほぼ完璧にマスターし、超級魔法すらも使いこなせるようになっていた。
神話級もいくつか教わり、残るは〈無詠唱〉くらいとなっていた。
剣術の特訓の方も順調に進み、身体つきもしっかりしてきた。
成長期ということもあって、この半年でかなり見た目が変わったと思う。
「今日もサーシャ様とジンさんは森の奥で特訓ですか?」
朝、サーシャとユキハと一緒に朝食を取っている時に、ユキハがそう言った。
サーシャはサンドイッチを咀嚼して飲み込むと、頷いて言った。
「いや。今日は休憩にしようか」
てっきり今日も森の奥で特訓だと思っていたが、サーシャは意外にもそう言った。
俺は驚いてサーシャの方を見る。
「なんだその意外そうな顔は」
「……だってこの半年間、一度も休憩なんてくれなかったじゃないか」
俺の言葉にサーシャは微妙な顔をする。
それから鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「ふん。気まぐれだ、気まぐれ。私が休憩したいから今日を休息日にしようと思ったんだ」
出会った当初の厳しさは少しずつ角が取れ、ちょくちょくデレを見せてくるようになった。
確かにユキハの言う通りだった。
あの時のサーシャはただ俺に気を許していなかっただけなのだ。
そんなサーシャの態度にユキハが小さく微笑む。
「ふふっ。サーシャ様はジンさんが頑張っているのを知っているから、休憩しようと提案しているんですよ?」
「おい、ユキハ。違うと言っているだろう。勝手なことを言うな」
ユキハを睨みつけるサーシャ。
しかしこんなサーシャの姿を見られるようになってきて、俺は正直嬉しかった。
俺に気を許して、認めてくれている。
そのことが俺の心の奥底にこびりついた孤独感を拭い取ってくれた。
「ただまあ……ジンが驚異的な速度で成長していることは認める。これなら私の目的ももしかしたら——」
そう言いながらサーシャは遠くを見つめるような視線になった。
そういえば半年経った今でもサーシャの目的を教えて貰っていない。
どうして俺を育てようと思ったのか。
その理由はいまだ謎のままだった。
しかし彼女が自分から言わないなら俺は無理やり聞き出そうとは思わない。
いつか、彼女の方から教えてくれるだろう。
「しかし……休息日か……」
俺は紅茶を啜りながらそう呟いた。
そんな俺を見てサーシャは目を細めた。
「何だ? 私の判断が不服なのか?」
「あっ、いや、そうではなく、いきなり休憩と言われても何をすれば良いか分からなくてな……」
そう。
ここに来てからと言うもの、ずっと特訓特訓特訓だった。
いざ休憩と言われても何をすれば良いのか分からないのだ。
そんな俺の言葉を聞いたユキハが手を合わせて言った。
「それなら良い提案があります!」
そんなユキハにサーシャは胡乱げな視線を向けて言った。
「良い提案とは何だ? くだらないことだったら容赦はしないぞ?」
「いえ! せっかく休みなのならみんなでお出掛けとか如何でしょうかと思っただけで!」
「はあ? お出掛けぇ?」
ユキハの提案に露骨に嫌そうな顔をするサーシャ。
それからため息をつきながらこう続けた。
「いつも特訓で森の奥まで行ってるし、今さらお出掛けもクソもないだろ」
「だからこそですよ! 特訓ばかりでこの〈白亜の森〉の自然を楽しめていないかなって! どう思いますか、ジンさん!」
そう言いながらユキハはこちらを見てきた。
俺は突然話を振られたことに一瞬動揺しながらも答えた。
「い、いや、確かに楽しめていないかもしれないが……」
サーシャはそう言った俺を射殺さんばかりに睨みつけてくる。
下手なことを言ったら本気で殺されそうだ。
しかしユキハはそんな雰囲気に気がつかず手を合わせて嬉しそうに言った。
「そうでしょうそうでしょう! やっぱりせっかくなら楽しむべきなんですよ! と言うわけで、お弁当を作って森の奥まで行きましょう!」
もう完全にユキハは乗り気のようだった。
そんなユキハを見てサーシャは諦めたようにため息をついて言った。
「はあ……仕方がないな。今日だけ特別だぞ」
「ありがとうございます、サーシャ様! それじゃあジンさんも良いですよね?」
ここで駄目とは絶対に言えない。
それにどうせやることもないし、俺はその問いかけに頷いて言った。
「ああ。良いぞ。確かにじっくりと森を見学したことはなかったしな」
「じゃあ決まりですね! 早速お弁当を作りますので、少々お待ちください!」
そう言ってユキハは立ち上がると、嬉しそうにキッチンに向かった。
そんな彼女の背中を見つめながらサーシャは呆れたようにこう呟いた。
「はあ……森を歩いて見て回るだけって一体何が楽しいのか……。アイツの考えることはさっぱり分からんな」
しかしそう言うサーシャの口元は若干嬉しそうに歪んでいるのだった。
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