ただ彼の横にいたくて、唯俺の側に居て欲しくて

ミスターA-K

僕の隣には誰もいない

 私立川中高校

 そこは僕、不知火恵(しらぬいけい)の通う高校。窓の奥で春風に揺れる桜を横目に2年1組の扉を開ける。新学期が始まり、改めてクラスメイトを見渡すとちらほら1年のころも同じクラスだった人も見受けられる。「また同じクラスだな!」「なー、田中も一緒なら良かったんだけどなー」等々、様々な声が耳に入ってくる。今は唯、この平穏な喧騒が心地良い。

 しばらくして、教壇あたりからテンションの高い男性3人組の会話が耳に入る。

 「氷室さんの隣ゲット!」「うわーいいなー」「代わってくれよ!ジュース奢るから!」「いやだね!第一、先生が決めたことだしー」

 どうやら黒板に席順が乗っているようだ。名前順だと「綿貫」や「渡辺」がずるいからとのことで、すでに担任がランダムで席順を決定していたようだ。僕も黒板周りが少し落ち着いてから自分の席順を確認しにいく。

 ーお、窓際の最後列だと!ー

 内心ガッツポーズをしながら自席の周りのメンツを確認していく。

 別に友達がいないからでも授業中寝れるからでもない。窓の外の風景を眺めるのが好きという単純な理由である。前のクラスにも休憩中普通にしゃべる友達もいたし(放課後遊びに行くほどではないが)、このクラスにも4.5人そんな関係だった人が見受けられた。そして、授業はそれはもう一言一句逃さぬように集中している。僕が小学2年生のころ病気で亡くなった父と、ボロボロに泣く母と姉の背中に誓ったのだ。僕が彼女たちを背負って生きていくために。

 もう誰も不幸にさせない

 のどかな風景と人数上空席である隣を見ながらあの日のことを思い出していた。

 

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