おばちゃん大戦争

Miki

第1話「火曜市、静かなる戦場」

火曜日の午前9時50分。

郊外のスーパー「マルキョウ」に、ぞくぞくと集まる女性たち。

そのほとんどが、主婦歴20年以上のベテランたち。

お得情報には敏感で、チラシの裏に人生の地図が描けるほど。


ドアが開く10時を前に、入り口前には自然とできる列。

無言のようで、どこかピリついた空気。


「…今日はステーキ半額らしいわよ」

誰かがつぶやいた瞬間、空気が一変する。


**田中サチコ(58)**は、3人の子どもを育て上げた肝っ玉母ちゃん。

「家族のために、今日も戦うのよ…」と心の中でつぶやきながら、買い物カゴを両手で構える。


**山田ケイコ(61)**は、退職した夫の年金でやりくりする節約のプロ。

家計簿アプリとポイントカードを駆使して、1円単位で戦ってきた猛者だ。


そして——

「ちょっと、ごめんあそばせぇ〜」と列の隙間をすり抜けるのは、

木村トモコ(72)、元・市議会議員。社交術で他人の懐に入るのが得意な、情報戦のエキスパート。


10時ちょうど。

自動ドアが「ウィーン」と開いたその瞬間、3人の目に映るのは——


「半額ステーキ、本日限り・数量限定・お一人様1パック!」


パック肉の前で、日常という名の戦場が開幕する。

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