第22話 ちゅうちゅう 天side
次の日のお昼休み。
私はお弁当を持ってひとりで体育館裏で座っていた。
私も一緒に休んでずうっと側にいたかったけれど、相楽くんに自分のために休んで欲しくないとお願いされたので、私は渋々頷いて今ここにいる。
けれど私からもお願いをした。それは自撮りを送ってもらうこと。
学校を休むときは連絡することと合わせて、勢いに任せてお願いしたらあっさりと受け入れてくれた!
相楽くん、起きてるかな。寝てるかな。
彼からの自撮りはまだ送られてきていないから、きっと寝ているんだろう。
昨日から思っていたけれど一人の体育館裏はとても静かだ。これまでずっと一人だったときはそんなこと感じなかったのに。
そうだ、と思いついて、私はお弁当を片手に自撮りして彼に送る。
さみしいよというちょっとしたアピールだって、彼は気づくかな。
少しして、相楽くんからメッセージが届いた。
『俺も。いただきます』
私と同じようにお弁当を持った相楽くんの写真付き!
相楽くん、上から撮ってるから胸元の鎖骨がでていて、昨日私が舌を這わせた首筋があらわになっている。
そして胸の大事なところが見えそうで見えなそうな絶妙な写真!!
自分の撮った写真確認してないのかな、刺激が強すぎるよお。
ふー、ふー、と深呼吸して落ち着きを取り戻す。
相楽くんの写真を改めてみると顔の赤みも消えていて、ご飯も食べられるほどに元気そうで良かった。
この写真帰ったら印刷しよう。
放課後の教室。
ホームルームが終わり帰ろうとするクラスメイト達。
その様子に、私は早くしなければと決意を固めた。
そして、目の前に座っている女子生徒に声をかける。
たしか
「
「えっ! えっ! えっ! 私ですか?! な、なんでしょう?!」
彼女はばっと振り向いて、自分自身を指さしながら答える。
なにかしましたかあぁ、とぷるぷると震えていた。
名前を間違えていないみたいで良かった。
けれど随分と怯えているみたいね。
私の麗鷲という名前とこの見た目だからそれも無理もない。
気にしない相楽くんが変わっているだけで。
帰ろうとしていたクラスメイトも足を止めて、事態の行く末を見ようと注目している。
そんな大したことではないのに。
「帰宅する足をとめてしまってごめんなさい」
「め、滅相もないです。謝らないでください!!」
わわわ、と手をぶんぶんと振っている。
なんだか羽をばたつかせているひよこみたいね。
「お願いがあるのだけど」
「麗鷲さんのお願いならなんでも聞きます。この窓から飛べばいいんですね?!」
飛ぶだなんて、本当にひよこじゃないの。
「いいえ。昨日の授業のノートを写真撮らせて欲しいの。私昨日早退したから」
「へ……。そんなことですか?! 喜んで!!」
彼女は素早い動きでノートを広げてくれた。そして昨日の授業の箇所を写真に収める。
これで相楽くんに褒めてもらえるかな。そう思うと自然と笑みが溢れた。
「ありがとう」
「ふわあああ。笑顔いただきましたありがとございます!! 美人すぎ、しゅき」
私が感謝をする立場なのに、なぜか感謝されてしまった。
彼女はちょっと不思議な子かもしれない。
それから私は、咲茉ちゃんから聞いた相楽くんの好きな食べ物を買いにスーパーへ買い物に来ていた。
メロンの形をしたアイスらしいんだけど。
あった。
たしかにこの容器はかわいい。相楽くんも好きなわけだ。
このアイスは調べたら2月から8月に販売しているそう。
体調不良のときに好んで食べていたって聞いたし、もしかしたらその時期にいつも体調を崩していたのかな。
なんて、私の知らない頃の相楽くんを想像する。
私は『たまごアイス』が好き。
先端を切って少しずつちゅうちゅう吸って食べるのが楽しい。
私はお目当ての『メロンボール』とついでに『たまごアイス』を買ってスーパーを出る。
そして、カバンの中にしまうときに、あるものが見えてにやけてしまう。
それは今朝相楽くんから渡された合鍵。
ふふ、ふふふ……。
授業中もお昼休みも、何度も何度もみて触ってはにやけるのを堪えていた。
今は通路で誰もいないから気にすることもない。
相楽くんの家について、鍵を差し込んで開ける。
昨日家事をしている時も思ったけれど、こうしていると一緒に住んでいるみたい。
いいえ、夜になったら帰るから、半分一緒に住んでるみたいで半同棲?
週の半分を一緒に住んでいたら半同棲というのは知ってるけど、憧れから無理矢理に同棲なんて言葉を使ってみた。
だってまだお泊まりなんかできないし……。
相楽くんは気持ちよさそうに眠っていた。
おでこの髪をさらりと撫でて、机の前に座り私は今日撮ったノートを自分のノートに書き写す。
勉強するために長時間座るから、家からクッション持ってきて長居する準備は万端。
彼の好きなものが詰まったこの部屋に徐々に私の色がひっそりと足されていく。
彼がそれを嫌がっていなくて、受け入れてくれるのが嬉しい。
目が覚めた相楽くんは元気になっていた。体温計みて安心する。
これで明日からまた一緒にお弁当やご飯が食べられる。
次は夜ごはんも一緒に食べたいな。
◇
「はぁ……」
家に帰って私は自室で
残念ながら合鍵を返すことになったからだ。
当然だ。相楽くんの体調が良くなったんだから私が持っておく必要はないのだから。
いつか預けてもらえる関係になれたらいいな。
そして気分を取り戻すために私は買ってきていた『たまごアイス』を食べる。
中身はただのバニラアイスで、ゴムの口当たりがあってクセがあるのだけど、子どもの頃を思い出して、懐かしくて美味しい。
私も相楽くんのことを子どもっぽいなんて言えない。
なんて考えていたらスマホに相楽くんから連絡が来た。相楽くんも私のことを考えてくれたようで嬉しくなる。
私は意外と単純な人間だったのかな、なんて最近は思う。
それから、しゅばばと勢いよくメッセージを確認した。
『中間テストが明けたら、一緒に出かけない?』
こ、ここ、これは、相楽くんからデートのお誘い!?
「きゃっ」
スマホに注意を向けていたら、突如、勢いよくバニラアイスがこっちに向かって飛び出てきた。
久々に食べるから忘れていた。
たまごアイスは最後の方にゴムが急にしぼんで中身が溢れてくるんだった。
もう、顔や髪にかかってベタベタだ。
次に食べるときは気をつけようと、私は頬についたアイスを指ですくって舐めとった。
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