第10話 まだいえない言葉
翌日、カズマとめぐみんは、いつものように町の中を歩いていた。
「ああ、今日も暑いな……」
「そうですね。早く帰って休みたいです」
その言葉を聞いたカズマは、ふとめぐみんの表情を見て、少しだけ気になることがあった。
「めぐみん、なんか最近、ちょっと元気ない気がするけど……どうした?」
「えっ? 別にそんなことは――」
めぐみんは、すぐに顔を隠すように視線を逸らしたが、その反応は明らかにおかしかった。
カズマはそのことに気づいて、じっとめぐみんを見つめた。
「なぁ、もし何かあるなら、言ってくれよ」
めぐみんは少しだけため息をついてから、ゆっくりと口を開いた。
「……実は、ちょっと気になることがあるんです」
「気になること? 何だよ、それ」
「……カズマ、最近私と一緒にいる時、少しだけ……遠くに感じることがあって」
「え?」
カズマはその言葉に驚いた。
遠く? そんなことを思わせてしまっていたのだろうか。
「なんで、そんなことを?」
「私、なんだか……あなたのこと、まだ言葉にできていないことがたくさんある気がして」
その言葉に、カズマの胸の中で何かが揺れた。
でも、彼はその気持ちをうまく言葉にできなかった。
「……俺も、めぐみんと同じだよ。何か言いたいことがあっても、うまく伝えられなくてさ」
「カズマ……」
ふたりはしばらく黙って歩きながら、互いの気持ちがじわりじわりと近づいていくのを感じていた。
その時、カズマが小さく笑って言った。
「でも、もしかしたら、言葉にしなくても伝わってるのかもな」
「……伝わってる、んですか?」
「ああ。だって、こうして一緒にいられるだけで、なんか安心するだろ?」
めぐみんは少しだけ考えてから、ゆっくりと頷いた。
「……はい。カズマと一緒だと、なんだか心が落ち着くんです」
その言葉に、カズマは少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
「じゃあ、もう少しだけ、言葉にしなくてもいいか?」
「……はい」
ふたりは、ただ静かに歩き続けた。
言葉にしなくても、心の中ではお互いの気持ちが確かに伝わっている。
そんな、心地よい時間が流れていく。
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