第2話 紅魔族のこだわりと、ふとした優しさ

その日の午後、ギルドを出たカズマたちは、久しぶりに郊外の草原に出ていた。


討伐依頼――とは言っても、近くに現れた小型モンスターの駆除程度。緊張感のない、いつもののんびりした任務だ。


「カズマ、こっちの岩の向こうに、スライムが2匹います!」


「おう、なら適当に弓で撃っとくわ」


カズマが遠距離から矢を放ち、スライムを次々に仕留める。めぐみんはその横で腕を組み、得意げにそれを見ていた。


「弓も随分慣れてきましたね、カズマ。昔のへっぴり腰とは大違いです」


「へっぴりってお前な…褒めてんのか貶してんのか、どっちかにしろよな」


「褒めてますよ。少なくとも私の目には、ちょっとだけカッコよく見えましたから」


「ちょっとだけ、な…」


照れ隠しにそっぽを向くカズマ。そんな様子に、めぐみんはくすっと笑った。


依頼が終わったあと、ふたりは木陰で一休みしていた。


「なあ、めぐみん。お前って、なんでそんなに爆裂魔法にこだわるんだ?」


めぐみんは一瞬、黙り込んだ。やがて、少しだけ遠くを見るような目で、口を開いた。


「それは――私が、初めて魔法というものに心を奪われたのが、あの瞬間だったからです」


「初めてって?」


「昔、紅魔の里にいた頃。師匠が爆裂魔法を放つのを見て、雷に打たれたような衝撃を受けました。あんな美しいものがあるのかと、そう思ったんです」


「…なんか、ロマンチストなんだなお前」


「はい、私は夢見がちで、繊細で、ちょっと詩的な紅魔族なんですよ」


冗談めかしてそう言いながら、めぐみんは少しだけ、優しい目で空を見上げた。


「でも、そんな自分をバカにされることも、昔はありました。『実用性がない』って。『馬鹿げた魔法だ』って」


「そっか…」


「でもカズマは、私の魔法を笑いませんでしたよね」


「そりゃ…お前、楽しそうだったしな。ああいう顔してる奴を、バカにはできねーよ」


「…ありがとうございます。やっぱり、カズマは優しいんですね」


めぐみんの言葉に、カズマは少しだけ顔を赤くしてうつむいた。


「別に優しいわけじゃねぇよ。ただ…なんつーか、そういうの、好きなんだよ。真っ直ぐで、夢中になってる奴ってさ」


「ふふっ。じゃあ、私のことも、ちょっとは好きなんですね?」


「…はぁ!? そ、そういう意味じゃ――!」


「冗談です。ちょっとからかっただけですよ」


めぐみんは、いたずらっぽく笑った。


でもその笑顔には、ほんの少しだけ、嬉しさがにじんでいた。


カズマはそれに気づかず、顔を赤くしたまま、空を見上げていた。

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