第10話 御胸つとふたがりて

【訳文】

 帝は胸がぐっとふさがって、少しも眠ることができず、夜を明かしていらっしゃる。お見舞いの使者が行きかう程の時間も経っていないのに、それでも気がかりなお気持ちをおっしゃっていたが「夜中を過ぎる頃にお亡くなりになりました」と言って泣き騒ぐので、使者もとてもがっかりして宮中に帰ってきた。それをお聞きになった帝の心は乱れ、パニックになり、ただお部屋に引きこもっていらっしゃる。

 帝は光る君を、このまま側で御覧になっていたいけれど、母の喪に服さず宮中にいることは前例がないことなので、退出なさろうとする。光る君は何が起きたのかお分かりにならず、仕えている人々が泣き惑い、帝もとめどなく涙を流しているのを、不思議そうに御覧になっているのだが、普通の場合でさえ、このような別れが悲しくないはずはないのに、まして哀れで、どうしようもない。



「光る君は自分の母親が亡くなったこと、父親が泣いている意味が分からなく哀れです」

「この頃、光る君は3歳。辛いっていう感情も分からんやろなあ」

「今回は平安時代の結婚観について話しましょう」

「この頃は夫が妻の元に通う「通い婚」が一般的やったで」

「表面上は一夫一妻制でしたが、側室はいました」

「正妻と同居し側室の所へは通っていたんやで。春君は通い婚、どう思う?」

「自分が正妻の立場だったら嫉妬しちゃいますね」

「わいは死別した暦君を忘れられない撫子さんと結婚したくらいやから、その辺は嫉妬はせえへんかな。平安時代の結婚観みたいやんとか新婚時代に思ってた」

「そうですか」

「『源氏物語』でも正妻は葵上やけど、光源氏は六条御息所や末摘花、夕顔の元へ通ってたで」

「そして葵上が亡くなった後は紫の上と契りを交わします」

「でも紫式部は紫の上を正妻として明記するのを避けてたんや」

「女三の宮が降嫁してきた時は、彼女を正妻として迎えましたね」

「紫の上の気持ちを思うと複雑やわあ」

「一条天皇は定子と彰子という二后並立をしましたね」

「大河ドラマでは一条天皇が定子を深く愛していたなあ」

「彰子は入内当初は12歳です。幼過ぎて帝も手を出さなかったのでしょう」



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