第2話順番を決めよう

──流石に、昨日はやらかしたな。


ベッドの中、スマホを握ったまま天井を見上げる。

カレーの作りすぎでセフレ3人呼んで、地獄のような食卓を囲んだ夜。

あの“友達ってセフレだけどね”発言は冷えすぎた。結局あの後、冗談ってことにして誤魔化したけど、凄い微妙な空気で食べるハメになったし……うん、反省してる、多分。 


──そして翌日。今は学校の昼休み。


私は七海天音と教室の隅でお弁当を広げている。

彼女は中学からの友人で、彼女が出来ては浮気されてフラれてばっかの不憫な人。


セフレの子たちも好きだし、大事。

でも、天音にはそれとはちょっと違う安心感がある。

詩音にとって、本当に心を許せる“いちばんの相手”は、彼女だけだった。


「……でね、あの人…結局3股もしてたの!酷いよね…でも、結局魅力の足りない、私が悪かったのかもって…」


天音が静かに呟く。

彼女はそうやって、いつも誰かを責めずに終わらせる。

だからこそ、浮気される。


「酷い奴だね、そいつ。私、天音より優しい人に会ったことないし魅力ないなんてありえないよ」


「でもね、優しいだけじゃダメみたい……いっつも私、浮気されてばっかだし……」


そこまで言って、天音は小さく笑った。

彼女のような優しい人間を食い物にする奴がいるなんて信じられない。今度そいつに会ったらとっちめてやろう……結花辺りに頼んで。


─その時、スマホの画面に通知が3つ並んだ。


『今日、2人きりで会いたいです』

『今日の放課後、服でも見にいかない?2人で』

『今日は詩音ちゃんと2人で静かに過ごしたいわ』


送信者:日和、美紅、結花。


(……まじか。3人とも、昨日の埋め合わせをしたがってる……)


モテ期か? いや、セフレ期だな。

全員が昨日のフォローを望んでる。ここで順番を間違えたら、たぶん全てを失う。


私は少し悩んで、順番を決めた。


(美紅はギャルだし、たぶん一番軽い。最後に回しても許される)

(結花は一番めんどくさい。でも、逆に言えば後回しにすると地雷)

(……ってことは、最初は)


「日和、かな」


「え?」


天音がこちらを見た。私はつい、口に出してたらしい。


「ううん、なんでもない。……天音こそ、放課後は?その、今日は焼肉なんてどう?奢るよ」


セフレの子達も大事だけど一番は天音だ。彼女をほったらかして、そういう行為をする気にはなれない。


「……気を遣ってくれてありがと。でも、今日はまっすぐ帰るつもり。今はあんまりそういう気分になれないの」


──昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


天音の言葉に、私はただ小さく頷いた。


そのまま午後の授業。黒板の文字も、先生の声も頭に入ってこない。

机に肘をつきながら、私はスマホの画面をチラ見する。


(さて……こっちも対応しなきゃね)


LINEには、昨日のセフレ3人からの「2人きり希望」メッセージが並んでいる。


私は、順番を決めた通りに返信していく。


まず、日和。


『今日、うち来なよ。 昨日の埋め合わせしたげる』


次に、結花。


『明日はどうですか?また静かに一緒に過ごしたいですね。楽しみにしてます』


そして最後に、美紅。


『いいねー明後日はどう?また私の服選んでよ、美紅がいないと私、すっごいダサい服買っちゃいそう」


(……うん、完璧。揉めないし、順番も守れる)


教室の窓の外を見つめながら、小さく息を吐いた。


(天音の元カノを批判できる資格なんて、私にはないな。でも、この関係、今さらやめられるほど人間できてないんだよな)


(それに恋愛関係になる気ない、って最初に伝えてるし誠実だよね、私は。一緒にして欲しくない)


──放課後。


昇降口を出て、校門の前で待っていると、制服のまま駆け寄ってくる影が見えた。


「詩音せんぱいっ! お待たせいたしましたっ!」


息を弾ませながらも笑顔全開の日和が、まっすぐに私の元へ向かって来る。


「早かったね。そんなに急がなくても、今日の私は日和だけのものだから安心して」


「……っ、はい!」


そう言いながら、日和は自然に私の手を取ってくる。制服の袖がかすかに触れ合う。


「今日こそは、2人っきりで食事して、いっぱい甘やかしてくれるんですよね?」


「甘やかすって……どの程度の話?」


「えっと……あーんして、いっぱい、ぎゅーっとしてもらって……キスして…あと、昨日できなかった“あれ”とか、“これ”とか……」


「“これ”ってなに?言ってくれなきゃ分かんないよ」


「……言わせないでくださいよぉ〜……っ」


頬を染めて俯く日和の姿に、私は小さく笑った。


(こうしてると、ほんと、かわいいんだよな……)


「……じゃ、スーパー寄ってから帰ろうか。日和の好きなもの作るよ、簡単な奴限定で」


「はいっ!楽しみにしてますっ」


夕暮れの通学路。

並んで歩きながら、私は思う。


──やっぱり私、反省できてない。


でも、それでも。

日和とのこの時間が、少しだけ心を満たしてくれる。 

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