第二部 焔の誓い
第2話 銀狼の咆哮 (2/10)
# 銀狼の咆哮
## 誓いの夜
十五年前、王国エルドリアの首都、ヴァルクロス。
石造りの城壁に囲まれた街は、繁栄の象徴だったが、その裏では闇が蠢いていた。
魔王ゼルガドンの封印が弱まり、辺境では魔獣の襲撃が頻発していた。
王国は最強の騎士団「銀狼の牙」を結成し、若き戦士たちを集めた。
カイルとロウエンは、ヴァルクロスの貧民街で育った幼馴染だった。
カイルは冷静で頭脳明晰、剣術は自己流ながら正確無比。
ロウエンは情熱的で仲間を鼓舞する天性のリーダーシップを持ち、力強い剣技で周囲を圧倒した。
二人は互いを補い合い、どんな困難も共に乗り越えてきた。
ある夜、貧民街で魔獣の群れが暴れ、火事が広がった。
カイルとロウエンは、親や友人を失った孤児たちを助けるため、粗末な剣を手に魔獣に立ち向かった。
カイルが的確に急所を突き、ロウエンが群れを押し返す。
二人の連携は、まるで一つの魂が二つの体に宿ったかのようだった。
戦いのさなか、銀狼の牙の団長、ガルドリックが二人を見つけた。
ガルドリックは40代の巨漢で、顔に無数の傷を持つ歴戦の戦士。
彼は二人の戦いぶりに目を奪われ、声を掛けた。
「お前たち、ただのガキじゃねえな。銀狼の牙に入らねえか?」
ロウエンが笑顔で答える。
「化け物をぶっ倒せるなら、どこでもいいぜ!」
カイルは静かに頷いた。
「…王国を守るなら、俺の剣は惜しまない」
その夜、二人は銀狼の牙の訓練場へ連れられた。
ガルドリックが渡した革の鞘には、銀色の狼の紋章が刻まれていた。
二人はその場で誓った。
「どんな闇も、俺たちで切り開く」
ロウエンが提案した。
「なあ、カイル。俺たちの剣に、特別な印をつけねえか? 俺とお前の絆の証だ」
カイルが頷き、二人は剣の柄に布を巻き、双頭の狼の刺繍を施した。
一つの頭はカイルの冷静な刃、もう一つの頭はロウエンの燃える魂を象徴していた。
## 銀狼の牙
銀狼の牙は、20名の精鋭で構成されていた。
団長ガルドリックを筆頭に、個性豊かな戦士たちが揃っていた。
* セリナ:弓の名手。
冷静で毒舌だが、仲間への忠誠は厚い。
カイルと戦略を話し合うことが多い。
* バルド:槍使いの豪傑。
ロウエンと飲み比べで競う陽気な男だが、戦場では獣のような猛攻を見せる。
* ミリア:癒しの魔術師。
臆病だが心優しく、負傷した仲間を必死に支える。
ロウエンに淡い想いを寄せている。
* ゼク:双剣使いの孤児。
無口で過去を語らないが、カイルに心を開き、戦場では彼の影のように動く。
訓練は過酷だった。
ガルドリックは「魔獣は容赦ねえ。お前らが死ねば、王国が死ぬ」と繰り返し、夜通し剣を振らせた。
カイルは戦略を学び、敵の動きを予測する術を磨いた。
ロウエンは仲間を鼓舞し、訓練場を笑顔で満たした。
「ロウエン、お前がいると空気が変わる」
とバルドが笑う。
「ハッ、俺の剣が吠えりゃ、魔獣も逃げ出すさ!」
ロウエンが拳を上げる。
カイルは静かに微笑んだ。
「…お前がいなきゃ、俺はここにいない」
二人の絆は、騎士団の心臓だった。
双頭の狼の刺繍は、他の団員にも広がり、銀狼の牙の結束の象徴となった。
## 初めての試練
銀狼の牙の初任務は、ヴァルクロス近郊の廃村で暴れる魔獣の群れの討伐だった。
ガルドリックが率いる20名は、夜の森に踏み込んだ。
魔獣は毒霧を吐く蜘蛛型で、触手のような脚で騎士を絡め取る厄介な敵だった。
戦闘が始まると、ロウエンが先陣を切り、蜘蛛の脚を斬り飛ばした。
「こい、化け物! 俺の剣で八つ裂きだ!」
カイルは後方から指示を出し、セリナの弓とバルドの槍を連携させた。
「セリナ、右の目を狙え! バルド、左の脚を潰す!」
ミリアが負傷者を癒し、ゼクがカイルの側で敵の奇襲を防ぐ。
銀狼の牙の連携は完璧だった。
だが、蜘蛛の数が予想以上に多く、毒霧で視界が閉ざされた。
「くそ、こいつら増えすぎだ!」
バルドが咳き込む。
その時、ロウエンが叫んだ。
「全員、俺の後ろに下がれ! カイル、道を開け!」
ロウエンが剣を振り回し、毒霧を切り裂く。
カイルが蜘蛛の動きを読み、急所を突く隙を作った。
二人の剣が共鳴し、蜘蛛の頭領を仕留めた。
魔獣の群れは混乱し、銀狼の牙は一気に殲滅した。
戦後、ガルドリックが二人を叩いた。
「無茶しやがって! だが…よくやった」
ロウエンが笑う。
「ハッ、双頭の狼は負けねえよ!」
## 闇の兆し
任務を重ねるごとに、銀狼の牙の名は王国中に響いた。
カイルとロウエンは最年少ながら、騎士団の柱となった。
だが、魔獣の襲撃は増える一方で、ゼルガドンの封印が弱まっている噂が広がった。
ある夜、ガルドリックが二人を呼び、告げた。
「黒棘の森に、封印の要石がある。魔獣の群れがそこを目指してる。次の任務は、要石の防衛だ」
ロウエンが拳を握る。
「やっと本番だな! 化け物を根絶やしにしようぜ!」
カイルは目を細めた。
「…何か、嫌な予感がする」
セリナが肩を叩く。
「カイル、考えすぎだ。銀狼の牙に不可能はない」
だが、カイルの予感は的中していた。
黒棘の森の戦いは、銀狼の牙を、そしてカイルとロウエンの絆を試す運命の夜となる。
訓練場の片隅で、二人は剣を手に語り合った。
「カイル、もし俺が死んでも、お前は進むよな?」
ロウエンが冗談めかして言う。
カイルが真剣に答えた。
「お前が死ぬなら、俺も死ぬ。それだけだ」
ロウエンが笑う。
「ハハ、なら俺たちは不死身だな! 双頭の狼は、絶対に負けねえ!」
二人の剣の刺繍が、松明の光に輝いた。
だが、その光は、闇に飲み込まれる前の最後の輝きだった。
(続く)
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