第3話 継承された想い

管理室で佇む人物は、トーマスの叔父のヴィクターだった。父親の弟で、時計の修理を生業としている男だ。しかし、その姿は普段とは違っていた。青白い光に照らされた表情は硬く、目は異様な輝きを放っている。


「やはり来たか、時の見張り人」 ヴィクターは振り返りもせずに言った。 「そして...トーマス。君までここへ来るとは」


「叔父さん、どうして...」


「どうしてだと?」 ヴィクターは初めて二人の方を向いた。 「この時計台は、私のものだったはずだ。兄である君の父さんは科学者の道を選び、私一人が祖父の技術を学んだというのに...」


その手には見慣れない道具がある。クリスタルのような物質を埋め込んだ懐中時計。リリアが持つものとよく似ているが、放つ光は不穏な紫色だ。


「その時計...」 リリアが声を震わせる。 「盗まれた時の制御装置ね」


「ふん、盗んだのではない。正当な後継者である私が、取り戻しただけだ」


ヴィクターの言葉に、トーマスは首を横に振る。 「違うよ、叔父さん。祖父さんは、時計台のことを誰よりも大切に思っていた。だから...」


「黙りなさい!」 叔父の怒鳴り声が部屋中に響き渡る。 「お前に何が分かる。私は20年間、この時計台の修理を任されてきた。なのに祖父は...最期に時計台を託したのは...」


その時、トーマスのポケットの中で何かが温かく光り始めた。手を入れると、祖父の形見の懐中時計が。普段は動かないその時計が、かすかに秒針を動かしている。


「その時計...」 リリアが息を呑む。 「本物の制御装置...」


「なに...?」 ヴィクターの表情が歪む。 「そんなはずは...」


トーマスは思い出していた。祖父が最期に言った言葉を。


「時計は、時を刻むだけじゃない。人々の想いも一緒に刻んでいくんだよ」


懐中時計が放つ光が、次第に部屋全体を包み込んでいく。するとそこに、半透明の姿で祖父が現れた。


「ヴィクター、トーマス」 柔和な声が響く。 「私が時計台を託したのは、その技術だけを継ぐ者ではない。時の流れと、それを見守る人々の想いを理解できる者...それこそが、真の継承者なのだ」


「祖父さん...」 ヴィクターの手から、紫の時計がこぼれ落ちる。


時計台が大きく揺れ始めた。 「このままじゃ収拾がつかなくなる」 リリアが叫ぶ。 「トーマス、あなたの時計で!」


だが、どうすれば良いのだろう。 その時、祖父の幻影が優しく微笑んだ。


「心配いらない。君は、もう知っているはずだ」

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