第10話 「名ヲ呼バレル刻、魂叫ブ」

【戦況・模倣体の異常な動き】


紫音と空斗の連携が、かろうじて模倣体の動きを封じていた。


だが模倣体は、

二人の“戦術”を“学習”し始めていた。


ステップの癖、間合いの距離、呼吸のテンポすらも。

人間にはあり得ない、異様な精度でなぞり返してくる。


空斗「まずい……限界が近い……!」


紫音「っ……でも、俺らが止まったら……春陽が……!」



【春陽、立ちすくむ】


春陽は足元を見ていた。


震える手。

霊圧が流れず、ぴたりと止まった指先。


(俺、なんで動けない……!?

あのふたりは、もう血ぃ流して、倒れそうで――

それでも俺の前に立ってるのに……)


(“怖い”ん や……

もし俺が動いて、護れなかったら……

また、誰かが――)



【“その瞬間”は、突然に】


模倣体の剣が、

春陽の虚を突くように動いた――かに見えた。


でも――違った。


影のように飛び込んだ紫音が、

春陽を弾くように押し、

その剣を――自分の身体で、受けた。



【切り裂かれる音】


“グシャッ”と肉が裂ける音。

紫音の体が、

肩から腹にかけて斜めに、深々と裂かれる。


「っッッーーーーーーーーーー!!!!!」


声にならない叫び。

霊圧が弾け、地面に膝から崩れ落ちる。


鮮血が土を濡らす。

喉から洩れる呻きが、空気を震わせる。



【春陽、声にならない声】


「……しお……ん……?」


喉が焼ける。


脚が震える。


紫音が、自分を――

“自分を、護った”――


それだけが、はっきりと、胸に刻まれる。



膝をつき、その体は鮮血で染まり、息も絶え絶えな紫音。

絞り出す声で言う。


「……副隊長が、助けてくれた時……

俺、“今度は自分の番”やって、

そう、思たんや……」


「今度は……お前が……誰かの番やろ……春陽……」


意識が、途切れた。

その場に倒れる紫音。



【春陽、地面に膝をつく】


肩が震える。

声が出ない。

心臓が、喉までせり上がる。


「っ……なんで、俺……!

なんで……俺が……護られてん……!!」



【斬魄刀の声が響く】


――その瞬間。


胸の奥、魂の深層。


ずっと、ずっと遠くで聞こえていた“あの声”が、

今は、耳元で囁いた。


『……やっと、呼んでくれるの?』


子供のような優しい声


『お兄ちゃんの“想い”、ちゃんと届いたよ。』


『ぼくはここにいるよ。最初っからずっと、お兄ちゃんの中に。』



【春陽、涙を零しながら叫ぶ】


「――そうだろ……やっぱりそうだったろ、

そやったら、なんで、もっと早く名乗ってれなかった……ッ」


『お兄ちゃんが、本当に誰かを“護りたい”って思うまで、

ぼくの名前は、お兄ちゃんので目覚め無かったんだよ』


『だから、今――

お兄ちゃんが、ぼくを呼ぶ時だよ』



【春陽、目を見開き、立ち上がる】


震えていた膝が、地面を押す。


「“俺は”……

護られとるだけの男じゃない」


「今度は、俺が――

護る番!!!」



魂の奥で、刃が覚醒する音がした。


それはまだ、“始解”ではない。


けれど、

確実に“名前を持った刃”が、

春陽の中で動き始めた。


紫音の血に染まった空間の中――

新たな霊圧の“陽”が、ゆっくりと、立ち上がり始めていた。

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