鬼の一目惚れ

平野とまる

第1話

「そうか、小西殿も敗走なさったか」


「はっ。いかがいたしましょう」


 腹心の部下である飯田直影いいだなおかげからの報告に、当主である加藤かとう肥後守ひごのかみ清正きよまさは弱り切った表情を浮かべる。

 若かりし頃の血気盛んさは鳴りを潜め、今はどんよりとした雰囲気を纏っていた。


「これでこの地で残るは我が加藤家と島津家のみとなる……か」


「さようでございます。が、呑気な中央は先の大戦に勝利して些か浮かれておるようです」


「仕方なかろう。明確に勝利と呼べる戦は久しぶりじゃからな。ここで士気だけでも鼓舞しておかねば、人が滅ぶ」


 主の言葉に、直影は唇を噛む。

 いかんせん戦況が悪すぎる。

 呑気に豊臣方と徳川方で戦おうとしている場合ではなかったのだ。

 数百年ほど一部を除き妖が大人しくしていた方が奇跡で、北は常に警告していたではないか。

 とは言え、その警告を無視したのはこの九州も同じなのだが――。


「やはり、鬼に合力を願うしかない……か」


「しかし、これ以上島津殿に負担は掛けられますまい。敵方の主力を相手取り、獅子奮迅のご活躍にて寧ろ優勢に戦いを進めておりますれば、足を引っ張れば共倒れになってしまいましょう」


 なるほど、鬼島津と名高いかの者達ならばとも一瞬思うが、しかし、すでに限界以上の戦いをしている事だろう。

 事実、数で劣り種族と言う質でも劣ると言うのに、最初期からずっと敵本陣を相手取った上で優勢に事を進めているのだから。

 とは言え、少しでも邪魔してしまおうものなら、間違いなく戦況が崩壊する。

 その程度、清正も理解しているわけで。


 だからこそ、無情の一言を告げる。


「違う。阿蘇に住まう鬼の事だ」


「なっ。きゃつらは願いを聞くために、人を食らうのですぞ! いくら中立を保っている妖とは言え、誰を差し出すと言うのです?」


 まさか鬼島津ではなく、本当の鬼に合力を願おうとしているとは思わず、直影は主にそう叫ぶ。

 そして、なんとか考えを変えてもらおうと言葉を続けた。


「殿。確かに阿蘇の鬼は絶対に約定を破らぬ妖ではござりますが、対価は柔らかく栄養がある人の血肉でござりますれば、守るべき女子供を差し出す事になりましょう」


八十やそじゃ。あやつに行ってもらう」


「なっ……」


 清正の言葉に、直影は固まる。

 まさか、自分の娘を差し出すとは思わなかったからだ。


「可哀想な事をしてしまうが、頭もよく美しいあやつ以上の適任がおらん。なればしかたがなかろう。合力してもらわねば、加藤家どころか人が滅びかねんのだから」


「殿……」


 実に無念そうに口にした清正に、直影は何も言う事が出来ないのだった。




―――――――――――――――


「素敵な景色ね」


 山道を一人進む旅装束の娘――清正の次女八十姫はそう呟く。

 女一人旅で危ないが、そもそもここは既に阿蘇の鬼の縄張り。雄大な自然が広がっているが、生き物の気配が少ない。

 誰もが畏れを抱いているからだ。

 生けるものならば当然だろう、何しろ鬼と言う圧倒的強者が住んでいるのだから。

 だから、人であればそも一人なんて性別関係なく危険だ。


 とは言え、阿蘇山の住まう鬼の縄張りはとても広い。

 故によほど奥に進まねば鬼出会う事なく、無事に済む場合も多い。

 無論、縄張りではあるので表層付近にいる事もあるのだが、少なくとも八十姫は数日の間身の危険に晒される事はなかった。


「ふふふ、父上から死地に送るかのように見送られましたが、これはなかなか悪くはありませんわ」


 そう言って、八十姫は笑顔を浮かべ、辛いはずの山道をずんずん進む。

 いや、実のところ体は疲れを主張していた。が、その程度で足を止める事などできようがない。

 挫けそうになる度に、八十姫は父親の言葉を思い返す。


「すまぬ、八十姫や。お前には阿蘇を守護する鬼へ合力を頼むため、生贄になってくれ」


 深く深く頭を下げ、体を震わせながら紡がれた言葉。

 そんな姿を娘に見せるとは、いったいどれだけの苦悩を抱えているのだろう。

 無論、八十姫も人の戦況が思わしくない事は知っていた。が、まさか厳格な父がここまでの行動を取るまで追い詰められているとは思いもしなかったのだ。


 その時、八十姫は確かに恐怖も感じたが、それ以上に私がやらねばならぬと使命に燃えた。

 命が惜しくないかと問われれば、惜しい。しかし、ただただ無意味に命を散らすより、国を、民を、人を、父を母を兄弟を、皆を救える事の方が遥かに良いと思えたのだ。


 だから、こんなところで挫けている場合ではない。


「それに、もう時間がありません」


 その言葉は、確かに今も戦っている人達にも向けられていた。が、単純に自分自身にも向けられている。

 そう、3日も山道を進んだせいで、すっかり食べ物も飲み物も底をついてしまったのだ。

 女の足でも2日も奥に進めば必ず鬼に出会うと聞いていたので、3日分用意していたのだが、まさか3度目の日没間際になっても出会えないとは思わなかったのだ。


 ただでさえ死にに行く道中であり、時間が経つにつれ弱気にもなってしまう。

 とは言え、やみくもに急いでもただただ体力を失うだけであり、八十姫は今となっては純粋に鬼が出てくる事を願う。


 ――が、無情にも先に日が沈んでしまった。


「ああ、今日は満月ですか」


 空を見上げて八十姫はそう呟く。

 いくら月明かりがあろうと、流石に夜道を進むのは危険だろう、痛む体を引きずってなんとか休めそうな場所を探すことにする。

 果たして明日は動くことができるのだろうか?

 一瞬そんな不安が八十姫の胸を駆け巡るが、休む場所を見つけるより先に凛とした鋭い声が聞こえる。


「おう、小娘よ。わしの縄張りになにぞ用があるのか?」


 声の聞こえる方にぱっと振り向けば、違った衝撃が八十姫を駆け巡る。

 なんと美しく、恐ろしい鬼なのでしょう。

 金縛りにあったかのように声も出せず、ただただ八十姫は鬼を見つめた。


 一方の鬼の方だが。

 実は彼は大変緊張していた。

 なぜか? 実は彼女が山の麓に居たくらいからずぅぅぅぅっと今まで見守っていたからだ。

 縄張りに入る直前まで彼女の護衛に付いていた武士も、陰陽師も忍びも皆鬼を刺激しない様に立ち去った時点からは、時に先回りをし障害を退け、寝ている彼女に近づく猛獣を追い払ったりもした。

 八十姫は少し勘違いしているが、いくら鬼の住処とは言えいくら何でもここまで生き物の気配がしない事はありえない。

 相応の危険が付きまとうはず……であったが、かの鬼がそのすべての危険を排除したにすぎなかった。


 では、何故鬼はそのような事をしたのか。

 彼女を一目見ただけで惚れ込んでしまったからだ。

 あまりの美しさに、彼の心は蕩けてしまった。

 無論見た目の美しさだけではない。今まで出会った存在の中で、最も魂が美しかったからだ。


 とは言え、自分は鬼である。

 なんと声を掛けたものか柄にもなく悩み続け、とうとう声を掛けるまでこんなにも時間が経ってしまった訳だ。


 が、肝心の八十姫はそんな事知る由もなく、警戒心を高めて鬼の出方を窺い続ける。


「ふむ、何用かあってやってきたかと思ったのだが、違うのか?」


 再び凛とした鋭い声が響き渡る、が、よくよく聞けばその中に優しさが混じっている気が付けただろう。

 しかし、限界に近い八十姫は気が付くことができない。

 故に、より一層警戒心を高めた。


「いえ、確かにお願いがあって参りました」


「なるほど。では、その願いとやらを言うといい」


 この時点で鬼は既に八十姫の願いを叶える気満々であった。

 理由は単純である、惚れた異性に格好いい所を見せたいだけだ。

 結局男――もしくはオスと言う性別は、女――またはメス相手に良い所を見せたい訳で、この鬼も例にもれなかったに過ぎない。

 が、やはり何も知らない八十姫は、とうとうこの時が来たと観念し、悲壮感を漂わせながら、それでも力強く言い切った。


「私の全てを貴方に差し上げますから、どうか、どうか合力願えないでしょうか」


 これに驚くのは鬼の方である。

 まさか。まさかまさか、自分が一目惚れした相手が求婚してくるとは思わない。

 胸に込み上げてくるのはほんの僅かな困惑と、圧倒的な迸る喜び。

 この瞬間、この鬼にとってこの娘は嫁となった――あくまで鬼の中ではだが。


「あいわかった。全力をもって合力いたそう。我が嫁の頼みとあらば聞かぬ道理はないからな」


「ありがとうございます! それでは、この身を――はぇ? よ、嫁でございまするか?」


 力強く言い切られたが、確実におかしい言葉が混じっていた。

 嫁とは何の事だ? まさか、食事する娘の事を嫁と鬼の世界では呼ぶのか?

 大混乱の中八十姫はそう思うが、あっさりと鬼が否定してくる。


「うむ、我が伴侶として末永く暮らそうぞ。それにしても、まさかそなたから求婚されるとは、わしもまだまだじゃのぅ」


 そう言って鬼が破顔すれば、元の美しさも相まって八十姫からも素敵に映る。

 いや、待て待て、どうしてそうなった?

 自分の身を贄として差し出したはずの八十姫は、そのようになおも混乱する。

 当然だろう、相手は鬼である。人間の道理が通用するはずがない。

 ――そう、通用するはずがないのだ。

 だから、自分は贄と思っていたのに、伴侶に……つまりは、性欲の捌け口にされるのだろう!

 このけだものめ! そんな慈しむような眼差しを向けようと、心までは差し出してなるものか。


 一瞬そう思ったものの、八十姫はすぐに思いなおす。

 なぜなら、全てを鬼に差し出しているからだ。

 ならば、どんな裏があろうと、心を尽くさねばならぬ。

 今でこそ合力をすると言質を取れたが、いつ気が変わるかもしれぬのだ。

 そも、鬼が人を好いた話など聞いた事も無い。

 そこまで考えを巡らせ、なんとか八十姫は己の気持ちを落ち着ける事に成功した。

 様な気がしているだけで、心身共に限界が近い八十姫が、平静を保てる訳がないのだが。

 それでも、悲痛に染まる胸の中を隠し、笑顔で鬼に応える。


「はい、私はどこまでも傍におりまする」


「うむうむ、全てはわしに任せておけ」


 力強く言い切った鬼に、八十姫は最低限をやり遂げたと、やっと胸を撫でおろすのだった。






桜童子さくらどうじ様? あの、これはいったい?」


「む? わしの配下の分際でこいつらが人の嫁などあり得ないなどと、そなたを侮辱したのだ。ならば、拳で分からせるしかあるまい」


 八十姫を嫁にした鬼は、桜童子と言いなんと阿蘇の鬼の棟梁だったのだ。

 が、いくら棟梁とは言え突然人の嫁を貰うと宣言されれば、当然反発する。

 となれば、力こそ全ての鬼の世界では、文字通り力づくで押し通さねばならぬ。

 そして、通常いかに棟梁で部族の中で最も強いとは言え、多勢に無勢になれば負ける。それが道理である。

 が、桜童子は規格外であった。


 男女問わず向かってくる部族の鬼を、ちぎっては投げを繰り返し、とうとう全ての鬼どもを地に這わせてしまったのだ。

 こうなると話は変わってしまう。


「っかー、流石俺らの親分だぜ。こうまで分からされちゃ仕方ねぇ、その人の娘を親分の嫁として受け入れようぞ」


「そうだな。棟梁は力を示された。ならば従うが道理」


「うむうむ。それにしても良き戦いであった」


 ボロボロにされたはずなのに、圧倒的な回復力を持つ鬼達は、けろっとした様子で実に嬉しそうにそんな事を言う。

 すると、桜童子は声を張り上げて命令を下した。


「よし! ならば戦いに挑もう。愚かにも狐共が我が嫁の実家を攻撃している。ならば、家族となった我らが取る行動は一つしかあるまい!」


「うぉぉぉぉぉ! 狐共を駆逐しろぉぉぉぉぉ!」


「やってやるぇぇぇえええええええ!」


 桜童子の言葉に、士気高く叫び出す鬼達。その姿を、八十姫は頼もしさ半分恐ろしさ半分で見つめていた。

 そんな八十姫の姿を見た桜童子は、八十姫が不安がっていると思い優しく声を掛ける。


「八十、大丈夫だ。すぐに我らがそなたの不安を払ってくれよう」


「あっ……ありがとうございます」


 鬼の言葉に嘘はない。

 その言葉を知ってはいたが、八十姫は安心できる微笑みを浮かべた桜童子の姿に、勝手に裏があると思ってしまう。

 故に、たとえ性欲の捌け口にされようと、父を、母を、国を救ってくれるのならば構わないと八十姫は思った。

 しかし、そもそも合力を願ったとて、叶えられずただただ無意味に喰われてしまう未来だってあったのだ。

 そう考えると、八十姫の胸に自然と感謝の気持ちが沸き上がり、笑みを浮かべながら桜童子に答える。

 が、これは意外な効果を発揮することになった。


 単純な話、八十姫の笑顔を見れた桜童子が舞い上がったのだ。


「よし、お前達、今すぐ出陣じゃ! ほら、八十よ。我が肩に乗るがよい」


「えっあっ。わ、分かりました」


 乗るがよいなどと言いつつ、桜童子は既に八十姫を己の肩に乗せていた。

 突然の行動に驚くものの、凄まじい安定感から全く恐怖心が湧いてこない。

 よって、分かりましたと八十姫は答えてしまう。

 そんな答えを聞いてしまえば、単純な鬼達は八十姫の心構えを含めた準備が整ったと勘違いしてしまった。


 ゆえに、八十姫は急に怖い思いをする羽目になってしまう。


「行くぞおまえら! わしに付いてこい!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 そんな異口同音の叫び声に紛れ、小さく八十姫の可愛らしい悲鳴はかき消されてしまうのだった。





―――――――――――――


 八十姫を阿蘇の死地に向かわせて早5日が過ぎた。

 清正は己の軍勢を率いながら、ついつい思いを馳せてしまう。


「報告によれば山に入って今日で4日目、どうやら姫は鬼と出会えずにいるようですな」


 清正の姿を見ていた直影は、そのように話しかける。

 毎日のように九尾軍が襲い掛かり、ギリギリのところで追い返す。

 そんな日々だが、すでに限界を超えている。

 そんな状態で今日まで持ったのは、八十姫の犠牲の代わりに起こるかもしれない奇跡を信じていたからに過ぎない。


「もうよい、よいのじゃ。八十姫は失敗したのだろう。可哀想な事をしてしまった」


 清正の声色には、深い後悔の色が宿っていた。


「殿……」


「鬼は約定を守る。が、そもそも約定を結ぶ事こそが困難である。仮に贄を捧げたとて、ただただ食い殺されることの方が多いのが事実じゃ。末端の者共はともかく、腹心のお前は知っておるだろう」


「……さようでございますれば、万策尽きたと言えるでしょう」


 実に暗い雰囲気が立ち込めるが、急に清正が笑い始める。


「と、殿。どうなさいました?」


「かっかっかっかっ。わしとした事が、何と弱気だったのかと思うたのだよ。なーに、鬼の合力がなかろうと、九尾如きわしの槍で退治してくれようぞ」


 空元気なのは明白、だが、清正が腹を括ったのを直影はすぐに理解した。

 故に、直影も笑みを浮かべる。


「なんと、殿に先陣を切らせる訳にも参りますまい。ならば、それがしが先陣をつかまりましょう」


 力強く直影は言い切るが、単に命を捨てるつもりはない。

 刺し違えても九尾の首を取るつもりだ。

 だからこそ、自らを鼓舞する必要がある。

 何故なら、命を拾うつもりでは、万が一もできないからだ。

 そして、それはぎりぎり総攻撃できる今しかなかった。

 これ以上時間を費やせば、とても攻めに転じられる余力が尽きてしまう。


「うむ、その心意気あっぱれじゃ! さあ、共に一泡吹かせようぞ」


 清正もここで命を懸ける。否、懸けざるを得ない。

 ここが最後の正念場であり、ここで負ければ終わりだ。

 少なくとも、わずかでも九尾を引かせねば、島津家諸共滅ぼされるだろう。

 何せ、昨夜とうとう島津家から援助を求める書状が届いたのだから。



 と、にわかに外が騒がしくなる。

 これから士気を上げて突撃しようと言うのに、九尾軍に出鼻を挫かれたのか?

 清正は幸先の悪さを呪いながらも、伝令を飛ばす。


「何が起きたのじゃ! 誰ぞおらぬか!」


 と、すぐに直属の忍びが清正の前に姿を現す。


「殿、ご報告を申し上げます! 八十姫様率いる鬼の軍勢が合力に現れました!」


 普段感情を完全に押し殺す忍びが、感情を爆発させそう告げる。

 と、清正は満面の笑みを浮かべた。


「八十のやつめ、やりおった! 行くぞ者共! 我らも出陣じゃ!」


 清正の号令の下、加藤家の軍勢が鬼に襲われ混乱する九尾軍へと特攻を始める。



「はわわわわわ、さ、桜童子様! その、私には刺激が少しばかり強ぉございます」


「がはははは、大丈夫じゃ! わしを信じろ!」


 八十姫の必死の願いに対し、周りに群がっていた妖共を拳で吹き飛ばしながら桜童子が答える。

 違う! そうじゃない! 怖いんです!

 本当は八十姫はそう叫びたかったのだが、攻撃を加えている相手は間違いなくあの憎き九尾軍に違いない。

 ならば、邪魔をする訳にはいかないのだ。


 それはそれとして、怖いものは怖い。

 八十姫はギュッと邪魔にならない範囲で桜童子の頭を掴む。

 すると、その行動をもっとやれなんて違う解釈をした桜童子が更に張り切る。

 そして、八十姫は猶更力強く抱きしめる。

 と言う、八十姫にとって非常に悲しい繰りそこに返しが起こってしまう。

 ただ、この場合はひたすらに桜童子に、ひいては加藤軍に対してプラスに働いた。


「ぐあぁぁぁぁ! 鬼の癖に邪魔するなぁぁぁぁ!」


「こちらの台詞じゃぁぁぁぁ! のけのけ狐どもぉぉぉぉぉ!」


 九尾には至らなくとも、複数の尾を持つ九尾軍の幹部相手でもお構いなし。

 桜童子が思いっきりぶん殴れば、他の妖諸共吹き飛びぐったりと動かなくなる。

 そして、周りの鬼達の攻防も凄まじい。

 流石に桜童子ほどではないが、それでもそれぞれが人で言えば一騎当千に当たる強者である。

 九尾軍の抵抗も凄まじく、鬼達も無傷ではないが、それでも損害は圧倒的に九尾軍の方が大きい。


「うおぉぉぉぉぉ! この好機逃すでないぞぉぉぉぉぉ!」


 と、そこに直影率いる先陣部隊が側面を付き、鬼の軍勢に集中しすぎて隙だらけだった九尾軍を引き裂いた。

 鬼相手だけでも不利だったのに、更に別の攻撃を受けてはたまったものではない。

 あっと言う間に多数の妖が討ち取られていく。

 が、それでも九尾軍は敗走しない。


「ふざけるな! 我らは誇り高き九尾様に率いられた妖ぞ! たかが鬼や人間になぞ負けてなるものか!」


 味方をズタボロに引き裂かれようと、それでも闘志は衰える事がない。

 が、鬼相手どころか人もそれで怯む様な時期は過ぎ去っている。

 これは生存をかけた大戦争だ。

 ならば、怯む様な場合ではないのだ。


 そこからは、凄惨な有様がそこかしこに繰り広げられる。

 東を見れば鬼が妖を真っ二つに引きちぎり、西を見れば武士が狐の首を跳ねる。

 北はと言えば、八尾の大幹部が鬼も人もまとめて叩き潰し、南では忍びが己諸共妖を火薬で粉々にした。


 まさにこの世の地獄を体現したかのような凄惨さに、八十姫は思わず気分が悪くなってしまう。

 が、目を逸らす場合ではない。

 ここが本当に正念場だ。

 可能ならばここで九尾軍を殲滅したいし、そこまでいかずとも少しでも深手を負わせておきたいから。

 とは言え、無理をし過ぎると逆にこちらの損害が大きくなりすぎる。

 体力で劣る人は勿論、すでに鬼にもかなりの被害が出始めていた。


「ふん、今回の所はあれをぶちのめしたら終わりだな」


 桜童子も自分の配下や人の被害には気が付いており、その損害を最も出している八尾へと目標を定める。

 ほんとは親玉である九尾を叩きたかったが、なんとこの場に不在の様だ。

 確かに戦力差的に余裕がある、故に配下だけに任せたのだろうか。

 だからこそ、少数の鬼だけでもここまで戦況を動かすことができたのだが。

 そして、数多の戦をこなしてきた桜童子だからこそ、痛いほどそれを理解しており。

 だからこそ、親玉をさっさと叩いて戦意を挫きたかったのだが――まだまだ狐共との縁は切れなさそうである。


「どうしたどうした。鬼と言っても大したことはないなぁ。やはり我らが狐一族こそが最強だ!」


「がはははは、棟梁たるわしから逃げて最強とは片腹痛いわ。さあ、貴様が腰抜けでなければかかってくるがいい」


 巻き込まれぬよう八十姫を近くに居た鬼に託し、桜童子はそう吠える。

 その言葉に、八尾は怒り狂って咆哮をあげた。


「舐めるなよ鬼ぃ! わしこそが九尾をも超えた最強たる八尾の筆頭ぞ! たかが鬼の分際で図が高いわ!」


 ほう、これは良い事を聞いたと桜童子は思う。

 ならば、事実はともかくこの八尾をぶちのめせばよい。

 少なくともこの無礼とも言える発言を九尾軍の誰もが止めない以上、少なくともここい居る連中にとっては真実。つまり、こいつを倒せば当初の目的である大将首を取る事ができるのだ。


「御託はいい、行くぞ!」


 地を蹴り、一見しなやかな桜童子の体が宙に跳ねる。

 7尺もの長身がまっすぐに巨大な八尾の狐に襲い掛かるが、八十姫から見れば体高10尺にも及び体長は20尺に迫ろうかと言う巨体相手には流石に心細く見えた。


「桜童子様!」


 心配から八十姫はそう叫ぶが、しかしてそれは杞憂であった。

 向かってきた鬼の体を八尾がか嚙み砕こうと牙を向けたが、これが桜童子の仕掛けた罠である。

 わざと半端な速度で飛びかかり、最低でも爪が飛んで来たらその爪を破壊するつもりであったのだ。

 が、なんとわざわざ相手は顔を近づけてくれるではないか。

 獰猛な表情で上の牙を右手で、下の牙を左手で受け止めた。


「あがっ、く、口が閉じぬ」


「がははははは、弱い弱い!」


 予想外の出来事に慌てふためく八尾に対し、余裕綽々に桜童子は吠えて右膝で相手の顎を砕く。


「あぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 激痛により八尾は思わず桜童子を逃がしてしまった。

 そのまま桜童子はひらりと着地をし、今度は全力で地を蹴る。


「そのまま死んどけ!」


 喉に強烈な一撃を叩き込み、その衝撃で潰す。

 そのあまりの強さに首の骨すら砕けた八尾は、呼吸すらできず痛みにのた打ち回ろうとした。のだが、それすら許さずに桜童子が止めの一撃でその頭蓋を破壊してしまう。

 凄まじい衝撃音が辺りに響き渡り、八尾はびくりと痙攣した後、もう二度と動くことはなかった。


 これにて、長きにわたる加藤家と九尾軍の戦いは、いったんの幕引きとなったのだった。





―――――――――――――――――


「想像以上でしたな」


 桜童子と八尾の戦いとすら呼べぬ虐殺を目撃した直影は、主君である清正へそう声を掛ける。


「……うむ、あれが妖の中でも最も武闘派として知られる鬼……と言う訳か」


 なるほど、魑魅魍魎の中ですら最強の武闘派と言われる訳である。

 桜童子が倒した八尾は基本前線には出てこなかったが、ひとたび現れれば災害と等しく扱われていた。

 が、その八尾を以てしてあれだけの力の差を示して見せた。

 確かに中立で関与しないなら、妖達ですら無理に声掛けしない訳である。

 あれでもし少しでも虫の居所が悪ければ、どんな災厄に見舞われるか知れたものではあるまい。


「誠恐ろしい……ですな」


「……否定できぬな。あれだけ沸き立っていた者共を見てみよ、今ではかの鬼相手に怯えている始末じゃの」


 事実、八十姫を除いて共闘した鬼達に誰一人として近づくものはいない。

 当然だろう、確かに共闘したとは言え、本当に味方なのかまだ不明なのだから。

 勿論八十姫は鬼の側にいるのだが、もうあれは鬼に差し出した貢物である。

 ならば、願いが叶えられた以上、後は鬼の気の向くままと言う訳だ。


 一方の桜童子と八十姫であるが、こちらは奇妙な状況に陥っていた。

 それは、八十姫が桜童子に恐怖したからか? 否、なんと、いつの間にやら小さな子狐を胸に抱いていたからだ。


「八十? その、いつの間にそいつを抱いていたのだ?」


「あの、桜童子様が八尾を倒して下さっている最中にございます」


 話を聞けば、どうやら桜童子が八尾の顎の骨を砕くあたりで、草むらからこの子狐が八十姫の胸に飛び込んできたらしい。

 なんでも、自分の配下が迷惑を掛けて申し訳ない。

 九尾の自分が守ってあげるから、是非側に置いて欲しいと。

 まさかと思って尾の数を見れば、確かに九つある訳で、なんとこの子狐が九尾の狐なのは間違いないようだった。


「鬼の癖に尻の穴が小さいのぅ。そも、私はメスじゃ。そんな嫉妬深い気持ち悪い目を向けるでない」


 実に気持ちよさそうに八十姫に抱かれた九尾は、どこか偉そうに桜童子へそんな言葉を投げる。

 当然単純な鬼である桜童子は頭に来たし、強制的に巻き込まれている八十姫は困惑しっぱなしだ。

 ただ、八十姫から見れば、どうしてもこの子狐を悪く思えなかった。

 よくよく聞いてみれば、この地を攻めると決めたのは確かに年老いた子狐の母だったそうだが、いつの間にか八尾が暴走し必要以上に人を襲いだしたそうだ。

 母は確かに攻めると決めたが、昔人に助けられた恩により、途中で和睦を結ぶ算段だったらしい。

 故に八尾を含む大半の幹部と対立し、そして、邪魔とばかりに殺されてしまったと言う。

 ただし、後を継いで九尾になったのは、二尾でしかなかった娘であるこの子狐だったと言う訳だ。

 まさか戦いの最中に、九尾軍でその様な事が起きているとは思いもしなかったが。だからこそ、なし崩しに八尾が長になり戦いを進めていたと言う事なのだろう。


 実際本当かは当事者である八尾が黄泉の国へ渡った以上、確認することは叶わない。

 故に、この九尾の話を嘘だと断定もできない訳だ。


「くっ、忌々しい女狐め」


「くっくっくっ、誉め言葉じゃの。それにしても、八十は良い匂いじゃ。くんくん」


「あの、九尾様。お戯れはお止め下さい」


 憤慨する桜童子に、これ幸いに煽る九尾と、困り切った様子の八十姫。その二人と一匹を周りの鬼達は面白そうに見守るのだった。





――――――――――――――


「おう、親父殿! よくぞ八十をわしの嫁へと嫁がせてくれた。今後この恩に報いるため、八十が生きている限りわしらは親父殿に合力しよう」


 桜童子の清正への第一声はこんなものであり、当然清正は目を白黒させる。

 八十姫は生贄に捧げたはずであり、何がどうなって嫁となったのかさっぱりわからぬ。

 そして、自分自身がこうも親し気に親父殿などと呼ばれるのも意味不明だ。

 が、これは行幸である。

 間違いなく八十姫はこの鬼に大層気に入られているのは疑いの余地もなく、なばら、今後も八十姫が生きている限り無償で合力を得られるのも確実だろう。


 が、実に期限の良さそうな桜童子と比べ、八十姫は疲労困憊と言った様子だ。

 それに気が付いた清正は、言葉を選びながら桜童子へと声を掛ける。


「鬼殿。此度の合力と今後の合力の約束、心の底より感謝いたす。わしは加藤肥後守清正と申す。我が娘の伴侶なれば、気軽に清正と呼んでいただきたい。して、できればそなたの名前をお聞かせ願いたいのだが」


 清正的にはかなり強気に出た発言であったが、桜童子は一笑して口を開く。


「親父殿! わしは娘婿になるんだ。親父殿こそ気軽に話してくれ。それで、わしの名前は桜童子と申す。普通に呼び捨てていただければありがたい」


 桜童子からすればなんともない発言だったが、清正はこれに思わず頭を抱えそうになってしまった。

 気軽に呼び捨てろなんて言うが、そんな蛮勇できる訳がない。

 が、鬼が願った以上叶えた方が良いのかもしれない訳で――どちらが正解か分からぬ清正は、怒り出さない事を願いながら、敬称を付けて呼ぶことにした。


「なんと、恩人を呼び捨てなどとはとんでもない。桜童子殿と呼ばせていただこう。しかし、婚姻を盛大に祝いたいところだが、今の我らには残念ながらその余裕がないゆえに、どうか質素になる事をご勘弁願いたい」


 さて、肝心の桜童子の反応はと言うと、別に気も悪くした様子もなく清正の話を聞き届ける。

 まあ、桜童子からすれば清正の反応などどうでもいいのだ。

 強いて言えば、清正からも祝われれば嬉しいと言う八十姫の願いを叶えたい一心からの行動だったりする。

 故に、桜童子としては聞き捨てならない部分があった。


「祝うとの事だが、何をするつもりじゃ?」


「簡略だが手はずを整え、式を執り行うつもりではあるが。鬼の婚姻がどのようか分からぬゆえに、桜童子殿に希望をお聞きしたい。無論、叶えられることに限りはあるが」


「酒じゃ!」


「は? 酒でござるか?」


 にっと非常に嬉しそうな表情を浮かべた桜童子殿に、清正はぽかんとした表情を浮かべてしまう。

 最初から友好的ではあったのだが、希望を叶えたいと申し出たところ、明らかに上機嫌になったからだ。


「そうだ。酒じゃ。我々の好物だからのう。特にこの国の水は美味く、故に酒も美味い。非常に楽しみじゃ。できれば薩摩の国の物もあればよいが、どうだろう?」


 桜童子の言葉に、清正は自然と願いを伝える流れが来た事を自覚する。

 この好機を逃す手はない。


「薩摩の酒は島津殿の領分。なれば、かの国への合力もしていただければ、桜童子殿も十分楽しめるだけの酒が手に入るだろう」


「おお、鬼島津だったか。鬼を名乗る豪胆な奴じゃと思ったが、その言葉に似合う活躍っぷりはわしの耳にも届いておる。ただ、それは八十姫の願いになるのか?」


 ここで清正は自分の失策に気が付く。

 疲れ果てていた八十姫を休ませるよう願い出たわけだが、この話が終わるまでは同席させるべきだったか……。

 いや、これ以上は流石に娘に頼る訳にも行くまい。

 清正は自分を奮い立たせ、口を開く。


「いや、八十姫がどう思って居るかは本人に聞かねば分からぬ。これはわしが先走ってしもうたようじゃ。肥後の酒はたっぷりと準備する故、聞かなかったことにしてほしい」


「む? なるほど。親父殿、そう焦る出ない。親父殿が言うように八十は疲れ果てていた。どうもわしは鬼じゃから、人の限界が分からぬ。お陰で八十が限界を迎える前に休ませる事が出来た事にわしは感謝しているのじゃ。だから、いったんここは八十が目が覚めるまで待とう」


「ふむ、八十の言葉を待つ。と言う事ですかな?」


「うむ、八十が願うなら直ぐにでも祝言を上げるが、じゃなければ先に島津を助けてやるのもやぶさかではない。寧ろ八十が助けて欲しいと願うなら、すぐにでも旅立とう」


 なんと、確かに妖としては鬼は大層話の分かる部類だと聞いていたが、想像以上ではないか?

 清正はそう思いながらも、城下に向かい入れた鬼達が力試しと称し、大暴れをしている報告も聞いているので。早計に答えを決めつけず、いったん冷静になり見極める必要があるだろうと思いなおす。


 ただ、この鬼は八十姫に惚れているのは疑いようがなく、その辺りに関しては信用しても良いように思える。

 ならば、必要以上に清正がしゃしゃり出てしまうのは下策だろう。

 いったんそう結論付け、清正は口を開いた。


「なれば、桜童子殿もゆるりと過ごされるがよい。ただ、非常に申し訳ないが、仲間の鬼達に加減を願ってもよいだろうか? うちも体力自慢が相手をしておるが、狐共の相手で疲れているし、何より鬼殿よりも体力がないからのう」


「ぬ、あやつらそんな迷惑を掛けておったのか? 節度ある行動をしろと命じておったのだが……なーに、親父殿。ここは棟梁たるわしに任せればよい」


 がはははと力強く笑う桜童子殿に対し、清正も自然と笑みを浮かべたのだった。




――――――――


 八十姫はぐっすりと丸1日ほど寝て過ごしてしまい、どれほど自分が疲れているのか思い知らされる。

 自分自身ではそこまでではないと思っていたが、心身共に疲れ果てていたようだ。

 父である清正にすぐに休む様に言われた時は、そこまで疲れを自覚していなかっただけに、興奮状態故に気が付かなかったのだと理解する。

 確かに父の指示に従って休まねば、たぶん倒れてしまったのが容易に想像できた。


「私もまだまだですね」


 慣れ親しんだ自室で身支度を整えつつ、八十姫の唇からそんな言葉が零れる。

 と、幼い頃から世話をしてくれている下女が慰めるように口を開いた。


「姫様、そんな事はございません。鬼様達の合力を取り付け、勝利を呼び込んだ女神を悪く様な不届き者など、我が国におらぬでしょう」


 あまりにも真剣なその様子に、自分がした事で確かに助けたい人達を助けられたのだと、八十姫は達成感に溢れる。

 が、結局は他人の力頼り。

 それも、相手が勝手に自分に一目惚れをしたと言う、いまいち信じきれない理由が元になっているのだ。

 すぐに八十姫は自分は何も成していないと、自然と落ち込んでしまう。

 が、そんな姿を周りに見られる訳にもいかない。


 少なくとも、今は世話係が言うように、この国は勝利に沸いているのだ。

 これを機に国を立て直しつつ、ずっと一番苦しい所で戦ってくれている島津家へ援軍も出すべきだろう。

 直近はその辺りだろうが、日ノ本全体に及ぶ危機的状況を考えれば、島津家の問題も解決出来たら、復興をしつつ各所へ援軍も送りたい。

 仮に全て上手くいくようならこういう流れになるだろうし、そうである以上はなるべく鬼達の助力は取り付けねばならぬ。


「ありがとう。確かに私がもっとしっかりせねば、合力いただいた鬼様達に対しても、顔向けできませんね」


 ついつい先の事ばかり考えていた八十姫は、真面目な顔でそのように返事をしてしまう。

 当然八十姫の笑顔を期待していたお世話係は、寧ろ八十姫を追い詰めてしまったのではないかと心配になってしまった。

 故に、お互いすれ違ったまま粛々と準備が進められる。

 もしお世話係が城下で許容範囲とは言え大暴れする鬼達の姿を見たら、こんな荒くれ者達を姫は制御せねばならぬのかと卒倒したかもしれない。

 そして、八十姫の心労を理解したことだろう。

 が、八十姫の世話をしていた者達は皆姫に付きっ切りで対応しており、鬼達の噂は勝利の話と戦でどれほど勇ましかったのかと言う物しか聞き及んでいなかった。

 それ故このような事態になってしまったのだった。


 八十姫は決死の思いで、桜童子を自分に惹き付ける事を決意する。

 ただ、鬼の好みが分からぬし、何よりも一目惚れと言う話だ。

 となれば、少しでも理想と違えば、あっと言う間に飽きて逆にこちらに牙を剥いてくるかもしれない。

 それが自分だけならばまだよい。

 問題は、国に引き込んでいる以上、大事な人達全てに迷惑を掛けてしまう事だ。

 とは言え、ただただ手をこまねいている方がまずいと八十姫は判断し、一か八かにはなってしまうが、このまま桜童子を虜にし続ける事を選択する。


 そう、ここまで全て八十姫の杞憂である。

 悲壮感たっぷりで、本人としては大真面目に命を懸ける覚悟で臨むつもりだ。

 だが、鬼の一途さを八十姫は、ひいては人間の誰一人としてこの時点では知る者はいない。

 惚れ込まれた時点で、よほど鬼の根幹を否定するような言動をそれこそ数年続けでもしない限り、許されてしまうのだ。

 それが良いか悪いかは別として、本気で惚れ込んだ鬼はそこまで入れ込んでしまう。

 果たして八十姫がそれを気付く事がいつになるのか、それは神のみぞ知るのだった。




―――――――――――


「うーん、八十の表情が硬いと思うが、どうしたものかなぁ」


 桜童子は本気で悩んでいた。

 勿論八十姫の事だ。

 戦ならばとても簡単だ。また単純に大暴れすればよい。

 加藤家の者達との関係も、桜童子の見立てでは悪くないと思える。

 無論怖がって近づかない連中や、妖と言う事で嫌う者達もいるにはいる。が、その程度妖でもあったし、八十姫も血族ならともかく、言い方は悪いが有象無象の雑魚に何を思われても鬼は気にしない。


 が、惚れた女の事は完全に別である。

 最初は配下である鬼達に相談してたのだが、力こそ全てで脳みそすら筋肉でできてそうな者達から繊細な女性が喜ぶような案が出る訳がない。

 ある者は、力を示せば改めて惚れ込んでくれるからまた力比べをしようと提案し。またある者は、肉体美を見せれば魅力は伝わると豪語し。ある者は、食べ応えのある獣を沢山獲って見せれば惚れると言ってきた。

 ちなみに、全員女鬼の言葉である。

 男鬼はもっと粗暴で乱暴な提案ばかりだったので、流石に却下した。


 本当は桜童子は、八十姫と花見をしたり、美味しい物を一緒に食べたり、なんならその辺を散策するでもよいと思っていたりする。

 完全に相談する相手を間違えている訳だが、鬼にしては凄まじく配慮のできる桜童子は、自分の案だけなく、やはり同性の意見を聞くべきだと女鬼に意見を求めてしまったわけだ。


 結果は――。


「皆様とてもお強いのですね。ですが、いくら大丈夫だと分かっていてもここまで激しい戦いを見てしまうと、お体を心配しています。」


 鬼同士の力比べの時は、そんな言葉を本当に心配しながら八十姫が言ってくれた。

 桜童子は惚れ直したが、寧ろ八十姫には心労をかけてしまったようで、これには反省した訳だ。

 提案した女鬼が首を傾げて居たので、この鬼からの意見は今後聞くまいと心に誓う。



「あの、えっと。とても、素敵なお体だとは思いますが。その、大変申し訳ございません。私には刺激が強すぎるようでございます」


 照れた様子で八十姫が言っている姿はとても愛らしく、こちらは提案した女鬼を褒め称えた。

 が、流石に時期早々過ぎただろう。

 確かに全裸で全身を見せたところで、鬼ならば男女問わず何の不思議のない求婚行動なのだが、どうやら人は気にするようだ。

 事実、鬼は男女問わず桜童子の惚れ惚れする様な引き締まった筋肉に、雄々しくそそり立つ男性器に喜んでいた。

 一緒に呼んでいた、八十姫の父である清正も難しい表情を浮かべていた。

 それが女性ならなおさらなようで、後で八十姫の側仕えが決死の表情で伝えてくれたところを見るに、かなり人の常識からは外れてしまっていたらしい。

 実際、数日あまりにも八十姫が恥ずかしがって話すらまともにできなかったのは誤算だったし、件の女鬼には八十姫ともっと仲良くなった時に改めて相談するとや側を苦を交わした。


「わあ、こんなにたくさんの食べ物を無償で振舞って下さるなんて。領民は全て疲弊して明日の食べ物にすら困っている者達が大勢いました。桜童子様、並びに鬼の皆様、本当に心からの感謝を。ありがとうございます。」


 八十姫は疑いの余地もないほど喜んでくれたし、父である清正どころか、家臣たちも、領民たちも凄まじく喜んでくれた。

 鬼達からすれば、別に自分たちの縄張りで狩りを行った程度の事だが、ここまで喜ばれるとは思わなかったのだ。

 そして、鬼達は大変単純である。

 振舞った贈り物に対し、純粋にここまで喜んでくれればそりゃ普通に絆される。

 自然とこの交流を機に人と鬼とでの壁がだいぶ取っ払われ、戦場を共にした者や気の強い者を中心にある程度仲が良いと呼べるほどの間柄になっている者達もいる。


 当然提案した女鬼は桜童子からも、そして、他の鬼達からも称賛された。

 しばらく中々話してくれなかった八十姫も、この時ばかりは興奮気味に褒め称えてくれたので、桜童子としてもやって大正解だったわけだ。

 が、これで距離が近くなったことにより、八十姫が常々自分と一緒の時は緊張しているのだとより理解させられる羽目になってしまう。


「うーん、いったん提案された案は全部やってみたし。そんな事じゃ女心は掴めませんとは言われたが、わしとして普通に共に語り合ったり、のんびりとした時間を過ごすのもよいと思うのだがのぅ。やはり、人はわしらと違って戦っていればそれで良しと言う生き物ではないようだし」


 確かに女鬼の提案が全てダメだった訳ではない。

 が、桜童子的に1勝1敗1引き分けの確立5割でしかない以上、いったん自分の案も試してみようと言う気になっている訳だ。

 八十姫が聞いたら、1勝2敗ではなくて? と言っていたところだろうか――もしくは、自分の気持ちを抑えて、全て嬉しかったと答えてしまうかもしれない。


 それが分かっていた訳ではないが、鬼としては異例とも言えるほど配慮のできる桜童子は、なんと側仕えの下女へとを相談することにした。


「すまぬ、ちょっと良いだろうか」


 良い訳がない。

 八十姫のお世話係は、心臓が口からまろびでるかと錯覚しながらも、しかし、悲壮な思いで立ち向かっている八十姫を知っているので、果敢にも話を聞く事にする。

 この頃には鬼達のハチャメチャっぷりは知られており、同時に食料を振舞った件も広まっているので、きっと悪い事にはならないだろうと言う判断もあった訳だが。


「ははは、はっひっ。ななんでござりましょう?」


 唐突過ぎてどもりまくり、嚙みまくりなのは致し方ないだろう。

 が、桜童子からするとそんな事は分からぬし、関係がない。


「ぬ? お主大丈夫か? ちゃんと喋れるのか?」


 故に、こんな風に見当違いの心配をしてしまう。

 ただ、八十姫へ向けるほどではないが、十分心配している空気は感じられるし、明らかに普段の口調より柔らかい。

 その事実にお世話係は心を奮い立たせ、改めて口を開く。


「申し訳ございません。突然でしたので驚いてしまいました。して、私に何の御用でございますか?」


「おおう。驚かせてしまったのか。それは悪かった。それはそれとして、八十の事に付いて助言をもらいたいのだ」


 ここで八十姫のお世話係は桜童子に警戒心を抱いた。

 当然である、八十姫の事に対してなのだ。

 これに対して警戒をするなと言う方が無理があるだろう。

 ただ、そんなお世話係の様子に桜童子は気が付く様子もなく、あくまでも自然体のまま言葉を続ける。


「どうも八十はわしに対して未だに遠慮している節がある模様。人は心の距離を縮めるために鬼とは違いかなり時間が掛かると聞いてはいるが、それでも少しでも早くわしに心を開いて欲しいのじゃ」


「さようでございますか。ならば、確かに私をお尋ねになられたのは間違いではないでしょう」


 当然、間違いにはさせない決意をもってお世話係は口にしたのだが、桜童子からすると違う解釈になってしまう。

 つまり、私は八十姫と仲良しなので、私に任せると大丈夫よ。と言う言い回しを人はこんな回りくどく言うのか。などと内心で思っているのだ。

 そんな事はない。

 そんな気軽な感情を抱けるのなら、もっと気さくに話すことができる。

 が、残念ながら桜童子は人と接した経験など今回が初めてであり、お世話係の心に気が付くことはなかった。


「おお、それは頼りになる。ならば、いったんわしが考えた案を聞いてくれまいか? どうも女鬼達の提案は、喜ばれるだけではなく心配させたり、困惑させる事もあったようだからな」


 なんと、力比べも突然破廉恥な行動を起こしたのも含めて、まさか女性が提案したのか。

 同じ女としてお世話係は衝撃を受けるが、これこそ人と鬼との違いなのだろう。

 なれば、男鬼である桜童子はいったいどんな提案をするのか。

 戦々恐々としながらお世話係は耳を傾ける。


「わしとしては、花見に出かけてみたり、何か貢物を共に見繕うのもよいと思っている。その辺りを散策してみるのもよいな」


「……さ、さようでござりますか」


 お世話係の様子を見るの、桜童子は鬼である自分の提案はやはり人と相容れぬ物かと落ち込んでしまう。

 一方のお世話係は、何故男鬼であるこの方の方が人が喜びそうな提案ができるのかと驚いているのだが。

 先に口を開いたのは桜童子であった。


「すまぬ。わしではそのようにゆっくりと話す時間を設けたり、穏やかな時間を過ごしたかったのだが。やはり刺激が足らぬか」


「いいえ! とても良い提案だと思います。その、女鬼様の提案より魅力的でしたので、また驚いて反応が遅れてしまいました。申し訳ございません」


「おお、誠か! ならば、わしの提案を八十に伝えてはくれまいか? つい先日親父殿――清正殿に聞いたが、先触れを出した方が人は良いのじゃろう?」


「はい。おっしゃる通りでございます。なれば、私の方から八十姫様に聞いてまいります。是非吉報をお待ちくださいませ」


 予想を遥かに超え、寧ろ武骨な武士達より遥かにこの鬼の方が好青年ではないか。

 そんな風に八十姫のお世話係は感じ、自然と笑顔が零れ言葉に力が宿る。

 だからこそ、心からの言葉だと伝わった桜童子は、よろしく頼むと嬉しそうにお世話係へと託すのであった。


 お世話係は、この桜童子と言う鬼は非常に配慮が行き届き、思慮深く、何より八十姫の事を大事にしてくださると確信する。

 間違いである。

 否、全てが間違いではなく、今の桜童子であればおおむね合ってはいるだろう。

 が、本質は鬼であり、何より棟梁にまでなった逸材である。

 周りの配慮など気にしないし、知略を用いるより力技で解決する方が好みですらある。


 ただ、何より八十姫の事を大事に思っているのが事実だろう。

 だから全ての前提条件が崩れ、ただただ八十姫と仲良くなりたいが為に無理せずに配慮が出来、思慮深くなっていると言える。

 まあ、あくまで鬼としてはと言う枕詞が付いてしまうが。

 ――いや、鬼に限らず、案外戦いに身を置く男達の中ではと言った方が正しいかもしれない。


 ともかく、強力な味方を得た桜童子は、なんとか八十姫と約束を取り付けることに成功したのだった。




――――――――――――


「町の散策に花見とな」


 狐軍との決戦から3か月が過ぎ、季節も変わろうかと言う頃に直影から清正はそのような報告を受ける。

 思わず清正が口にしてしまったのも仕方ないだろう。

 いかんせん、他の鬼どもを見るにそのような事を好むとはとても思えぬ。

 所かまわず力比べをし、酒をかっくらい、物を破壊する。

 かと思えば、困っている者を無償で助け、助力を求めれば気軽に助けてくれる。


 単純で非常に御しやすいようで、己の心に素直なため想定外の行動も多い。

 そして何より、自分が嫌がる事は絶対にしないのだ。


「さようでござりますれば、八十姫様のご希望に沿われていらっしゃるかと愚考いたしたところ、更なる情報も入手しておりまする」


「ふむ、回りくどいのは好まぬ。さっさと申せ」


 中々に衝撃的な報告ではあったが、八十姫の事をこちらの想定を遥かに超えるほど大事にしてくれている桜童子の事だ。

 きっと八十姫の希望に応えてくれているのだろうと思ったが、まさかすぐに否定されるとは。

 早速清正は直影に問いただす。


「はっ。これは八十姫様の側仕えからの確かな情報でござりますが。なんと桜童子殿の方から全てご提案なさったそうです」


「なんと、かの御仁がかぁ。そう言えば、日に日に所作が洗練なさっておるな」


「実は、その事に関しましても、八十姫様に恥をかかすわけにはいくまいと、自ら積極的に取り組まれているとの事。あまりにも噂とかけ離れておりますれば、それだけ八十姫様を大事になさっておるのでしょう。他の鬼達からは、あのような姿は初めて見るとの事で。それまでは誰よりも鬼らしい鬼だったそうです」


「ふむ。ただただ八十を失う可能性を考えれば、間違いなく最良の結果じゃろう。何より、桜童子殿だけでなく、鬼達が全員これほどまでに協力的とは思わなんだ」


「はっ。確かに粗暴な部分や、感情に身を任せる傾向はありまするが。それを差し引いても善良と呼べるでしょう。誠かの者達の合力を取り付けられたのは行幸でございまするな」


 実に嬉しそうな様子の直影に対し、清正は少し不満そうな表情を浮かべる。


「確かに鬼達に関しては今後も良き友人となるよう努めるべきだろう。が、問題は狐共じゃな」


 その言葉に、直影も気を引き締めなおす。


「はっ。九尾が八十姫様の手飼いとなっておりますれば、狐共からすると面白くないのは道理。今は嫌がらせ程度しかしておりませぬが、そろそろあちらも痺れを切らす頃合いかと」


「さよう、なれば決戦の時は近い……か」




 一方その頃、桜童子は大変不満を抱えていた。

 それは何故か?

 非常に簡単である。


「こらこら、玉藻たまもや。くすぐったいですよ」


「くんくん。だって八十は良い匂いがするもの」


 これだ。

 無論九尾の狐――八十姫が資料にあやかり、玉藻と名付けられたそれと戯れる姿は非常に愛らしいのでそれは良い。

 問題は、この八十姫の匂いを嗅ぎつつ、自分の匂いを擦り付けるメス狐だ。


「あのなぁ。今日はわしが八十と一緒に海を眺めつつ茶を共にすると言うておるのに」


「あっ、ダメでございましたでしょうか?」


 桜童子的には玉藻に文句を申したつもりだったが、いつもの様に八十姫が反応してしまう。

 すると、八十姫に参っている桜童子としては、どうしても折れざるを得ない。


「いや、ダメと言う訳ではないし。わしが八十ともっと話したいと言う我儘なだけじゃ」


「さようでございますね。玉藻や、また夜相手をしてあげますから、今は桜童子様とお話させてはくれませぬか?」


「んー? 良いよー。じゃあ、私は膝で寝てるね」


 桜童子は基本的に正直に話すので、八十姫としても正しい対応を取る。

 が、玉藻の方が上手であり、さらっと2人だけになるのを阻止してくるのだ。

 無論、玉藻を連れてこない場合もあるし、2人きりで過ごせる事も少なくない。

 その辺りのバランス感覚も優れているので、桜童子も爆発する事も無く我慢できてしまっていた。

 この時もひたすらに八十姫に甘えてはいるが、確かに3日ほどは桜童子が八十姫を独占してしまっている。

 同じ女を好きな為痛いほど玉藻の気持ちが分かってしまう桜童子は、八十姫と玉藻が同性なのもあり、このくらいなら不満を抱えつつも許してしまうのだ。


 当然玉藻は全部計算の上である。

 ならば、何故そこまで計算するのか?

 それは、まるで母親と同じような空気を纏い、しかも甘えたら甘えただけ優しさを返してくれる八十姫に桜童子と意味は違えど惚れ込んでいるからだ。

 図らずとも大妖怪を2人も虜にしてしまった八十姫は、妖に大変好かれやすい体質と言えるのかもしれない。

 少なくとも、その魂の輝きは妖を引き付けてやまないものだ。


 それが、桜童子の場合は恋慕となり、玉藻場合は親愛と言う形で表れており――他の相手であれば食料であったり玩具になる危険は常にはらんでいる。

 なんだかんだ玉藻が桜童子の邪魔まではしても、完全に追い出そうとしないのも。桜童子が玉藻を邪魔くさく感じても、排除しないのも本能的に危険を察知しているからかもしれない。

 だから、自分が居ない場合の八十姫の守りは、それぞれに託していると言ったところだろうか。


「ふふふ、玉藻は本当に甘えん坊ですね。桜童子様もありがとうございます。私達の我儘を聞いてくださって」


「なーに、八十の笑顔が報酬と思えばなんと安いものよ」


 穏やかに微笑む八十姫に、見る人が見ればデレっとした顔で桜童子が答える。

 三か月もあれば、桜童子の優しさと愛の深さは多少なり八十姫に伝わっており、八十姫も今では2人きりでも、こうして玉藻を交え3人でもだいぶリラックスできるようになってきた。

 狐達がたまに手を出してくるが、実のところ徐々に玉藻に忠誠を誓わせており、そもそも八尾を倒した時点で桜童子率いる鬼の敵ではない。


 まだ火種はあれど、肥後には平和が訪れたと呼んでも差し支えないだろう。

 無論、南では島津家が大立ち回りを演じており、幾ばくかの援軍を送ってはいるが、ここまでの長い戦いからの疲弊で戦況は思わしくないようだ。

 今は復興にも力を入れているので、鬼達は肥後に残っているが、やがて清正は鬼達に島津家への合力を再度願うだろう。

 そして、八十姫に肥後だけではなく、最低でも九州を安定させてから婚約を結びたいと願われた桜童子は、寧ろその願いを喜んで引き受ける訳だ。


 とは言え、日ノ本では全国各地で戦いが起こっている訳であり、まだまだ予断を許さない状況である。

 あくまで九州は安定するかもしれないが、それはそれで本州や四国から妖の増援が来るとなれば、結局戦いはなくならない。

 ひたすらに八十姫を愛でたい桜童子と、八十姫に愛でられたい玉藻はきっと人と手を取り、妖と戦うことになる。


 これは、人対妖の構図すら超え、愛するものを守る者対日ノ本を支配せんとする妖達や強欲な権力者達との戦いの火ぶたなのかもしれない。

 が、まだほんの僅かな時間とは言え、八十姫は産まれて初めて穏やかな時間を過ごせるのだった――。




――――――――――――――――――――――――――――――


 本作『鬼の一目惚れ』をお読みいただき、心からの感謝を申し上げます。

 誠にありがとうございました。

 以上を持ちまして完結とさせていただきます。

 少しでも楽しんでいただけたのでしたら、とても幸せです。

 

 現在毎日更新を続けている作品や、更に別の新作の構想も練っておりますので、皆様が今後再び私の作品と出会って下さるのを願っております。

 それでは、またどこかでお会いいたしましょう。


 平野 とまる

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鬼の一目惚れ 平野とまる @tomaru123

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