第15話 残った後には
羽音が聞こえなくなった所で、海龍は攻撃の手を止めて地面に倒れ伏した者の中にいる国王と王妃の前に降り立つ。
「ひ、ヒィイッ」
「お、お許しくださいませぇ、海龍さま~」
慌てて起き上がりガクガクと震えて
【明日の儀式を最後に、妾は貴様ら人間の前から姿を消す。現役を引退している地龍が羨ましくなってしもうた】
「そ、そんな……」
「どうかお考え直しください、海龍様ぁ~」
今まで散々好き勝手にしてきたのに、いざ離れるとなればこれだ。これが今の都の……。
【成れの果て、か。妾も見捨てるわけではない。ほら、これをくれてやる。あの小僧の話は聞いていたな。ならばこの玉を巧く使いこなして都を守れ。妾は、疲れた……】
言い終えると海龍は手にした青い玉を国王と王妃の前に放り投げ、同時に恒の体がぐらりと揺らぐ。
慌てて国王が玉を、王妃が恒の身体を受け止めた。
「なんという事だ……慧の率いる龍騎士団を使って、いずれは天龍様の大陸やユニバース国を攻め入ると考えていたワシの計画が、全て水の泡だ」
玉を持ったまま、項垂れている国王に、王妃は恒の身体を抱きしめながら言う。
「そんな事はないわ。ユニバース国には確か王子が居た筈。この子をその王子と婚約させて同盟を結べば、地龍様の加護だって受けられる筈よ。そしていずれは……」
「い・や!」
王妃の提案を否定したのは、他でもない意識を戻した恒本人だった。
「あら恒、良かった。目を覚ましたのね!」
喜んで抱きしめる王妃の身体を離して、恒は立ち上がると、国王から玉を取り上げる。
「な、何をするのだ! 返しなさい、もし割ったりしたら」
「何が割るよ、ガラスじゃないんだし。それより私は、結婚なんてしないから!」
取り返そうとする国王の手から逃げて、距離を取り、その足元に水鉄砲を放つ。
「な、なんだそれは!」
「どうして恒がそれを……」
「慧が昔、護身用に教えてくれた術よ。水鉄砲くらいの威力だけど、当たると痛いわよ」
恒が指を鉄砲の形にして、狙うようなポーズを取れば、二人とも押し黙った。
「私ね。ラピス様の話を聞いて解った事があるの。彼、先代の龍騎士団長に似てるの。人や龍、何より慧からも慕われて、自らが護ると決めた住民や海龍様に最後まで心を寄せていた素敵な人。貴方たちは、そんな人をこの国から追放したのよ! 反省しなさい!」
最後は責めるように怒鳴った恒の圧に国王と王妃も俯いて唸るだけだった。
「うぐぐぅ~……」
「クッ……」
指が白くなるほど握りしめた恒の手の中で青色の玉がきらりと満足そうに光った。
『ん~んふふ~、良かった良かった。海龍もなかなか丸くなったじゃないか~』
晴れ渡った空を野原に座り込んで仰ぎ見る初雪の肩には真っ白くて柔らかい産毛に包まれた聖龍が一頭気持ち良さそうに眠っていた。
『うんうん。今日は天気もいいし~……よく育つといいな~』
穏やかな笑みを浮かべて、初雪はゆっくりと目を閉じる。
『さあ、あと少し。待っているよ』
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