(17)『奈良県二上山丙種迷宮第一回侵入調査実況配信』~おまけ~

 これは、武志達が長老から種を受け取った後の話。


「そろそろ調査の方もネタ切れになって来たが、最後の大物が残っている。

 一階層で見付かった特異物質に、長老が対価とした装飾品。この調査を頼みたい。

 勿論危険手当は付けよう。それに、本当に危険と判断した場合は、取り止めてもペナルティは無い。

 出来る事なら、直感持ちが居る間に確かめておきたいのだ」

「ふむ、大仰に言わなくても分かってるさ。長老が出て来てくれるかもと思っているのだろう?

 長老の置いて行った装飾品の穴が、宝具らしき玉とサイズが同じとなれば、誰だって長老の仕込みと思うわな」

「いや、希望的観測で話を進めるのは駄目だ。全く関係無いとの前提で進めるように。

 それでも君達に依頼するのは、他の迷宮はいざ知らず、こと此の二上山迷宮に限っては君達との相性が抜群だと考えるからだ。

 直感持ちとの君だけでは無く、全員が同じ理念に従っている。小鬼達への対応もそうだが、あの長老から敵意を向けられても尚、誰も反撃に動こうとはしなかった。

 仮に長老の仕込みだったとした場合にも、その君達の性質が最上の結末を手繰り寄せてくれるだろうとの判断だ」


 そんな熱心な言葉に送られて、恐らく最後の調査に、武志達はダンジョンへ入る。

 恐らく最後の日と思いながら、既に見慣れた、他とは違って脆く崩れ掛けの迷宮の壁を見る。


「何だか、もう数ヶ月は此処に通っている気分になってるが……」

「本当にね~。最後に長老に挨拶していきたかったな~」

「長老なんて出て来なくていいし!」

「多分、今は貰ったドローンに手一杯なんじゃ無いかな」

「本当に数ヶ月通っていたのだとすれば、調子を戻すのには一苦労だな」


 それぞれが思い思いの言葉を口にしているが、長老に苦手意識を持ってしまった京子でさえも、感傷的に辺りの様子を眺めている。

 尤も、早々に飽きたのか、鼻を鳴らして腕を組んだりしているが。


「ふん! どうせ指名依頼で何度も来るわよ!」

「確かに。俺も何と無くそんな気はするがな。ただ、それも何ヶ月先になる事やら」

「昨日、定点カメラを仕込んだからね~。あれが無かったら、一月後とかの可能性も有ったと思うけど」

「ゴッハーン達の様子をいつでも確かめられるのは、安心だよ。でも、スパチャ投げ銭付きコメントとか献上品が来そうだけど、どうするつもりなんだろね?」

「そりゃあ、スタッフが美味しく頂いちゃうんでしょ?」

「言い方は悪いが、そうなのだろうな。そもそも外の世界の品物を好き勝手に与えて、悪影響が無いとは私には思えん」

生物なまものって送ったりするのか? 普通に怖いのだが」

「NGに決まってるわよ? どれだけ気色の悪い事件が起きてると思ってるのよ」

「京子でもルールは守るぞー。ルールを守れないなら屁っブバーン以下だぞー」

「ちょ!? ――最っ低!」

「いや、有効な手だな。そういう自分が正しいと思っている奴は、得てして他人を見下しているものだ。それ以下と言われれば、多少は人の目も気にするだろう」

「だからって! ぐぬ~~……」


 武志達は、特に急ぎもせずにダンジョンの中を歩く。

 時折出会う小鬼達には、「よ! ゴッチャン、暫く来れなくなるが元気でな!」等と声を掛けながら。


「……本当に、あの飾りはカメラだったりしてね」


 恵美が見上げたのは、ダンジョンの各所に見掛ける大型の装飾だ。


「実際に歩き回った俺達は、装飾としか思わなかったが、良く気付いたものだぜ」

「此処だけの特徴をカナミに出させた後に、何故何故を繰り返したらしいね」

『推論を進めるには切っ掛けが必要です。今回の事例より、特異事象には精査が必要と分かりましたが、AIの特性上どうしても抜けは発生します。皆さんも何か気付きが有りましたら、気軽に私に問い掛けて下さい。それを切っ掛けとして働かせた推論が、何かを見付けるかも知れません』

「はいはい! じゃあ、私達がダンジョンに潜ってから、長老が何をしていたかの推測を順番に教えて?」

『はい。先ず初日に長老の関わりが疑われるのは、監視用の装飾品設置と、武志さんのやらかしへの対処です。

 まず、初日にゴッハーンさんと出会って撤収してから、私達がダンジョンに再エントリーするまでの間に、長老はゴッハーンさんの手の傷を処置し、更には代替としての緑の液体が入った植物の鞘を作り、その作り方を小鬼達に広めました。

 そして、監視用の装飾品がゴッハーンさんとの最初の出会いでは確認されていなかったにも拘わらず、更に踏み入った箇所では普通に見られた事を考えると、この間に最低限の監視用装飾品を設置していたものと思われます。

 そして、二度目のエントリー後から次の日までの間で、恐らく残りの箇所全てに監視の装飾品が設置されたのでしょう。装飾品を作る手間を考えると、夜を徹しての作業に違い有りません』

「……申し訳無さ過ぎて、五体投地したくなるぜ」

「長老さ~ん! 謝りたいから出て来てよ~!」

「返事が無い。シャイな長老の様だ」

「出て来てくれないね~……」


 そして恵美が装飾に呼び掛けても応えは無く、武志達はそのまま小鬼の集落に辿り着いた。


 迷宮局の楢橋から依頼されたのは、長老が対価とした装飾品の調査が一つ、宝箱から発見された宝具の調査が二つ、そして長老との取り引きで手に入れていた石板片の調査が一つだ。

 そしてその石板片が曲者だった。

 三角形や四角形の石板を組み合わせれば、一枚の絵になる則ちパズルだったが、石板片が二つ程欠けていた。

 ピースの混じったパズルも厄介だが、足りないパズルは話にならない。


 ――のだが、


「よし、初めはゴッチャンで、次はゴルホースだな」

「本当、探索にAI活用するだけで、こんなに変わるとは思わなかったね~」

「どやっ!」

「いやまぁ、お手柄だな」


 既に足りないピースは、どの小鬼が何処に飾っているのか判明している。

 序でに言うなら、その小鬼の嗜好まで明らかにして、交換アイテムも準備済み。


「攻略本片手の探索には、何か罠が潜んでいそうだがな」

「いつもの探索には使え無くない?」

「それは探索に出て始めて分かる類の事だ」

「カナちゃんと探索に出るのが楽しみだよね~」

『今も探索中です』

「ふふん、カナちゃん、他のダンジョンでの探索は違うのだよ。潜る前に、沢山配信動画見て、お勉強しないとね♪」

『はい、了解です』


 いつもよりも、お喋り多め。

 いつもよりも、警戒心薄め。

 いつもよりも、自然体で、武志達は小鬼の集落の中を歩く。

 出会った小鬼達には、誰かが手を振りながら、「暫く来れないけど、元気でね」と声を掛ける。

 そして、直ぐにゴッチャンの居所に着く。


 虫が好きなゴッチャンだが、意外とその装飾品の趣味に、虫の姿は出て来ない。

 飾られている装飾品は、そのどれもが小鬼の姿が描かれた物だ。

 踊る小鬼の描かれたプレート。

 見ようによっては小鬼にも見える飾りの付いた石片。

 そんなゴッチャンだからこそ、長老に小鬼の姿が描かれた石版片を望み、そして長老は受け入れたのだろう。


 そんなゴッチャンに用意したのは、長老含めて六十四もの小鬼達が描かれたタペストリーだ。

 この二上山迷宮で見られる数多くの装飾品の映像を元に、AIがデザインした機械織りでは有るが。


 これで駄目なら、根本的に考えを改めないとと言われていたが、ゴッチャンの大興奮がその心配を吹き飛ばした。


「ホム! ホムフンバリバルバンバン! ホムホムジュムフムヘンバラバンバン!!」


 タペストリーは、良く見ればアップリケなどから個体を読み解く事も出来る。

 これ以上無い宝物を見付けたという表情で、ゴッチャンは何処かへと走り去ってしまった。


 武志達の手に残ったのは、身形の良い小鬼が描かれた石板片。


「……本気で攻略本通りの結末が来たみたいで味気無いな」

「私達はそうでも、カナちゃん的には違うかも?」

『はい、そうですね、推測が正しかったと証明されての満足感が有ります』

「正しい推測が出来れば何らかの点を得て、それで自己改善が進むという事か?」

「も~、そういう理解は楽しく無いよ?」

「行動理念を理解するのは、仲間としてやっていく為の第一歩だ」

「も~~!」


 謎解きが一つも無いお遣いをした気分ながら、ダンジョンを去る日に謎解きも無いなと、武志達は次なるゴルホースの下へと向かう。

 そして、自立する置物を好むゴルホースも、木彫りの地蟲とそれに跨がる小鬼の像に、一瞬で陥落して最後の石板片も手に入った。


「ホムホムーーー!!!」


 歓喜の叫びは、周辺の小鬼を驚かせ、集まって来た小鬼達の喧噪に埋もれた。


「なんか、勢いが良過ぎて、もうエンドロールに入ってるみたいな感じ?」

「言い得て妙だな。だが残念ながら集落でやるべき事も終わった。撤収するぞ!」

「あー……皆、元気でね~」

「長老さんにもよろしくね」

「陽一、言ったって分かんないわよ?」

「分かってるよ! 気分でしょ!?」

「別にこれで見納めという訳でも無いが」


 最後に天井に埋め込まれた定点カメラを大臣が見上げてごちると、一行はダンジョンの出口方面へと足を向ける。

 きっと映像では彼らの姿を見る事が出来ても、次に来る時には武志達の事を忘れてしまっているかも知れない。

 そんな可能性に、少し感傷的に成りながら。




「簡易だが、ミーティングを始めるぞ。会議室にも音声は繋がっているか?」

『ああ、大丈夫だ。聞こえている』


 武志達は、一度ダンジョンを出ると、エントリーコードの発着場で簡易のミーティングを開始した。

 実験はダンジョン入って直ぐの場所で行うつもりだから、少し移動すれば会議室とも繋がるとなれば、ミーティングをしない理由が無い。


「見ての通り、長老は姿を現さず。そして実験の材料は全て揃った。

 計画に変更は?」

『無い。予定通りに進めてくれ』

「了解した。また何か有れば連絡する」

『宜しく頼む』


 そして、これだけの確認であったとしても、認識を摺り合わせるのは非常に重要だ。

 何と言っても、これは武志達が自由に進められる探索では無く、依頼を受けての調査なのだから。


「よし、変更無しだ。安全帯を外すタイミングには注意しろよ」


 いつもとは違って、滑走時に付けている金具は外れてしまっているから、代わりに安全帯を引っ掛けながら、再びダンジョンの中へと戻る。

 どうにも見た目が不安定な発着場よりも、ダンジョンの中の方が安心出来た。


「ふぅ……これで順調に進めば、もう五分も掛からない、な」

「おー、お兄ちゃんが感傷的になってる!」

「そりゃあ、まぁ、なぁ。ここまで善性の生き物もそう居ないだろ。それだけに干渉も控えるのが本当なんだろうな。

 良し! 最後の締めはきっちり決めるぞ!」


 そうして始まった、宝具の検証大会。

 先ずは一品ひとしな目。長老が対価とした装飾品。

 武志がその装飾品を身に着け、恵美が術の準備をし、大臣が咄嗟に装飾品を奪えるように結んだ紐の端を握り、京子が観察する。陽一は何か有った時のフォローだ。


 宝具を使って、何かの攻撃が放たれてはと、武志は仲間に背中を向けて、そして仲間は全員武志から離れている。


「良し、カナ、カウント十で頼む」

「はい。十……九……八……七……六……五……四……三……二……一……零」


 武志は、カウントが零となると同時に、胸に下げた装飾品に魔力を込めた。

 響めきが起きる。

 しかし武志には手応えが無い。


「おい、どうなっている!?」

「どうって……」

「お兄ちゃん! お兄ちゃんに背後霊が憑いたよ!」


 恵美の妙な言葉に、首だけ捻って後ろを見ようとしたら、何かが見えた。

 武志の直ぐ背後に立つ、武志に倍する身長の、緑色の腹筋だ。

 気配が無いそのままに、手で触ろうとしても突き抜ける。

 上を見上げれば、小鬼がそのまま進化して大鬼まで至った様な、精悍な姿だ。

 そして動きは無い。


「大鬼の幻を喚び出す宝具か? いや、ちょっと待て」


 もしかしてと武志が体を動かしてみても、緑の大鬼に動きは無かった。


「連動して動く訳でも無いのか」


 落ちていた瓦礫を投げても、幻のまま当たらない。

 少し危険は有ったが、カナが高速で横を擦り抜けていっても何も動かない。

 何なら、緑の大鬼の、胸のど真ん中を通り抜けても、何も無かった。


「おかしな宝具だな」

「お兄ちゃん、こっち向いてみて! ――おお!」

「いかついね」

「ふふん、やっぱり長老の仕込みよ。緑色の大鬼なんて見た事無いもの」


 仲間を前にしても、やはり何も起きない。

 いや、何か起きそうならその前に直感が働いているだろうが。


「カナ、記録は取ったな?」

『はい。継続して記録中です』

「なら、次の段階に進めるか。一応壁を向いて、苦しみ玉を嵌めてみるぞ」

「いいよ~、やっちゃって!」


 その言葉に、武志は装飾品に空いた三つの穴の一つに、苦しみ玉を嵌め込んだ。

 それによって生じた変化は劇的だった。


 見上げた大鬼の幻は、激しく身を捩り、顔を歪め、叫ぶ様に大口を開け、目を虚ろにし、全身全霊で苦痛を訴え始めた。

 初めは呆気に取られて見上げていた武志も、次第に腹筋が震えてくる。

 恵美達も身を捩って爆笑しそうになったその瞬間、大鬼の幻がスンと初めの澄ました状態へと戻る。

 その様子すらおかしくて、笑いたいのに笑えない状況が暫く続いたと思えば、また大鬼が激しく苦しみを訴えだす。

 もう、我慢は出来無かった。


「な、何よこれ!? お、可笑し過ぎるわよ!」

「うひひひひ、や、役には立ちそうだよ? 鬼丸大将も翻弄されるって」

「おい、こら、後で誰か代われよ! 見上げるだけじゃ分からねぇって」

「あはははは、あは、あははははは」

「絶対にやめろよ! こ、こんなの付けて探索してれば私達の方がやばい!」


 武志が震える手で虹色玉を更に加えると、お澄ましと苦痛を繰り返す大鬼の幻が、そこに七変化を加えてきた。

 喜怒哀楽の百面相に、様々なポーズを加えてきている。

 今度は言葉も喋れなくなった。


「――おい、大、もう十分堪能しただろ! そろそろ代われ!」

「~~! わ、分かった」


 そうやって、武志が大臣と交代したのは、本当に随分と時間が過ぎてからだ。

 散々笑った後だったからか、改めて大鬼の幻を眺めても、武志は時折笑いの発作に見舞われるだけで済んでいる。


「あ~、笑った。――大、嵌め込んだ玉の場所を入れ替えてみてくれ」

「了解だ」


 玉の位置を変えれば、苦痛と七変化の順番も入れ替わる。

 空いている穴が一つ有るが、それは動作には影響しない様だった。


「まぁ、検証はこんなものでいいか。予定通り迷宮庁に預けるぞ?」

「うん。使えないよ」

「使えないわね。魔物の動きも読めなくなりそう」

「あー、笑った」

「一階層の宝具らしいと言えばらしいが、下手をすると深層の宝具より複雑そうだな」


 全員が全員、呆れ笑いでその装飾品を眺めていたが、見切りを付けると呆気無く、それは箱に仕舞い込まれた。


「で、最後に残るのは、このパズルか」

「じゃ、並べるね?」


 恵美によって並べられた石板画は、道の奥から歩いて来る高貴な小鬼を思わせる絵だった。

 しかし、並べただけでは何も起こらない。


「……魔力でも注いでみるか?」

「あ、じゃあ、私が注ぐね?」


 恵美が魔力を注ぐと、単に並べられていた石板片が、吸い付く様に一体化して、一枚の石板画になった。

 次の瞬間、武志達は灰色の空の下の、砂の大地の上に居た。

 遠くへ続いている一本道の上を、高貴な小鬼がこちらへ向かって歩いて来る。

 その奥から飛来する、ベンチ程の大きさの、何かの塊。


「やべぇ!」


 武志はその塊を受け止めようと走り、

 恵美はその塊の速度を和らげようと術を放ち、

 大臣はその小鬼を抱えて横飛びに避けようと飛び込み、

 京子は咄嗟に指令を下し、

 陽一はそれ以外を警戒し、


 そして次の瞬間、全ての幻が消え失せた。


 宙に浮かぶ紋様が、武志達に語り掛けてくる。


“おお、素晴らしき友よ。汝らの献身に吾は心打たれた。”

“汝らゴルバーンの友に、褒美を取らせよう。”

“ゴルバーンの末裔を捜すが良い。”


「……え、えっと? 何かのクエストが始まっちゃった?」

「あはは、これ、今日中には終わらないかも知れないね?」

「末裔……って事は、集落に逆戻りか。別れを済ませてきた気持ちだったんだが!?」

「カナちゃん、ちょっと外に出て、集落に行く方針でいいかの確認と、追加の要望が無いか訊いてきて」

『はい、行って来ます』

「行ってらっしゃーい」


 ふわふわと出口を潜り抜けたカナが、二十秒もしないで戻って来る。

 武志は恵美に呆れた視線を向けたが、お遣いを頼んだ恵美は、どうしたの、と首を傾げるばかりだ。


『集落に戻る方針で、会議室も了解です。追加の要望は有りません』

「了解だ。

 ……普段の探索での、カナの役割も考えておく必要が有るな」

「カナちゃんの役割?」

「此処でならカナの仕事に溢れていたとしても、普段の探索だと採取物を探すくらいしかやる事が無いんじゃないか? そして迷宮植物は稼ぎにならない」

「あー。きっと一緒に行けば、カナちゃんの出来る仕事も何かしら見付かるよ!」


 普通のドローンが、撮影と追従+αでしか無いのを考えると、カナの性能は申し訳無いくらいに過剰だった。


「いや、配信するなら動画の編集も有る。情報収集もカナの独壇場どくだんじょうだろう」

「正しくは独擅場どくせんじょうらしいわよ?」

「ああ、京子の指示出しを覚えて貰うのも有りだな」

「ちょっと!? うちの仕事を取らないでよね!?」


 宝具の確認が笑える程に呆気なく終わって、余裕が有る分だけ再び集落へと歩いて向かう。


「ばいばーいって出て来たのに、微妙な気分」

「そう言うな。――おっと、あれは?」

『ゴランダさんです』

「よお! ゴランダ、ちょっといいか?」


 集落に向かう間にも、小鬼とは出会う。


「ホーフムチャンタ?」

「いや、ゴルバーンって知ってるか?」

「ゴルバーン? ニャシャゴルバーンフナポラングニャ」


 これは外れだなと思っていると、ゴランダに見せる様に持っていた石板画の文字が変わった。


“その者はゴルバーンの血筋では無い。”

“ゴルバーンの末裔を捜すが良い。”


 ゴランダと一緒にその文字を眺めて、そしてゴランダも一緒に集落へと向かった。

 ゴランダが集落の小鬼達に呼び掛けて、そして続々と別れを告げた筈の小鬼達が集まって来た。


“その者はゴルバーンの血筋では無い。”

“ゴルバーンの末裔を捜すが良い。”


“その者はゴルバーンの血筋では無い。”

“ゴルバーンの末裔を捜すが良い。”


“その者はゴルバーンの血筋では無い。”

“ゴルバーンの末裔を捜すが良い。”


 ……


“その者はゴルバーンの血筋では無い。”

“高貴なるゴルバーンの末裔を捜すが良い。”


 ……


“その者がゴルバーンの血筋で有る筈が無い。”

“気高きオーラを持つゴルバーンの末裔を捜せ。”


『次のゴッヒェンで、長老を除く最後の小鬼です』


 カナの言葉に促されて見守っていると、更に石板画の文字が変わる。


“此処にはゴルバーンの血に連なる者が居らぬ!!”

“おお……ゴルバーンの末裔は……ゴルバーンの血族は……!!”


 そして、見守る武志達と小鬼達の前で、石板画は突如バキッと音を立て、砂になって崩れ落ちた。


 散々馬鹿にされていた小鬼達は大喜びだ。


 そして武志はその砂の中から、水色をした玉を拾い上げる。


「どう思う?」

「長老凝り過ぎ♪」

「分析出来ないよね」

「間違い無く長老だな」

「多分全部長老の所為ね」

『長老による作品の可能性は、極めて高いと思われます』


 武志達は、達観する。

 二上山迷宮は極めて特異なダンジョンだった。

 それも恐らく、長老只一人の影響で。




 序でに、水色の玉の効果は、大鬼の幻が絶望を宿して嘆きに嘆くものだった。

 苦しみ玉と被ってるね、とは恵美の談だ。

 その言葉に、仲間達全員が頷いたのである。

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