(8)『奈良県二上山丙種迷宮第一回侵入調査実況配信』~大会議~
「錚錚たる顔ぶれだな」
と、武志は大会議室を見渡して口にした。
普段使われていない大会議室に掃除機を掛けて回るのは武志達も手伝ったが、机に置かれていく名札が豪華過ぎた。
近隣の大学から著名な研究者が足を運んでくるのは当然として、関東や九州、果ては北海道からも、テレビで見る事も多い有名な研究者達がやって来るらしい。
テレビ局は入らないが、その代わりにカナの何台か用意されていた予備機の一台が、会議中のカメラ役を担う事になった。
と言っても、発言者の顔を撮るカメラは別に有るので、俯瞰映像と配信が主な役目だ。
今もテストと言いながら既に配信を開始しているので、正面モニタに映し出された配信画面は賑やかな事になっている。
“まだかな? まだかな?”
“会議は16時からだよね? あと20分?”
“会議のチャンネルはどこから入るんだ?”
迷宮庁公式:“十六時から会議開始です。会議チャンネルは関係者のみにお知らせしています。こちらのチャットも会場のモニタには表示予定ですので、一般の方の視聴はこのまま今暫くお待ち下さい。”
“同接既に800人!”
“そりゃ、歴史的瞬間だからね!”
「うちの教授も来るかな?」
「名札も有るし、来るんじゃない? 高速使えば一時間なんだから」
「手伝いと称して研究室の面々も何人か来そうな気がする……」
「いやいや、来ても金串先輩くらいっしょ? 他は配信で見てるかな~」
「そうか? 潜れもしないダンジョンには確かに来そうも無いが、葛城山ダンジョンが直ぐ近くに在る」
「あ! 確かに分かんなくなってきたね~」
恵美、京子、陽一、武志と雑談をする傍ら、何が気になるのか大臣は立てられた名札を見て回っている。
「おい、大、何をしてるんだ?」
と武志が聞けば、気が進まなそうながらにも返して来た言葉は、
「今の文部科学大臣は、確か鈴木という名前だった筈だ」
「…………ぐふっ。お、お前、幾ら名前にコンプレックスを持ってるからって」
「え!? なになに? 何か有ったの?」
「……何でもねぇよ」
そんな感じでわちゃわちゃしていても準備は滞りなく調えられ、会場に案内されて来た人達が、二上山常駐の局員から既に配信されている旨、伝えられている。
武志達も当事者故に名札付きの席を用意されていて、代表として武志が其処に座り、残りのメンバーはその後ろに席が用意されている。
「一応ダンジョンの外では京子がリーダーだが、本当に俺でいいんだな?」
「無理! 無理無理! うちはお口にチャックよ!」
「……普段もそれくらい謙虚ならいいんだがなぁ」
そんな事を言っている間に、来客は増え、話に出て来た武志達明峰大学迷宮科の教授もやって来て、恵美を紹介したりしている内に時間になる。
「では、皆様お揃いになりましたので、これより二上山丙種迷宮における特異状況への対応検討会議を開催致します。
進行は、
お手元にご用意しました資料は三種類。ネット参加者には資料タブより、また配信にて視聴されている方はダウンロードよりご確認下さい。
資料①は、此処二上山迷宮が発見されてから現在まで約二十年間の状況及びトレンドデータです。
資料②は、本日実施しました調査で判明した事柄です。
資料③は、参考として一般的な餓鬼窟で確認された内容を纏めています。
資料の不足は有りませんね?
では、先ずはこれまでの二上山迷宮の状況について、近畿迷宮局管理課二上山迷宮管理官の葛城よりご説明願います」
「二上山迷宮管理官の葛城です。
手元の資料①は、一頁目に概要を、二頁目に推移を、三頁目から各年度での採取データを示しています。
先ず、概要に示している通り、二上山迷宮は葛城山迷宮と同様、迷宮時代の最初期に発見されています。皆様ご存知の通り、大山迷宮での各種検証実験を終えて直ぐに防御機構の造成が開始された迷宮の一つです。
当初の予定では、防御機構が完成次第、迷宮内部の調査にも取り掛かる予定でしたが、葛城山迷宮が度々
当時、それ故に二上山迷宮は観察指定迷宮とされ、昨日までは誰も侵入しない状況を保って来ました。
二頁目にその間の魔力濃度の推移を示しています。二上山迷宮の魔力濃度は、発見時点で約0.4
手元の資料③の六頁に、葛城山迷宮での魔力濃度推移を示していますが、
二上山迷宮はこれらのデータに示される通り、丙種迷宮としては魔力濃度が高めながら、溢れを一度も起こした事が無い、極めて安定した迷宮と言えます」
「はい、ご説明有り難う御座います。
只今葛城より説明有りました通り、二上山迷宮は観測上
しかし、約二ヶ月前に、丁種迷宮の一時的な拡大反応が観測されました。確認したのは地方の迷宮局員と探索者であり撮影などもされていなかった為データは有りませんが、資料③の最後に示した様に、丁種迷宮が丙種迷宮程に拡大したものと推定されます。
この現象を確認した後に、他に丁種迷宮の拡大反応が観測されていないかを調査しましたが、確認出来ず、改めて中身の分かっていない二上山迷宮の観察指定が妥当かを関係六大学含めて再検討した結果、調査が必要との結論に至りました。その理由としては、一階層目では
上記結論を得た事より、調査に従事する探索者を募集し、今回の調査員を選考しました。
画面をご覧下さい。お手元の資料②にはコンテ様に探索の状況を切り抜いていますが、実際の映像を先ず見て戴きたく。
本日実施した調査を早送りで示します。
先ず、迷宮へのエントリー時に、ドローンに積んだ測定機で環境測定しています。この結果、特に有害な成分は検知されず、また当初より餓鬼窟との予想はされていましたが、他の餓鬼窟と較べても検出結果に差異は有りませんでした。
しかし、ここでエントリーした調査員より、餓鬼窟では無いかも知れないとの報告が上がっています。餓鬼窟特有の、餓鬼の悪臭が漂っていないとの報告です。
実際にはその後確認された魔物の姿より、餓鬼窟には違い無い物と思われますが、臭気が無い、つまり衛生観念を持っているというのは、貴重な現場状況と思われます。
そして、餓鬼窟などの迷宮特有の、最初の直線を過ぎる辺りの角で、ドローンによる偵察を行ったところ、恐らく偶然に迷宮の魔物の撮影に成功しています。
それがこちら。餓鬼窟では劣等種と見られていた緑の餓鬼です。
一見して直ぐに目が行くのは、着用しているアップリケが付けられたポンチョですが、他の餓鬼窟での餓鬼や劣等種餓鬼と較べると、肉付きが非常に健康的で餓鬼という言葉の似合わない姿をしている事が分かります。
このポンチョ餓鬼を見付けた事により、調査員はその向かった先への追跡を実施し、また別のポンチョ餓鬼二体と遭遇しています。別のと言ったのは、付けられたアップリケが違う事より判別出来ます。最初のポンチョ餓鬼は赤い木の実と思われる物。その次のポンチョ餓鬼は、餓鬼窟で良く見られる地蟲に、もう一つは白い丸のアップリケです。
特筆すべきは、このポンチョ餓鬼二体に全く敵意が見られない事でしょう。
挨拶をして、警戒無く近付いて――此処で焦りを見せながら調査員に持っていた地蟲を差し出しています。配信を見ていた人からのご意見では有りますが、この時調査員が胃の辺りに手を遣っている事から、空腹を心配して食料を渡そうとしている様に見えます。実際にもう一匹の地蟲をその場で食べて見せているので、その可能性は有りそうです。
しかし、不運な事に、此処でポンチョ餓鬼の下ろした手が、調査員の持つ剣に当たってしまい、怪我を負ってしまいました。
調査員の機転で、丸でその怪我が勲章かの様に振る舞った御蔭で、ポンチョ餓鬼は手の怪我を自慢しながら去って行きました。
ここで、調査員達も対応を協議する為に撤退しています」
武志は、映像を説明している間、思わず顔を掌で覆ってしまっていた。
呻きたくなるのは何故だろうかと。
「幾分、主観による説明となってしまいましたが、調査員が撤退後直ぐに本会議を招集しましたので、映像の状況は今から二時間少し前の時点の物となります。
何かご質問御座いましたら、挙手でお願い致します。
――はい、京都大学杉原様。発言お願いします」
「京都大学の杉原だ。
確認したいのだが、迷宮内部の調査は、今映された数十分しかまだ実施されていないという理解で合っているか?」
「はい、その通りです。知性の有る餓鬼を確認した時点で、会議を招集するべきと判断しました」
「それは、他の迷宮にも知性の有る魔物が居ると考えても良いのだろうか」
「その可能性は有りますが、現時点では不明です。
――はい、他に何方か。
――はい、北海道大学加伊様。発言お願いします」
「ふむ……調査員がその特異な餓鬼と遭遇してからどの様に判断してその行動を取ったのかが分からない。それと、その餓鬼に接近した状態でも餓鬼特有の匂いはしなかったのだろうか?」
「ではこちらは調査員の代表者に回答頂きます。明峰大学茅葺様、回答お願いします」
そして、当事者故に当然武志にもマイクが回ってくる。
武志は一度顔を撫でて気を引き締めると、マイクをオンにして発言するのだった。
「明峰大学三年の茅葺だ。踏破実績は六階層だな。
質問は二度目のポンチョ餓鬼への対応と思うが、先ず匂いは全くしないとは言わないが、譬えるならこの部屋で隣に座る人間から漂ってくる程度の匂いだ。二日風呂に入っていないという奴が居れば、
それから行動の理由だな。
余り今回の件とは関係の無い話かも知れんが、この調査の報酬は最新のカメラドローンと探索用機材だった。調査に用いる物と同じ機材なら、序でに配信も試したいと申し出て、実際に先程の映像は俺達にとっての初配信でも有る。
また、俺達の当初の想定としては、出来るだけ戦闘を避けながらも、発見されたならば戦闘も已む無しで、その中で出現する魔物や他とは違う異状を調査するものと考えていた。
しかし、侵入してみれば初っ端から匂いがしないという違和感から始まり、そして出会ったのは単に知性と言うよりも文化すら感じる餓鬼とも言えない餓鬼だ。しかも極めて友好的。
しかもそんな相手への対応の一挙手一投足が、配信で逐一見られている。
つまり、この時の俺は相当のストレスを感じていた。それこそ先程の説明にも有ったが、胃の辺りが気持ち悪く感じる程に。
そんな状況で、友好的に挨拶されたなら、当然こちらも同じく挨拶を返すのだが、この時俺は少し失敗してしまっている。挨拶の為に振り上げた手に、剣を持ったままだった。もしもこの餓鬼達が武器の存在を知っていたなら、この時点で友好関係が終わっていた様な大失敗だ。
だが、餓鬼達は剣に気付かずに近付いて来た。ならば、武器を知らない、争い事自体を知らない相手と俺は想定した。そんな相手を前に、剣を鞘に納めて注意を惹く事も出来ず、おろおろしているのがその後の俺だ。
そこで地蟲を左手で受け取って、右手から注意が外れたのも悪かった。ダンジョンの床に剣は刺さらないからな。順手で剣を維持していると、傘の危険な持ち方をしている感じで
それで餓鬼が怪我をしてからの対応だが、すまん、言葉では説明しにくいが、言葉も通じない相手を宥めるには、先ず相手と同じ状況に自分を持っていく必要が有ると直感しての行動だ。後は、何て言うか、それこそ餓鬼がその姿通りに幼児か小学生低学年辺りに思えてな、勢いで何とか乗り切ったというのが正直な所だ。
これで答えになっているだろうか」
「加伊様は宜しいでしょうか?
――では他に――はい、四方大学天正様、発言お願いします」
「ええ、怪我をさせてそのまま撤退したとの事ですが、それ自体が敵対行為となるとは考えなかったのでしょうか? 探索者なら、回復軟膏は持っていたのでしょう?」
「明峰大学茅葺様、回答お願いします」
「回復軟膏は当然準備していたが、その時は何とか切り抜ける事しか頭に無く、その存在すら思い浮かばなかった。しかし、撤退後に思い返して、思い浮かばなかったのは寧ろ良かったと考えている。
人が陽の生き物なら、餓鬼は陰の生き物で、それなら人に効く薬は餓鬼には毒では無いかと思い至ったからだ。
俺達はこの会議が終わり次第、もう一度迷宮に入り、そして餓鬼に効く薬が有るなら持ち込みたいと考えている。誰か、回復軟膏が餓鬼に効くのかご存知の方が居れば、教えて頂けないだろうか」
「……ごめんなさい。私は回復軟膏が餓鬼に効くかは確認した事が無いわ」
「会場の皆さん、そしてネットや配信で見ている方で、餓鬼に効く薬を知っている方はいらっしゃいますでしょうか?
――……残念ながらいらっしゃらないようですね。
他にご質問は有りますでしょうか?
――無い様ですね。
それでは、今後の対応についての協議に入りたいと思います。
ご意見の有る方は、挙手にてお願いします。
――では、ネット参加の
「農林水産大臣の鴻だが、詰まる所、二上山迷宮は餓鬼窟に違いは無く、故に期待出来る産物も餓鬼窟と同じと見ても良いのだろうか。ならば、異状は深階層にも及んでいる可能性も含めて、逸早く攻略して次の階層へと至るのが肝要と考える」
「――京都大学杉原様、発言お願いします」
「京都大学杉原だ。資源の観点からの意見は、農林水産省として当然の事とは思うが、二上山迷宮は他の迷宮とは違う。未だ人類と敵対しておらず友好的な唯一の迷宮だ。資源の事は分けて考えて欲しい。
特に、これまで攻略の手が入っていないという事は、迷宮出現以前を知る迷宮側の存在が居るかも知れないのだから、慎重な判断を願いたい」
「――奈良県立大学川西様、発言お願いします」
「攻略を留め置いて調査を続行するとなると、どれだけの猶予が有るのかだが……。迷宮庁で何か情報は持ってないだろうか?」
「はい、川西様の質問に回答致します。
二上山迷宮の調査実施前後での魔力濃度測定の結果、これまで僅かながらですが上昇傾向を保っていた魔力濃度が、調査に入った瞬間に逆に減少したのを確認しています。
但し、これが
「ん~~……これは難しい」
「――明峰大学石垣様、発言お願いします」
「石垣だ。私の感覚で申し訳無いが、茅葺君が言う様に、ポンチョ餓鬼達にそれこそガキンチョ程度の知能しか無いのなら、自然発生的にアップリケ付きポンチョを生み出せる様な文化が育つとは思えん。即ち、それが餓鬼とは限らないが、相当に頭の良い指導者が居る筈だ。しかも、あのポンチョ餓鬼達の様子を見る限り、相当に餓鬼達を可愛がっている指導者がな。
あんなポンチョだが、七階層や八階層でも見られないものと考えると、譬え
と言うよりも、恐らく指導者は意思の疎通が出来る頭の良さが有るだろうから、餓鬼達と交渉して
いや、もう餓鬼という呼び名も改めた方が良さそうだ。小鬼とでも呼ぶのはどうだろうか」
それからも色々と意見が出はするが、中々前には進まない。
それが結局は調査が足りない故と分かっている武志は、苦笑いを浮かべながら手を挙げた。
「明峰大学茅葺様、発言お願いします」
「ああ、いや、申し訳無いが、結論が出ないのは判断材料、つまり調査が途中で終わっているからだろう。
先程も言ったが、俺達はこの後、と言うよりも、調査方針が決まれば直ぐにでももう一度ダンジョンに潜る積もりだ。
調べて来れる内容は限定的になるかも知れんが、何を調べて来れば良いかを提示頂けないだろうか。
因みにだが、俺は鎧と剣を置いて、軽装備で潜ろうと思っている。ダンジョンの探索と言うよりも、洞窟に棲む友人を訪ねる気持ちで、洞窟の中も彼らに案内して貰えないかを試すつもりだ。空き巣やこそ泥と友好を築ける筈が無いからな」
そもそも知りたかったのはそれだ。
いや、その前提としての友好の結び方だ。
だが、会議での発言を聞いていて、流石に武志も理解した。餓鬼と友好を結ぶ方法なんて、誰も知る筈が無いのだと。
その名前からすれば、食料を大量に差し入れるという手も考えられたが、どう考えても奴らはその付けられた名前通りの餓鬼じゃ無い。小鬼という呼び名の方がしっくり来る、伝承の餓鬼とは別の何かだ。
「――京都大学杉原様、発言お願いします」
「杉原だ。確かに調査は必要だが、既に敵対してしまったかも知れない相手に大丈夫だろうか。何よりも安全第一だ。リカバリー出来た失敗を気にする必要は無い。
調査対象としては、餓鬼達の生活空間と、ボス部屋の様子を確認したいが、そもそも何も分かっていないに等しい。餓鬼に案内させるという試みに期待する」
「――四方大学天正様、発言お願いします」
「何れ一階層のマップを埋めるのなら、その段階で全ては明らかになるでしょう。何から調べるのかについては、調査員にお任せするわ。
でも、薬が使えなくても、包帯だけでも持っていった方がいいわね。傷口を保護しておくだけでも治りは変わって来る筈よ?」
「――北海道大学加伊様、発言お願いします」
「ふむ、配信しているなら心配は要らんだろうが、音声サンプルは出来るだけ多く集めるように。AIに解析させてみよう」
「――他、示された案で進める他に、ご意見の有る方は?
――無い様ですので、明峰大学茅葺様、再エントリーまでの準備時間と、何か有りましたら発言お願いします」
その言葉に、武志は一度背後を振り返り、パーティメンバーと言葉を交わす。
そして向き直って、マイクをオンにした。
「十分有れば再エントリーの準備は整うと思うが、配信で使っていたチャンネルが現在会場の配信に使われている。その設定含めて、もう少し時間が欲しい」
「それなら、ドローンのAIに設定を指示すれば、AIで設定してくれる筈です」
「……なら、十五分有れば再エントリー可能と考える」
「分かりました。では、これより十五分の休憩とし、十五分後に再エントリーした映像を確認しながら会議を進めたいと思います。宜しいでしょうか?
――では、十七時半に会議再開とし、休憩と致します」
武志達は慌ただしく動き始め、そして十五分が経つ前にはエントリーコードの根元に集合していた。
「全員ハーネスの点検は相互チェックまで完了したな?
――良し。
大、インカムの音声も今は配信に乗ってるんだな?」
「ああ。と言っても、設定はカナ任せだがな。
……恵美がいつの間にかカナの声を設定していたぞ。急に話し掛けられて慌てるなよ?」
「……カナ、予定の時刻まで後何分だ?」
『予定時刻の十七時三十分まで、あと一分五十二秒です』
「随分可愛らしい声にしたな」
「皆の声を合成して、幼くしてみたよ!」
「まぁいい。配信は?」
『既に配信中です』
「良し。
――こちら武志。十七時半にダンジョン内にカメラを入れられる様、今からエントリーを開始する」
『――了解した。普段の探索とは違って戸惑うかも知れないが、気が付いた事は逐次声に出して報告をお願いする』
「――了解。
大、カナ、餓鬼改め小鬼が入り口付近まで様子を見に来ている可能性も有る」
「分かっている。
――では、滑走する」
再びエントリーを開始した一行は、速やかにカナによるダンジョン内部の確認を実施し、何事も無くダンジョンへの侵入を果たす。
武志は、二上山ダンジョンが急勾配の地形だった時用に用意していた革鎧に着替えており、担いだ盾だけが前の装備の名残だ。
因みに、革鎧に見えても、迷宮時代の常識として、どの装備にも実は鉄板が仕込んで有る。
「……さて、リベンジだ。ここから俺達は、知り合いに会いに来た礼儀正しい客だ。調子に乗って馴れ馴れしくするなよ京子。目的は、俺が怪我をさせてしまった小鬼のお見舞いだ。手土産には局員提供の地蟲の木彫り。山道で擦れ違ったら、見知らぬ相手でも挨拶を交わすそのノリだぞ? こちらが警戒を見せたなら、相手を警戒させる事になると思え」
「……良くこんな木彫りが都合良く有ったな」
「何でも、近隣のダンジョン土産は一通り揃えていたんだと。
まぁいい、今回は
では行くぞ!」
そう武志が告げて、一行は歩き始める。
しかし、有言実行に武志はリラックスしていた為か、前回とは違った所にも違和感を感じる様になっていた。
「大……このダンジョン――いや、ダンジョンの壁、少しおかしくないか?」
「……具体的に言ってくれ」
「いや、随分と荒れている様な気が……」
「荒れて? ――ちっ、斥候でも無いのによく気が付きやがる」
「え? 全然分からないんだけど?」
「壁の下に砂が溜まっている。ダンジョンの壁は傷付かないから、砂が溜まる筈が無い。
ちょっと詳しく調べたいが、残念ながらお客さんだ」
「いや、心待ちにしていたお客様だ」
場所としては、前回の邂逅場所と殆ど同じだ。うねる洞窟で陰になった向こうから、ペタペタと足音が聞こえて来ていた。
そして姿を現したのは、葉っぱのアップリケを付けた、見知らぬ小鬼。
武志は予め決めていた通りに、右手を上げて朗らかに挨拶を交わそうとした。
「よぉー! 元気に……」
しかし現れた小鬼は、武志達の姿を認めると、耳元まで裂けそうに牙を剥き出しにした、そんな凶相を浮かべて、嗤ったのである。
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