【富士見ノベル大賞】あらすじ
結末までのあらすじ
子爵令嬢のシャルロッテは、美しく華やかな妹とは対照的に地味で目立たない存在。家族にも顧みられない彼女は自分の力で生きていこうと小説家を目指しているが、なかなかうまく行かない。そのため、少し風変わりな趣味を持つ侯爵の家で官能小説の朗読をするという怪しい仕事をして生活資金を貯めている。
ある日、妹の付き添いで嫌々夜会に出席したシャルロッテは、不埒な男に関係を迫られそうになる。けれど、そこから颯爽と助け出してくれた美丈夫がいた。自分の書いた物語のどのヒーローよりもかっこいい彼にときめくシャルロッテだったが、男は名前も告げずに消えてしまう。
偶然本屋で再会を果たすと、男はリチャードと名乗る。貿易商を営む男爵家の生まれで財産に恵まれている彼は、シャルロッテの怪しい朗読の詳細を聞き、代わりに自分の仕事の手伝いをしてくれないかと持ちかけてくる。それは手紙の代筆や新聞の読み上げといった些細なことだった。
シャルロッテは代読と代筆をしながらリチャードと過ごす時間を心地よく感じるようになる。けれど、所詮金持ちの道楽であるとの感覚が拭えなかった。しかし、跡継ぎであるリチャードの兄、パトリックへの手紙を書いたところから事態は一変する。
シャルロッテが代筆した手紙を読んで激昂し屋敷に乗り込んで来たパトリックは、シャルロッテを阿婆擦れと罵倒する。そして、シャルロッテはリチャードが読み書きに多大な困難(識字障害)を抱えていることを知ってしまう。リチャードが自分に代筆と代読を頼んだ本当のわけを知り、シャルロッテは己の傲慢さを恥じる。シャルロッテは、リチャードの事情を知った上で仕事を続けたいと彼に申し出る。
シャルロッテは、仕事の合間にリチャードに物語を朗読するようになる。リチャードはそれを快く感じる反面、自分が彼女に恋愛感情を抱き始めていることに戸惑いを覚えていた。
リチャードはパトリックの仕事の手伝いの一環で、シャルロッテにストールとピンを贈る。彼が選んでくれたそれは不思議とシャルロッテによく似合い、シャルロッテは深い喜びを感じる。しかし、妹にそれを盗られてしまう。
失意の中、シャルロッテは彼への想いを映したような『王様と金糸雀』という物語を書き上げる。それは、呪いで金糸雀の姿に変えられてしまった女が王様と愛し合うようになり、キスで呪いが解けるというありきたりなものだった。他の本を朗読しているふりをしてリチャードに自分の物語を読み聞かせたシャルロッテだったが、物語の結末に納得できずにいた。
雪の降る帰り道、盗られたストールを思い寒がりながら帰るシャルロッテをリチャードは追いかけ、己のマフラーを彼女に巻く。そして「呪いは誰かに解いてもらうもの」と言って彼女の頬にキスをする。
リチャードへの想いを自覚し始めたシャルロッテの元に、パトリックが訪ねてくる。彼は識字障害があっても商才のある弟に跡を継いでほしいと思っており、そのための説得をシャルロッテに願い出る。
シャルロッテはリチャードと話し合おうとするが、そこでパトリックの名を口にしたところで彼の態度が急変する。リチャードは兄に対して強い劣等感を抱いており、読み書きができないという現実は彼の孤独をいっそう深めていた。リチャードは本音を吐き出し、思わずシャルロッテを激しく求めてしまう。しかし寸前で思いとどまり、彼女との雇用契約を解消する。
シャルロッテは、リチャードの孤独を思いながらもそれを全て理解することはできないのだと思い知る。そして、『王様と金糸雀』の物語の結末を彼を思いながら書き変える。それは、金糸雀が呪いを解いて人間に戻る物語ではなく、金糸雀のまま王様と共にあろうとする物語だった。
やがて、書き変えた物語――『金糸雀と王様』は無事出版される。自分を取り巻く世界が少しずつ変わったことをまだ実感できない彼女の元に、一通のファンレターが届く。その不器用な筆跡を見てリチャードからの手紙であるとシャルロッテは気づく。
手紙を見て居ても立っても居られなくなったシャルロッテは何かに急き立てられるように本屋に向かう。そこでリチャードと再会し、二人は真に互いの想いを知る。かつて誰にも必要とされなかった作家志望のシャルロッテは自分の物語で誰かを救えたと実感し、またひとりで孤独を抱えていたリチャードは彼女を信じることで初めて心の孤独から解き放たれるのだ。
君の声を読む~朗読は秘密を抱えた恋の始まりでした~ 藤原ライラ @laylalion1222
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