第29話 『金糸雀と王様』

 むかしむかし、あるところに金糸雀がいました。


 金糸雀はとても美しい声で鳴くことができますが、それは上等な金の粒を食べた時だけ。


 その声は評判でしたが、金糸雀は気位の高さから様々な飼い主に疎まれ、転々と渡り歩いていました。


 ある時、金糸雀は王様の所へ連れていかれます。

 王様は王様ですから、山ほどの砂金の粒を持っていました。金糸雀は金の粒を食べて、檻の中で思う存分歌いました。


 王様は金糸雀の声を気に入り、そばに置くことにしました。

 ある時、金糸雀が話をし始めました。


「わたしは、昔、人間だったのです」


 人間だった時の金糸雀も美しい声を持っていましたが、悪口を沢山言って沢山の人を傷つけました。

 だから鳥に姿を変えられてしまったというのです。


 自分を真に愛してくれる人が現れれば、金糸雀の呪いは解けます。だから、沢山の人に金糸雀は愛を囁いてきました。


 その話を聞いた王様は言いました。「そうか、あなたが鳥でよかった」と。


 金糸雀は怒って鳴きました。けれど王様は笑います。


「私は、人間の言葉が何も信じられない」

 それは、とても悲しい笑みでした。


「だから人のあなたのそばにはいられなかっただろう」


 ある時、王様にとてもつらいことが起こります。

 家来の一人が王様を殺そうとしたのです。

 王様はその家来を牢に閉じ込めました。


「ほうら、人は簡単に人を裏切る」

 王様はまた悲しく笑いました。


 金糸雀はこの時はじめて、自分の為ではなく王様のために人に戻りたいと思いました。


 王様を抱きしめてあげたかったからです。鳥のままでは、王様を抱きしめることはできません。


 けれど、人となった金糸雀の言葉を、王様は信じてはくれないでしょう。


「どこへでもお行き。私と違って、あなたはどこででも生きられるから」

 そう言って、王様は、金糸雀の檻を開けました。


「私の代わりに自由に生きておくれ」

 けれど、金糸雀はどこにも行きませんでした。王様に向かって金糸雀は歌います。


 あなたを慰めることが叶うのならば、私は永遠に金糸雀で構いません


 あなたのそばにいることだけがわたしの望みです

 眠れぬ夜が怖いのなら、子守り唄を歌いましょう

 目覚めぬ朝が恐ろしいのなら、夜明けの歌を歌いましょう


 どんな時もただ、あなたを愛しています


 金糸雀はそっと、王様にキスをしました。



 金糸雀と王様がどうなったのか、知る人はいません。

 けれど、王宮にはいつまでも、やさしい歌が満ちていたそうです。

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