第20話 相手はアカコーだ。三回コールドをめざすぞ


「今日の相手、俺、知らねぇんだけど、強いの?」


「さすが、山田。赤松学園も知らないとは、そのチンパンっぷり、拍手に値する」


「あん? 竹井、てめぇ、やんのか、あん?」


「教えてやるから、キレるな。アカコーは、日本で十指に入る超進学校。勉強対決なら、こっちが三振パーフェクト級の完全敗北をくらう高校だ。胎児の時から参考書を読んでいなければ入れないほどのイカれた学校だそうだ」


「母親が参考書を飲み干さねぇと入れない高校か。楽しそうだな」


「須藤、確か君、一応、偵察に行ったんだよね? どんな感じだった?」


「知らーん」


「なんだよ、知らんって」


「見てないんだから知らん」


「はぁ? 偵察行ったんだろ?」


「練習してなかった」


「須藤、お前、運ねぇな。休みの日に偵察いくなんてよぉ」


「違う。運のよしあしでいえば、確かに、良くはない方だったが、しかし決して悪くはなかった」


「なんじゃそりゃ」


「どういう意味?」


「調べたところ、あそこ、週に二回しか練習してないんだよ。7分の2をはずしただけ。俺の運は良くも悪くもない」


「二? え、週二回だけ? 練習が? はぁ?」


「ぶっ……ぶははははは! 高校野球で週二?! そんな所あんのかよ! 今日の相手、すげぇな、おい!」


「それしきのことで笑ってもらっちゃ困る。アカコーの運動部は、三年の大半が五月に引退するのが通例になっていて、現在、三年は一人だけ。ほかはすべて一・二年とウチと同じような構成。ただ、ウチと違い、主力は一年だ。なんせ、二・三年が合わせて二人しかいないからな」


「……おいおい、なんかもう、すごすぎて笑えねぇよ。そんな状態で、なんで、甲子園大会に出場しようと思ったんだ? 近所のちっせぇ草野球大会でも初戦コールド待ったなしな勢いじゃねぇか。あいつら、ほんとに頭いいのか? ものすごいアホにしか思えねぇぞ」


「理由は、あいつかな」


 言いながら、須藤は、マウンドで投球練習をしている男を指さす。

 振りかぶって、鋭く腕を振る。

 ほとんど同時に、ミットがいい音を出した。


「……およ? そこそこの球、投げてんじゃねぇか」


「練習は休みだったけど、あいつは一人で投げてたよ。一応、球速も測っておいた。見た時のマックスは135だった。ちなみに一年」


「一年で、左で……30超えか。一流の素材じゃねぇか」


「ていうか、須藤、お前、あいつのことは知っていたのかよ。全然知らん事ないじゃないか。言えよ」


「週二しか練習しないカスの中に一人、ネットに向かって小マシな球を投げているヤツがいましたって報告、意味あるか?」


「……ねぇな」


「所詮は、30台そこそこの、ちょっと速い球を投げる雑魚が一人いるだけのチーム。偵察報告なんて、知らんで充分だろ」


「甲子園大会のレベルじゃねぇ事は確かだが、しかし、素質は本物だ。あいつ、なんで、あんな高校にいんだよ」


「たぶん、マンガ症候群」


「マン……ん?」


「H2とかメジャーみたいに、弱小に入って、自分の力だけで強豪を倒そうと夢想する病気。毎年、何人かは発症するみたいだよ」


「マジかよ、よかった、感染しなくて」


「いやいや、俺らは、どっちかっていうと、発症しているほうだろ。わざわざ新設に入ってんだから」


「俺は、提示されたメンツと設備を見て決めた。弱小に入ったつもりはねぇよ。実際、去年は一年だけでベスト8まで進んだじゃねぇか」


「秋と春は、どっちも二回戦で負けたけどな」


「西教と字石に当たっちまっただけだ。俺たちは二回戦レベルじゃねぇ」


「そうだな。でも、結果を出さないと、みっともない遠吠えだ」


「だから、勝つんだ! 今年は運がいい! 運悪くシード取れなかったと思ったら、神様は、俺らに、勢いをつけるための踏み台を用意してくれた! アホな勘違い一年生投手のワンマン弱小高校なんざ、片手でひねりつぶしてやるぜ! 神は言っている! 今年は俺たちの時代だと!」


「そうだな。今年は、もしかしたらってレベルにまでは達したし……よし、神様のご厚意に甘えさせてもらって、思いっきり勢いをつけよう」


「今日は五回……いや、三回コールドを目指す!」


「左の30超えが相手だぞ。さすがに三回コールドは厳しいだろ。七回なら余裕だと思うけど」


「あの一年がマシなのは認めるが、『中学出た直後にしては、すげぇ速い』ってレベルでしかねぇだろ。そんでもってバックは、マシンガン被害を受けた蜂の巣状態のザルだ。その程度のカスを三回コールドにもできないようで、そのあとに控えている三国や西教に勝てるか!」


「ま、それもそうか……よし、じゃあ、三回コールド、狙ってみようか」

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