梅干しと味噌と、ちょっとだけ素直(1)
昼休み、教室の隅。
ポケットに突っ込んだ手で、俺はミカにおにぎりを差し出した。
「お前、今日もパンだけ? 腹減るだろ」
「ありがと。でも、これ、どうせ梅干しでしょ」
「お前、梅干しナメんなよ。ビタミンCなめんなよ」
ミカは笑いながら、おにぎりを受け取った。
頬がほんのり赤いのは、梅干しのせいにしてやる。
「どうせなら、ツナマヨがよかったなー」
「文句言うな、あるだけありがたく思え」
「えらそう」
ミカは口を尖らせながらも、ちゃんとおにぎりにかぶりついた。
俺はその横顔をちらっと見る。すぐに目をそらす。
「なに見てんの?」
「見てねえし」
「ウソだ〜」
わざとらしく首をかしげるから、ついムキになって言い返した。
「見てたのはお前がちゃんと食ってるかって、それだけだから」
「ふーん。心配性だね」
ふっと笑うミカの声が、なんかくすぐったい。
でもそんなこと言える空気じゃなくて、俺は残りのおにぎりをかじった。
「……味噌、うめえ」
「それ、私が好きなやつ!」
「さっきツナマヨって言ったよな」
「ツナマヨはツナマヨで好きだし、味噌は味噌で好きなの!」
こいつ、どっちでもいいんだろ、って喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
たぶん、そんなとこが俺にはちょっと、ずるい。
昼休みのチャイムが鳴る。
ミカは名残惜しそうにおにぎりを抱えて、立ち上がった。
「また作ってきてよ」
「なんでだよ」
「べっつに? なんとなく?」
ミカはニッと笑って、手を振った。
俺も小さく手を挙げる。
たぶん、明日もまた、梅干し握ってくる。
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