優しいゴーレム(仮)

 ゴーレムを動かすには、その中核にある魔石に魔力を送り込まなければならないと言う。そして動かすのに必要な魔力とは、霊魂ひとつ分。レイちゃんは今まで集めた霊魂をすぐに食べずに幾つか持っていた。そのひとつを自分の魔力に変えてゴーレムを動かせるのだと言うが⋯⋯。


「レイちゃん、本当にいいの?」

『いいでちゅよ? でも、魔力を供給ちた者の魔力が登録されるので、このゴーレムの主人ちゅじんはあたちになりまちゅが大丈夫でちゅか?』


 この異世界にも生き物はたくさんいるが、レイちゃんは無為な殺生はしない。心優しきレイスなのだ。私が知る限りでもあの事故物件の除霊と、私を助けるためにモンスターの霊魂を刈り取ったくらいだろう。

 その大切な霊魂をひとつ使ってくれると言う。レイちゃんならこのゴーレムの主人に相応しいだろう。


「何にも問題ないよ! レイちゃん、やっちゃって!!」

『わかりまちた♪ 任ちぇてくだちゃい!』


 このゴーレム、石像みたいだと言ったが、よく見ると岩肌に見えた白い部分は金属質な装甲だ。関節もちゃんと駆動部が見えており、明らかに人工的なロボットみたいなものだと言える。何故か錆びてはいないものの、動くかどうか眉唾ものに思えてきた。

 大きな胴体に丸い小さな頭。大きな手が伸びていて、足は太くて短い。だらりと力なく座り込んでいるような体勢で静かに眠っているようだ。


 レイちゃんが苔生した巨体の背中に回りこんだ。小さなつまみがあり、それを回してふたを開けると核へと魔力を送り込む為の供給口が現れた。そこにレイちゃんが手を入れて魔力の供給を始める。

 私はちょっと怖いので、バールを強く握りしめているが、ファムはこのゴーレムが気に入ったようで、体の上に登ってきゃっきゃと喜んでいる。


 ブン⋯⋯。


「お?」


 ゴーレムの目?に薄っすらと光が宿った気がする。


「モ⋯⋯モモ⋯⋯」


 頭の上に生えていた花のつぼみがふわっと咲いた。偶然だろうか?


「んん? 何か言った?」

『ご主人様ちゅぢんちゃまのお名前をどうぞって言っているでちゅ』

「え? レイちゃんどうしてわかるの?」

『お姉ちゃんの言葉がわかる理屈りくちゅと同じでちゅ』

「念話のようなものか⋯⋯」

『では、いきまちゅよ! 「れいちゅ」』

「レイチュ⋯⋯モッ、モモ。モ⋯⋯モッモ?」

『レイチュで登録。個体名をちゅけまちゅか?と言っておりまちゅ』

「個体名⋯⋯苦手だなぁ⋯⋯。レイちゃん何かある?」

『あたちも苦手でちゅ。何か優ちちょうなお名前が良いでちゅね』

「優しいね⋯⋯ゆうあいこころ⋯⋯」

「ゆう、あい、ここも?」

「ファム、『ここも』じゃなくて『こころ』⋯⋯ああ、いいね? 『ココモ』にしよう!『ココモ』」


 心と愛でココアとか安直につけなくて良かったじぇい、セーフ!


「ココモ⋯⋯モッ、モモ」

『ココモで登録ちまちた』


 ブゥン⋯⋯ン⋯⋯。


「あれ? また魔力切れかな?」


 ブン⋯⋯チチッチ⋯⋯。


「あ、また動いた?」


 ゴゴゴゴゴ⋯⋯ゴッ⋯⋯。


 ココモが埋もれていた体を地面から剥がれるように立ち上がった。


 大きい。ゆうに二メートルはあるだろうか。これがモンスターとかじゃなくて良かったよ。


 体に付着した土がパラパラとこぼれ落ち、そこに生えていた草花を剥き出しになった地面へ戻してゆく。

 動き始めてすぐにその優しさの片鱗を見せてくれるココモ。周辺に落ちていた種子もそこへ植えてゆく。これが命令ではなくデフォルトで行われるなんて。素敵すぎるよ、ココモ!


「モモ⋯⋯、モ⋯モ?」

『ご主人様ちゅじんちゃま、何なりとご命令をでちゅって?』

「んん!? 命令って⋯⋯何でも?」


 何でもとか言われたら困ってしまう。実際とくにしてもらうことも⋯⋯まあ、無いこともないかな?


「モモモ、モ⋯⋯モモ」

『可能であれば何でも、って言ってるでちゅ?』

「そう⋯⋯それじゃあね? 私が種や苗を買ってくるから、それを育ててくれるかな? 後は自由にしていていいけど、あそこの跳ね橋からよそ者を通さないで欲しいんだけど⋯⋯タイプ・アイギスじゃないから無理?」

『命令ちてみまちゅ!』


 レイちゃんが何事か命令をしているようだ。レイちゃんて優秀すぎない?


「モ! モ、モモモモモモ⋯⋯モモ!」

『かちこまりまちた。アイギスあいぎちゅほどの適性てきちぇいはございまちぇんが、頑張りまちゅって!』

「わあ、嬉しい! ココモ、よろしくね!!」

「ココモ〜♡」

『ココモたん♡』

「モ⋯⋯」


 何だかモジモジしてない?


『あはは、照れてるでちゅ♪』

「コモコモ〜♪」


 えらくファムが懐いてしまった。そしてやはりこの子には心があるようで、私から見るとゴーレムは知らないけど、ロボットが照れてるだなんて、少し不思議な気分だ。

 だけどこちらの世界で作物が作れる上に、門番が雇えるなんて願ったり叶ったりだよね?


 それにしても⋯⋯。


 何これ??


「ええええええええ〜っ!?」


 ココモの周りに大小様々な動物が集まって来て押し合いへし合いしている。頭や肩にもところ狭しと小鳥が集まり、足元にはココモを中心にお花畑が広がっている。


「なぜっ!?」


 不思議に思ってるのは私だけか。二人ともとても喜んでいるのだから、それだけでもココモの恩恵に感謝だ。



 そう言えば宮殿内で他のゴーレムは見たことがないし、庭園にもこのゴーレム以外は見当たらない。千年もココモが風化していないのであれば、他のゴーレムとて同じだと思うのだが⋯⋯まあ、考えてもわからないので、いつも通り思考放棄だ。


「ファム、嬉しそうだね?」

「ふみゃ♪ ファム、うれしい! ココモ、おともだち?」

「モ⋯⋯」

「やった♪ おともだち〜♪」

「え? ファムもわかるの? ココモの言ってること?」

「ファム、わかるよ? レイねいちゃん、おなじ!」

『ファムはちゅごいんでちゅ。感覚神経かんかくちんけいも発達しているけれど、目の他に複眼もちょなわっているち、大きくなると羽も生えてくるでちゅよ♪』

「ぇ⋯⋯?」


 今更だけど、なんだか凄い情報がいきなり入ってきたぞ? 確かに背中にもふもふした毛が生えていたけど、まさかこれが羽になるだなんて? そして頭についていたポチポチは複眼だった!? いったい何のキメラだよ!! いや、聴かないけどね!? 怖いから!!


「私から見ると、二人とも十分過ぎるくらいに凄いよ? むしろ私には何も無いように思えるくらい⋯⋯」

『お姉ちゃんは凄いでちゅ!! 何がちゅごいか説明ちぇちゅめいできないでちゅが⋯⋯とにかくちゅごいんでちゅ!!』

「そっかそっか〜」


 そりゃ何も無いから説明なんて出来ないんだよ。そこにあるのはレイちゃんの優しさと言うものさ。

 私はレイちゃんが口をとがらせてプリプリ怒って膨らませているほっぺたに、そっと優しくキスをした。


『うきゃ!?』


 レイちゃんは両手で自分の頬を挟みこみ、顔を耳まで真っ赤にして口をパクパクさせている。ふふん、お可愛いこと♡


『なっ、なっ、なっ⋯⋯』

「妹に可愛さ余ってキスしちゃったぜ。ごちそうさま♡」

『お姉ちゃんがオスおちゅになったでちゅ!?』

「そんなこと言ってると襲っちゃうぞ〜?」


 そう言ってレイちゃんの体をコチョコチョと触りまくる。レイちゃんは身悶えしながらころころと転がった。


『おね、お姉ちゃんてばっ! や。やめ! やめて──きゃははははは⋯⋯ひゃん!?』


 おっとファムも参加してこれはレイちゃん耐えられるか!? ってこれ、やり過ぎると怒られるんだよね。と言うわけでこのあたりで。


「ぎゅ〜!」

「ぎゅ〜♪」


 適当なところで体を抱きしめてあげる。うんうん、ファムも一緒にね。


『⋯⋯ふぅ、もうっ! いっぱいわらっちゃったでちゅよ! えへへ〜♪』


 そう言って照れ笑いするレイちゃん。


 私は凄くないからね? せめて二人に笑顔と愛情をたっぷりと与えてあげたい。そう思ってる。






∴『優しいゴーレム』=『命名ココモ』





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る