チート冒険者の再就職先
ちびまるフォイ
チート冒険者、新たな旅立ち
「社長、我が社はもうやばいです」
「秘書くん……どうすればいいと思う?
業績は右肩下がり。従業員もいないから作業は激務。
これにより、ますます入社希望は減る悪循環……」
「そうですね……」
「めちゃくちゃ仕事ができる人が、
なにかの手違いで我が社に来てくれないかなぁ」
「そんな転生物語みたいな……あ」
「秘書くん?」
「社長、その手がありました!
チート冒険者を採用しましょう!!
彼らはすさまじい生産性を発揮するはずです!!」
「でもこんな場所に来てくれるかなぁ。
それに冒険者って冒険やスローライフで忙しいんじゃないの?」
「大丈夫です。彼らの作品の多くは未完でくすぶっています。
作者に逃げられた人も多い。新天地を求めているはずです」
「よくわからないけど、秘書くんに任せるよ」
「お任せください」
秘書の読みは正しく、かつて栄華を誇ったチート冒険者たちが会社にやってきた。
「ここで仕事をすればいいんですか?」
「はい。マニュアルはこちら。
ぜひこの会社で君たちのチートを存分に活用してください」
チート冒険者を採用するや、会社は一気にV字回復。
どんなに仕事ができる人でもチートがなければ、
彼らが生み出す生産性の半分にも満たない。
「社長みてください! 株価爆増ですよ!!」
「ち、チート冒険者ってすごいんだね秘書くん……」
「はい。彼らはチート能力でなんでもかんでも操作できます。
普通の人が8時間かかる作業も秒殺です。
そして、それを誇示することが生きがいの生物ですから」
「彼らに来てもらってよかったよ。
これからはどんどんチート冒険者の再雇用を進めて業績をあげよう」
「はい!!」
会社の成長は留まることを知らない。
新商品の開発。
新サービスの提供。
新人類の生産。
これまで世界になかったあらゆるものをチートで生み出し、
会社は世界に名を連ねるほどの大企業となった。
警告状が届くまでは。
「しゃ、社長! 大変です!」
「どうしたんだね秘書くん」
「うちの粉飾決算が指摘されました!!!」
「え、業績ウソついてたってこと!?
どうしてそんなことを!? 普通の成績でも十分なのに!」
「それは……わかりません」
「誰がやったのかはわかるのかね?」
「はい……。チート冒険者です……」
「ちょっと社長の僕から話してみるよ」
社長は別室にチート冒険者たちを集めて話を聞くことにした。
データを偽っていたのだが、彼らには申し訳なさそうな顔色が無い。不思議。
「……というわけで、君たちが粉飾決算に関わってることが内部監査でわかった」
「なんでわかったんです?」
「チートで消したのに」
「今からチートで記憶消す?」
「いやいや時間を巻き戻そう」
「いや話し聞けって」
社長はがっくりと肩を落とした。
きっと学級崩壊している担任の先生も同じ感じなのだろう。
「君たちは人外の力であるチートを持っている。
だが、この会社ではアンチ・チートもあるので
君たちがチートでいくらズルをしてもわかるというわけだ」
「なんだって! そんなのずるいぞ!」
「そうだ!! チート使わせろ!」
「チート使わせないなんて、ルール違反だ!」
「君たち、チートの意味わかって言ってる……?」
「"特殊能力"ってことだろ」
「なにを今さら」
「しょうがないよ。ジジイだもん」
「はぁ……。とにかく、もうズルがバレたのは事実だ。
ここに集まってもらったのは話を聞きたいからなんだ」
「話し? 自分語りはしたいけど話を聞くのは嫌だなぁ……」
「なにか理由があるんだろ?どうして粉飾決算なんかしたんだ。
君たちの能力は十分に優れている。
ありのままの結果でも十分すごいじゃないか」
「だって……ねぇ?」
チート冒険者たちはお互いの顔を合わせる。
その目には同じ思いが込められているようだった。
「教えてくれ。どうしてこんなズルしたんだ。
実績以上に評価されたかったのか?
それとも誰かにそう命令されたのか?」
「そんなわけない」
「だよなぁ」
「やっぱ戻りたいよなぁ」
チート冒険者たちは顔を横に振った。
そして社長にかねてから温めていた提案をする。
「社長、こんな悪いことを俺達はやりました」
「え? あ、ああ。そこわかってるんだ。意外……」
「だから、当然その罰は受けるべきですよね?」
「そりゃまあ……」
チート冒険者たちは目を輝かせて言った。
「早く会社から追い出してください!
何か組織から追い出されると、また新作に転生できるんです!!」
かくしてチート冒険者たちはまとめて新天地へと送られた。
次回は『業績を世界1位にしたのに追い出されたので、気ままなスローライフを始めます』という世界らしい。
チート冒険者の再就職先 ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます