イマジナリーフレンドの殺人 - 四方探偵事務所

あらひねこ

第零話

叩きつけるような雨の中、私の意識は次第に薄れつつあった。涙目で必死に蘇生措置を行う彼女の姿を、ただ視界の端にとらせることしかできなかった。


あぁ、私のために泣かないでおくれ。瞼から零れ落ちるその美しい涙を拭ってやりたい。しかし私の腕はもう前後に揺らすことすらできない。無様に口を開け舌を出し涎を垂らすことが今の私の精一杯だ。


―――憎い、憎い。彼女を泣かせた者が憎い。私なんかの為に涙を流してくれる彼女を、ちっぽけな命のためにここまで身を粉にする彼女を、いったい誰が追い詰めた。彼女がこれ以上傷つかなくていいように、私に何ができる。


その答えが出るまもなく、慈愛と悲哀に震える彼女の腕の温もりのなか私は静かに息を引き取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る