第19話

《ソルディア空中制圧戦》——その前夜。


機神アトワイトの機内。中央指令室では、蒼白の魔力光が穏やかに脈動し、戦闘準備とは思えぬ静けさが漂っていた。

アトワイトは、都市の浮遊ルートを映し出す立体投影を前に、目を細めていた。


「ソルディア——浮遊都市を連ねる軍事貴族連盟。政治は貴族同士の結託、平民は階層下層で重税と労役。空の上で黄金を食み、地の民に泥水を飲ませる国」


ユリウスが隣に立ち、首をかしげた。


「だが軍事力は、歴史的に見ても並ではない。空挺騎士団、浮遊砲台、そして独自の空間魔術。正面衝突では、損耗が大きすぎる。作戦案は?」


アトワイトの唇が僅かに吊り上がる。


「“落とす”わ。都市そのものを、大地へ」

「……え?」

「彼らが誇る空の牙城——浮遊都市ペルトーラを叩き落とすのよ。象徴を喪失した貴族連中の統率は、崩壊する。戦争は一撃で終わらせる」


ユリウスは呆気に取られたようにアトワイトを見る。


「そんな破壊が……可能なのか?」

「《グロリア》の脚部に格納された“重力歪曲砲”——本来は禁忌兵装。だが使える。標的の浮遊核を一点崩壊させれば、支柱構造の共振連鎖が起きて……都市全体が、落ちる」


彼女の声は凪のように冷たい。


「貴族の会議が行われている最中を狙うわ。群れた豚が一度に処理できるもの」

「……民間人は?」

「空の都市に住む一般民など、ほぼ存在しないわ。民は“浮かぶ貴族”の夢を支える燃料。全員地上に置き去りよ。だから落とせる。落としていい」

「なるほど……なら、準備に入ろう。全魔導機構の同調開始、エネルギー収束までおよそ六時間」

「十分よ。その間に“選ばれた民”たちにも、立ち会ってもらう。彼らに見せるの。“天が地に堕ちる”瞬間を」


背後のモニターに、かつてアクレシアで救出された者たちの姿が映る。

人間扱いされなかった者たち。

地に這い、蹂躙され、奪われてきた者たち。

だがその目に、今は確かな光が宿っていた。


アトワイトはそっと呟いた。


「これは、ただの制圧じゃない。

——“神話の終焉”よ。空に君臨していた偽りの神々を、地へと引きずり下ろす」


そしてその時、最前方のセンサーが告げる。


《標的:浮遊都市ペルトーラ、射程内に突入》


「始めましょうか、ユリウス。征服劇第二幕——“空の裁き”を」

「了解。全システム、開戦モードへ移行。

——《ソルディア空中制圧戦》、開始する」


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