第18話
《アトワイト》機内——副制御区画。
焼け落ちたアクレシアの聖都から、辛うじて回収された数百名の生存者たちの情報が、次々と解析されていく。
その光景を、アトワイトとユリウスは無言で見つめていた。
「こちら、旧神官の少女。12歳。階級制度により寺院で労役。栄養失調、拘束痕あり」
「こちら、貴族階級の男。公爵家三男。家族内での魔力競争に敗れ、17歳で地下牢送り……」
「こちらは街の雑貨屋の老女。高額課税の末に家族離散、収監直前に逃亡。左足を失っている」
端末を操作していた補助AIが、静かに報告を続ける。
ユリウスは拳を握り締めていた。
「……これは、まるで……地獄だ」
「ええ」
アトワイトが短く応える。
「驚いた? あの“白き神殿国家”の正体は、こんなものよ。光の外套の下で、何万人が搾取されていたか。どれだけの血と苦痛の上に、秩序を築いていたか」
「僕は……正直、そこまでとは思っていなかった。あの国の美しい外観に、まんまと欺かれていたんだな」
彼は膝に手を置き、深く呼吸した。
アトワイトの表情には怒りも哀しみもない。ただ、静かに受け入れていた。すでに知っていたというように。
「それでも、生き残った者たちは、あなたの砲撃を見て“解放”と感じた」
「……救いだなんて言うつもりはない。私は破壊者よ。でも、せめて、“壊されて初めて気づく世界の本質”もある」
アトワイトは立ち上がり、モニターの一つを指差した。
そこには、白髪の少女が、砲撃の後で泣きながら瓦礫の下から空を見上げていた映像。
その目は、ただ涙だけでなく——“光”を見つめていた。
「この子は、私に言った。“やっと、神様が罰を与えてくれた”って」
「……皮肉だな。君が“神殺しの姫”と呼ばれる日が、来るかもしれない」
「構わないわ。私にとって神なんて、最初から敵だったから」
しばしの沈黙。
「……ユリウス、次の標的に進む前に、この生存者たちに“選択”を与える」
「選択?」
「このまま自由に生きるか、あるいは——私と共に、世界を変えるために戦うか。
かつて虐げられていた者たちが、新たな秩序の礎になるべきよ」
ユリウスは頷いた。
ただの征服ではない。破壊の後に、新たな構築が始まりつつある。
「いいだろう。なら、僕もその“新秩序の建築家”として、協力させてもらうよ」
「期待しているわ。ユリウス——私の“右腕”として」
次なる標的、ソルディア空中都市群へ向けて。
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