第16話

飛翔する超巨大機神グロリアの機体に、ユリウスはひとり、静かに乗り込んだ。

格納庫の扉が自動で閉まり、内部の魔力循環が彼の存在を検知する。


「……相変わらず、無駄がない」

内部構造は以前とまるで変わっていなかった。殺戮を最短で行うために作られた機体、その洗練された配置。

そして、その中枢——“玉座”の間には、彼女がいた。


「久しいな、ユリウス」

背を向けたままの声。

淡々としているのに、どこか懐かしく、そして……残酷だった。


「アトワイト。君は……やはり、最初からこのために?」

「婚約破棄は始まりに過ぎない。滅んで当然の国を、終わらせた。ただそれだけよ」

「それで……今度は、世界を?」

「ええ、世界を一度、白紙に戻すの。その上で《新秩序》を築くために。あなたは、それを手伝いに来たのでしょう?」


ユリウスは数秒の沈黙ののち、頷いた。


「……ああ。僕のすべてを賭けよう。君が望むなら、どんな世界でも創ってみせる」

「よろしい」

彼女が振り返る。

その瞳に灯るのは、かつての無垢な少女ではない。“破壊の王女”と呼ばれ始めた、冷酷な征服者の眼差しだ。


「まずは、かつて我々を嘲笑した《四大列強》を順に潰すわ。最初は——“エグリオン神聖連邦”」

「旧神学国家か。確か、君が処刑命令を下された国だったな」

「ええ、私を“魔女”と呼び、火刑に処そうとしたあの愚か者たち。まずはそこの首都を、空から焼き払うわ」


その瞬間、《グロリア》の全魔力炉が唸りを上げた。

空間が歪むほどの魔力圧。

超高度飛行のまま、機体は進路を変更する。目的地は北東——エグリオンの聖都アクレシア。


「それにしても……あなた、昔とずいぶん変わった」

「君が変わったからだよ」

「そう……じゃあ、覚悟なさい。私と共に歩むというのは、世界のすべてを敵に回すということ」

「君がいるなら、敵でいい。味方はいらない」


アトワイトの唇がわずかに動く。

それは笑みのようでもあり、嘲りのようでもあり——ただ一つ確かなのは、そこに迷いはなかった。


「ならば、始めましょう。我々による、世界征服を」


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