第9話

ユリウス・ゼルファ=ルートハイム(ユリウス・ヴァン=アークライトの本名)は、

黒と白の衣装に身を包んでいた。

新たに設立された《新秩序教団》の最高執政官として、

その整った顔立ちに、民衆たちは神を見た。


——けれど、ユリウス自身はその視線を苦笑で受け止める。


「僕はただ、アトワイトの“後始末”をしてるだけなのにね」


アトワイトが破壊し、是正した都市、国家、文明の“欠けたパズル”を、

ユリウスは静かに、着実に組み直していく。


彼の手にあるのは、《フェアノート》と呼ばれる国家統治型AI。

それは、アトワイトの戦闘ログ、演算思考、是正方針をベースに作られた、

未来の統治装置だった。


——破壊による進化に、秩序による持続を添える。

アトワイトが地を“清め”、ユリウスがそこに“人の国”を築く。


それが、二人にとっての征服だった。



だが、平穏はなかった。


《旧大陸連合》、まだ生き残っていた諸国が、

次々と連携して《新秩序教団》に対抗し始めていたのだ。


「彼女が天上界へ向かった今、僕が地上を守らないと」


ユリウスは騎士たちに命じ、

自らは戦略司令艦ルベリオンに乗艦する。


艦橋から見下ろす戦場は、すでに旧式魔導戦車と新型機械兵の交差点だった。


だが彼の目は、戦場ではなくその“背後”を見ていた。



「諸国連合は、アトワイトが不在の隙を突いてくる……だが、僕は彼女の“影”だ」


ユリウスが手をかざすと、ルベリオンの中央演算核が共鳴を始める。


《フェアノート》からの戦術回線開放。


その瞬間——各地に散っていた《是正騎士団》が、同時に動き始めた。


空を舞う鉄騎ヴァレリア

地下から進軍する魔装列車クルース

無音で浮上する浮遊都市防壁ネア・エデン


それらすべてが、“アトワイト式戦術”によって動かされる。


「君のやり方、もう誰よりも理解している。

だから僕は、“この世界”を守って征服する」


そう口にしたとき、彼の背後に姿を見せた者がいた。


《エリシア・レイン》。

かつて“アトワイトの婚約者破棄”に加担した王国の王女だった。


だが今は、ユリウスの参謀として、彼に忠誠を誓っている。


「……貴方、どこまでいくの? 神に届いた彼女の、隣に立つつもり?」


ユリウスは静かに笑った。


「隣じゃない。背中を、預けてもらう。

彼女の影として、世界のすべてを制御するのが——僕の“愛”だから」


そして、その言葉を合図に、

《世界征服第二段階:地上再統一》が発動された。


次に彼が狙うのは、旧魔術帝国ベル=ザルク

そこには“彼女”の研究資料と、失われた“彼女の過去”がある。


「アトワイト。君が知らない君自身の記憶……

僕が集めておくよ。君がいつか、立ち止まったときのために」


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