第8話

地上から遠く離れた、深海二万メートル——

かつて神代文明の中心とされた《海底都市アガルド》。


全周を絶対水圧防壁と、七重の自律魔導障壁で囲まれたその都市は、

《眠れる神の棺》と呼ばれ、長らく誰の手も及ばない聖域とされていた。


だが今——そこに、アトワイト・グエルクスの影が迫っていた。



「深度突破限界、更新中。機体構造異常なし。進行継続」


《グロリア》は新たに深海戦闘形態ネレイス=フレームを装備。

多関節状に分離した装甲と、流体推進式ドライヴで、水中に“馴染む”。


敵は、海底国家ヴォルキュリアと、

その守護機構アビサル・ナイト


——だがアトワイトは、警告も布告もしない。

ただ、是正を開始する。


「ここに存在する神格遺物ユルグ・コアの封印は、

全世界の魔力循環を不均衡化する要因。——よって、破壊対象」


都市中枢にある《青き神の棺》、それは超魔力反応炉。

古代神格兵器の心臓であり、同時に“海底を沈めないための楔”だった。


それを抜けば、アガルドそのものが崩壊する。


——そして、アトワイトは迷わず、それを選ぶ。



そのころ地上。

ユリウスは《新秩序教団》の中心地として、旧リュディアの聖地を掌握していた。


改宗者たちは次々と集い、

民間企業、軍部、魔術師ギルドまでもが、アトワイトに忠誠を誓い始めていた。


「彼女が壊すのなら、僕が整える。

それが僕の役目であり……アトワイトの、願いでもある」


彼の手元にあるのは、新たに設計された国家基盤AI《フェアノート》。

ユリウスの魔導演算とアトワイトの戦術データを融合した、未来国家の中枢核。


「もうじき……地上と海、両方が“正される”。

残るは、空——そして“天上”」



その予言通り、アガルドは陥落した。

ユルグ・コアはグロリアによって摘出され、海底都市は深淵へと沈んでいく。


アトワイトは、最後に瓦解する神殿の中でひとり呟いた。


「……これで、“水の神”も、いなくなったわね」


だが、その目は冷たい。


彼女は、まだ足りていない。

征服の終着点には届いていない。


次なる標的は、“天上界セフィロス”。

空間を超越した、並行位相に存在する《神々の王座》。


アトワイトが向かう場所は——

この世界の“上”すら越えた先だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る