四つ葉

ゆめのみち

プロローグ

 所せましと咲いている兄弟姉妹は、狭さを特に気にすることなく、遊んでいる。隣の他の葉っぱや木に話しかけては、恋している者もいる。

 私はたくさんの兄弟姉妹に揺られながら、空を見ていた。そろそろ二枚目の葉、いや、三つ葉になってもいいころなのに、まだ葉は一枚しかない。いつになったら大人になれるのだろう。いつになったら皆と同じになれるのだろう。そう思っていたら、あの空の遠さも私の心のように思えて。

 しばらくしたころに、妹が話しかけてきた。

「ねぇ!これから占いが始まるって!占い雀さんが来たよ!」

「そう。楽しんできて」

 その返事はなんて無機質なんだろうか。自分でもそう思うほどに冷たく返した。

 でも、それより私は、心の奥底を見られるのが嫌だった。皆は一枚の葉でも気にしなくていい、可愛い、特別だよ、と言ってくれるが…それを悩んでいる事を皆の前で言われたくない。

 そしてなにより、死ぬというのに、痛いというのに、友達や家族と離れ離れになるというのに、旅に出てみたいと願っている事を知られたくなかった。

 その自己防衛から放った冷たい返事にもかかわらず、妹は優しく言葉を続けてくれる。

「今日こそ占い雀に勝つわ!今日の夜は雨!それもどしゃぶり!」

 少し間を置いて、思わず笑ってしまった。それを妹は、ムスっとして、

「また笑って!今回の自作の占いは当たるのよ!絶対よ!お姉ちゃん、あなたは今日、自分の夢が叶うわ!」

 夢が叶う、その言葉にドキっとした。

「大丈夫。皆は未知の世界が怖いだけで、応援してるから」

 知ってか知らずか妹は言った。

 私たちクローバーがちぎり取られたら、痛くて命は終わってしまう。世界を知らない私たちは、ちぎり取られるという事がとても怖い。帰ってきた者も一人しかいない。その者は楽しそうに外の世界の事を話していたが、それでも皆の恐怖は変わらないままだった。

「そ、そうかな…」

「そうよ。私も応援してる。家族がひどい目に合うのは見たくないけど、でも夢は応援したいの。すぐに終わるとしても、永遠に続くとしても」

「そ、そっか」

 少し恥ずかしくて、でもはにかむ。

「皆あなたにはそんな事言わないけどね」

 と妹はくすくすと笑う。

 少し間があいてドッと周りが騒ぎ始めた。他の植物や土、虫たちも土から出てきて騒ぐ。どうやら占い雀が来たらしい。妹は必死に占いの話をしている。占い雀は優しく聞いて、そして驚いていた。どうやら当たっているらしい。

 その様子を見て、楽しい気持ちになった。

 ちぎり取られたクローバーが戻ってきたときの冒険譚を聞いて、外の世界に興味はある。外の世界を旅するのが夢だ。でも、家であり、家族や友人たちと過ごすこの穏やかな幸せも好きだ。

 二つの気持ちは時に、夢を迷わせる。

 考える時間はもったいなく感じて、とりあえず今はこの時間を楽しもうと、皆の会話に耳を傾けた。


 あらかたの友人や家族たちを占い終えた頃。占い雀は休憩に水を飲みに行った。

 その間に軽やかに土を蹴る音が聞こえた。すぐに私たちの周りに影ができる。

 人間が来たのだ。私たちを、何かを探すように――いつものごとく四つ葉だろう――かき分ける。皆怯えて、かき分けられても体を寄せあおうとしている。

 私は外を見てみたい。その気持ちだけで、真っすぐ子供を見つめていた。

 ふと、子供は私を見て、珍しそうにじろじろと見る。

「一枚なんて珍しい!」

 そういって、ぶちっと私をちぎった。

 痛いのは一瞬だけだった。すぐに、体が自由に動ける、そんな不思議な感覚に包まれた。

「皆!外の話たくさん持ってくるね!痛いのは一瞬だけだったよ!行ってきます!」

 そう叫んで、私は子供に運ばれた。

 後ろで、心配する言葉や、応援する声などが聞こえる。

 妹の占いは当たった。こんなに素晴らしい旅の始まりがあるのだろうか。たくさんの優しい気持ちに溢れながら、私は周りの景色を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る