ンボボ族のナナシ ~僻地で産まれし錬金術師~

鈴寺杏

第1話 ワシナナシ

 ワシ『ナナシ』がこのンボボ族の集落に産まれて五年が経った。

 家族は全員優しいけぇ、ええんじゃけど、生活はいっこもようならん。

 そこいらは密林じゃし、割とちけーとこに海がある言うても魔物がおるけぇ簡単に近寄れりゃあせん。

 それもこれも、あんときの『神様』じゃって言うとった爺さんのせえじゃ!



 あの日、バイクでこけてしもーて入院しとったワシは、いきなり殺されてしもーた。『死神』じゃとかいうお嬢ちゃんに。

 なんか、ほんまは別の部屋の魂を刈り取るはずじゃったらしいんじゃけど、間違えたんじゃ言うとった。

 なんでそんなことになるんなら。意味がわからんわ。


 ほんでから、このお嬢ちゃんの祖父言うんが出てきて、こう言うたんじゃ。


「孫娘が失敗して申し訳ない。最近になって地球で死神の仕事を始めたので、まだ不慣れでな。代わりに私の担当する異世界で新たな命を授ける。もちろんそれ相応の能力も付けさせてもらう」


 謝られたけぇいうて許せるもんでもねーけど、もうどうにもならんわけじゃ。ほんなら少しでもええ条件で新しい命貰うた方が得じゃけぇ、いろいろ希望を言わしてもろうた。

 これでもワシ結構異世界とかそういう小説読んどったけぇな!

 


「それなりの立場で、周囲より裕福な家庭が希望じゃ! ほいでから長男じゃったら大変かもわからんけぇ、次男より下がええわ」


 その結果が、族長の息子。第七子。今んとこ末っ子じゃ。

 確かに「それなりの立場」の家庭じゃし「周囲より裕福」ではある。じゃけど、これはおかしかろうが!

 まさかこげえなことになるたぁ思わんわ。貴族とか金持ちの商人とかじゃとおもーとったら、いっこもそがーんこたぁねぇ。服装にしたって、周りのもんもみんな腰蓑程度で、女性はみんなおっぱいポロンじゃ。

 いっこも嬉しゅうねえけどな!

 それにもっと普通の石とか製材で出来とる家かとおもーとったら、木はつこーとるけぇど葉っぱの屋根じゃし、もっと原始的なもんじゃった。もうちぃと元の生活にちけぇ家庭はねかったんか?


 まあもうええわ。

 ほんで家族じゃけど、上に兄が一人。姉が二人。

 じゃけぇ全員で、父ちゃんに母ちゃん。兄ちゃん一人に、姉ちゃんが二人。あとワシの六人家族じゃ。でも、もうすぐ弟か妹が産まれるけぇ一人増える予定じゃな。


 なんか計算合わんじゃろ?

 ワシが産まれる前に死んどんじゃ。そりゃあ、こがーな文明のとこじゃあ、不衛生じゃし子供やこー簡単に死ぬわな。ほんで、食べもんもそがーにありゃーせんし。水やこーは雨水が一番きれいにみえるくれえじゃ。

 これでもうちはだいぶマシな方じゃけぇな。他の家やこうは、三人から四人産まれて一人が残りゃええほうじゃけぇ。こう言うたら半分以上残っとるんが、どんだけすげぇんかわかろう?


 ほんでな、うちとこはおとんが族長じゃけぇ多少周囲よりマシじゃあいうても、たかが知れとる。沼で採れる芋みちょーなんが多かったり、虫がちいとようさんこと手に入るくれぇじゃ。そげえなくれぇじゃいっこも足らん。

 家畜は数が少ねぇし、普段はそがーに獣も捕れりゃーせん。肉やこう食えたらラッキーじゃ。


 ワシがもろーた『錬金術』の能力が使えりゃーええんじゃけど、こがーな環境じゃけぇ道具もありゃーせんし、何もできりゃあせん。ほんまどうすりゃーええんなら。地球の知識がある言うても、活かしようがねえが。さすがにこがーな環境やこう想定しとらんわ。


 もうすぐ産まれてくる弟か妹もおるし、なんとかしてなんぼかは改善せにゃあおえん。このままじゃったら上の兄弟みてぇにまた死んでしまうけぇな。

 まずは食べ物を確保して、母ちゃんに元気に産んでもろーて、母乳がよーさん出るようにしてもらわにゃあいけん。


 ワシももう五歳じゃ。家族のために頑張らんとおえんな!

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