第6話 回収後も仕事

 ルーク達『戦場童子』一行は欲をかかず、夜明けには一旦、戦場跡から撤収する事にした。


 戦場跡には工兵部隊の大部分が残っていたからだ。


 この数年で一番大規模な戦だったから、勝者のグルーテイル帝国軍が念入りに回収作業を行っているからだ。


 戦場終盤では両軍の主力中の主力であり、人類史の最高傑作であるアーリ系同士の大規模なぶつかり合いもあった。


 当然とは言えば当然だろう。


 ズナ系ならいざ知らず、国家の技術の粋が込められたアーリ系の部品が一つでも『死体漁り』連中ので手で国外に持ち出されたら、国家の危機になりかねない。


 だからこそ、主力部隊は王都を包囲する一方で、多くの工兵部隊を戦場跡に残して回収作業をさせていたのだった。


 ルーク達『戦場童子』は、そのピリついた雰囲気を感じると、長年の経験から一度離れて、その雰囲気を避ける事にしたのである。



「『黒鍬組』の連中は、夜明け後も残って漁っていたみたいだけど、ルークは良かったのか?」


 移動中の大型牽引車の中で、ギルが、幼馴染に意味ありげに聞く。


「?」


 ルークはその質問の意図がわからなかった。


「ルークに色々掃除屋のイロハを聞いていた連中がいただろう? 戦場跡のあの雰囲気だと、いくら戦場の端で漁っていたとしても、帝国の工兵部隊が見逃してくれるかわからないと思ってな」


 ギルは、意外に気にした様子もないルークに詳しく説明する。


「ああ、あいつらの事か……。──この仕事をしていて、仲間でさえ簡単に死ぬ世界だぜ? 他所の連中の事を気にするくらいなら、仲間が下手を打たないように気を配る方がよほど大事なのは、これまで何度も話し合ってきた事だろう?」


 ルークは、古参の掃除屋らしく、この業界の常識を語った。


「それでも、珍しく色々と説明してあげてたじゃない」


 幼馴染の一人アリアが年長者のルークを軽く茶化す。


「うっ……。──あれはまだ、目が死んでいない奴らだったからな……。俺達のようになる機会があるかもしれないと思っただけさ。だけどさすがに、この戦場跡ではどうなるかわからないけどな……。──残った連中は、金に目が眩んで欲をかいたら、今頃死んでいるかもしれない」


 ルークは、そう予知すると、それ以上は考えないとばかりに、仕事後という事もあり、簡易ベッドに身を横たえるのだった。



 ルーク達『戦場童子』一行は、戦場跡から離れた別の丘の麓を流れる小川の傍に移動すると、回収品の整理を始めた。


 買い取り業者に売る為に、分別しなければならないからだ。


 買い取り業者も専門があり、それこそ魔導機部品を扱う大手から、洋服や原形を留めない生地に至るまで買い取る小さな業者もある。


 ただし、壊れているものや、汚れているものは足元を見られ、安く買い叩かれるのが常識だから、分別し、自前で修理できる簡単なものや、汚れが落とせるものはできるだけ手許に残しておくのだ。


 少しでも高く売る為、ルーク達は毎回努力していた。


 死体からはぎ取ったものは、当然血まみれだ。


 ルーク達は血を拭き取ったり、洗濯して少しでも血痕が残らないようにする。


 今やそれも慣れたものだった。


 血痕を要領よく落とす為の技術も身についており、専門業者から買っておいた血痕を中和する薬品を状況に応じていくつか混ぜ合わせ、使用していく。


「これ、俺が回収したんだけど、血痕さえ落とせれば、高く売れそうな服じゃないか?」


「この銀歯、回収する時、口が臭くて止めようかと思ったぜ」


「こっちの鎧なんて、頭が吹き飛んで、肉片が沢山こびりついてたから、荷車に入れるの迷ったよ」


「わかる。回収して保存している間に悪臭を漂わせている事あるもんな」


 他愛なくも、普通の子供達ではありえない会話が、展開されていく。


 だが、それも『戦場童子』にとっては変わらぬ日常だった。


 慣れたと言ってしまえばそれまでだが、この底辺の仕事の中に光を見出しているからこそ、明るく振る舞えるのだ。


 これも、リーダーであるギルや副リーダーのルーク達古参勢が苦心して作り上げた職場の雰囲気なのである。


「あ、そう言えば、ルークの兄貴が使えそうなズナ系の部品を見つけてたよね? アリア姐さんを呼んでいたし」


 緑髪のビッツ(十五歳)が同い年ながら、職場では先輩にあたるアリアを姐さん呼びする。


「それ、俺も気になってた」


「そう言えば、アリア姐さんいないなぁ。牽引車内で作業中かな?」


 仲間同士が、興味津々とばかりにルークに説明を求める。


「まあ、待て。今、アリアに確認してもらっている最中なんだ。ぬか喜びさせたくもないから、はっきりわかったら説明するよ」


 ルークが言葉を濁す。


「俺は知ってるぜ? 旧型ズナ系から無傷の魔導内燃機関エンジンをみつけたんだよな?」


 凸凹トリオの義兄を称する大柄で筋肉ムキムキのアロン(男子、十七歳)が、ルークが旧型ズナ系で運ぶ様子を見ていたのか追及する。


「おお! 旧型でも無傷の魔導内燃機関部なら高く売れるじゃん!? やった!」


 凸凹トリオの義次兄を称する小柄なカロン(男子、十六歳)が、大きな収穫があった事を喜ぶ。


「今回は壊れた魔導内燃機関も数台回収できたから、アリア姐さんが、それを修理出来たら、結構な利益になりそうだよな?」


 同じく凸凹トリオの義弟を称するナロン(男子、十五歳)も、今回の仕事の成功を喜んだ。


「だから待てって。アリアの結果を聞いてから、今回の儲けは考えよう」


 今度は、ギルが前に出て騒ぐ仲間を落ち着かせる。


「「リーダーが言っているんだから、落ち着きなよ」」


 すかさず、ギルの信者である双子のソル(男子、十四歳)とルナ(女子、十四歳)が、声を揃えて騒ぐみんなを宥める。


「おーい、みんな! 料理の準備ができたから、一旦、仕事を切り上げて、集まってくれ」


 みんなの言い合いを打ち消すかのように、タイミングよく料理人を務める長身のアフロヘアーのシュガール(男子、十八歳)が声を上げる。


 すると、さっきまでの騒ぎから一転、今度は別の喜色に包まれた声が方々から上がるのだった。

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