GENE・スノウ
会話のカモメ
プロローグ 唯一無二の異物
かつて「美」は主観だった。
だが、ノルド・シティではそうではない。今では、美は科学によって測定され、階層化され、管理されている。
市民たちは生まれる前にDNAを選別され、容姿の完成度が“平均値”に達しない遺伝子は廃棄される。親が望めば、さらに“美の上澄み”を追加できる有料オプションもある。骨格調整、表情制御、肌質遺伝子の最適化――それらは今や、呼吸と同じくらい自然なものだった。
街の中心には巨大なホログラムが浮かび、誰もが通りすがりに「自分の顔ランク」を確認できる。S、A、B、C、D――そしてE。Eは、顔に生まれついた罰。
スノウ・ホワイトは、そのEだった。
どんなに髪を整えても、肌を磨いても、“設計”されていない顔は社会から拒絶された。
学校では「顔のせいで成績が下がる」と教師に叱られ、コンビニでは自動ドアが開かなかった。ランクEには購買制限がかかっていた。誰も彼女に触れようとしなかったし、目も合わせようとしなかった。
彼女は、誰からも見られない存在だった。鏡さえ、彼女を映したがらないようだった。
だが、ある日。
「本年度の最美認定者(ザ・フェアレスト・オブ・イヤー)は……スノウ・ホワイト」
その言葉が、空に響き渡った。毎年開催される「MIRROR評価祭」、人工知能MIRRORが選ぶ“最も美しい市民”の発表だ。スノウは人ごみに紛れ、他人事のようにモニターを見ていた。なのに、そこに浮かび上がったのは、見慣れた顔――鏡の中で憎んできた、自分自身だった。
シティがざわめいた。「誰?」「あのEランクの子?」「バグじゃないの?」
戸惑う彼女を、無数の視線が突き刺した。誰もが“間違い”を疑った。だがAIは、再度スノウの顔をスクリーンに映し、明瞭な声で断言した。
「スノウ・ホワイト。あなたが、この都市で最も美しい。」
この瞬間、彼女は見られる者になった。
そして同時に、殺される者になった。
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