第35話 ご対~面~

 俺を助けるため、ハゲ親父に自分を犠牲にしようとしている麻梨亜。パジャマとして着ているスエットを胸の上まで捲り上げている。


「へへへ。相変わらず〇っぱい大きいね。今日の下着は特に可愛いよ。くんくん…あれ? 何だかいい匂いがするぞ? このいい匂いはどこから匂ってくるのかなぁ?」


 ハゲ親父が鼻の下を伸ばし、眉毛の上のあたりに、敬礼をするような形で手を当てながら辺りを見渡す。白々しいし、匂いの元を探しているのなら、手ではなく鼻だろう! こうやって鼻をくんくん鳴らして…やばい、くしゃみ出そう…




ヘッキシッ!!




「ありがとうございます! またご利用下さい」




 定宗がいつの間にか俺の懐から盗んだカトちゃんPAYを使い、近くにあった自販機で缶コーヒーを買った。


「てめぇ! 勝手に何やってんだよ!! ちゃんと自分で金を払えよ!!」


 思わず叫んでしまう。


「分かってる…そんなこと分かってるの千尋…でも…払えないの…私だってホントはこんな事したくないの…でも…払えないの…」


 急に涙声になる麻梨亜。えっと…俺は勝手に俺の金で缶コーヒーを買った定宗を咎めているのだが…


 麻梨亜はこっちを向いてくれないが、明らかに泣いている。


(払えない? 麻梨亜は一体何の話をしてるんだ?)


 頭の中が混乱する。


「へへへ。だよね~。だから麻梨亜ちゃんはお金が欲しくておじさんとこんな事してるんだよね~。じゃあ~麻梨亜ちゃんの〇っぱい、見せてもらっちゃおっかなぁ~へへへへ」


 この状況から見て、完全にハゲ親父の方が麻梨亜より立場が上だ。どうやら麻梨亜は何らかの事情があり、その事情のせいでお金を手に入れなければならず、やむを得ずこのハゲ親父に下着姿を見せてお金をもらっているようだ。


 ハゲ親父が麻梨亜の胸の辺りに手をやるのが見える。こちらからは死角になり、細い麻梨亜の身体からはみ出して見える部分でしか親父の行動を把握することができない。


「じゃあ、行っちゃいましょうか? 〇っぱい見せちゃいましょうか!?」


 ハゲ親父の口調とテンションがムカつく。ハゲ親父は手の平を上に向け、両手の人差し指をブラのカップの下に添えると(こっちからは見えないが、恐らくそうだろう…)ニヤニヤしながら…


「ご対~面~~!!」


ハゲ親父の手が上にずれてゆく。


「ぬおおおおおおおおおおおおお!」


 麻梨亜の〇っぱいがハゲ親父の前に晒された瞬間、俺は思わず叫んでしっまった。


「お~!!綺麗だよ~。麻梨亜ちゃんの〇っぱい美しいよ~♪」


 ハゲ親父とその横にいる定宗が鼻の下を伸ばしながら麻梨亜の胸を見つめている。


 一方、麻梨亜は横を向き、男から顔を逸らしている。目を瞑り、我慢をしているその横顔を見ていると心から怒りがこみ上げる。どうしてこんなに真面目で可愛い俺の麻梨亜がこんな事をしなければならないんだ。一体何があるって言うんだ麻梨亜!


 今すぐにでも助けに行きたいが、鎖で木に巻かれた俺は身動きが取れない。


「くっ! 止めろハゲ親父!! 麻梨亜から離れろ!!」


 今は口で攻撃することしかできない。それはハゲ親父ももちろん分かっている。


「けけけっ! 悔しかったらここまでおいで~!!」


 お尻をペンペンと叩きながら挑発してくる。なんて昭和な挑発の仕方なんだ…


「くっそっ! 平成なめんじゃねぇぞっ!!」


 何とかしてこの拘束から逃れようとするが、鎖が食い込み上手く動けない。ハゲ親父は俺が何もできない事が分かっているので余裕の表情を浮かべている。


「そんなに反抗的な態度をとっていいのかぁ? ちょっと麻梨亜ちゃんの〇っぱい、味見しちゃおっかなぁ~」


 ハゲ親父が舌を高速でベロベロしながらこっちを見て挑発している。


「てめぇ、そんな事したら後でどうなるか分かってんだろうな!」


「へへへ、その言葉、そっくりそのまま君にお返しするよ。君の態度次第で麻梨亜ちゃんの身体は…くくくくっ…今の自分の立場をわきまえた方が賢明というものだよ、お嬢さん」


 ハゲ親父が、背中をこちらに向けている麻梨亜の身体の横からひょっこりしながらこちらを見た後、元に戻る。麻梨亜の身体で隠れて、親父の半分が見えない。


「では…いっただきま~す!!!」


 麻梨亜の向こう側で、浮かれたハゲ親父の声がした次の瞬間…


「んんっ…ぁっ」


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