第18話 正体
どれだけ時間が経ったのか分からないが……
「まったく……高校二年にもなってお漏らしをするとは……一滴も残すなよ。我が女学院がお前の尿で汚されてしまうなんて……女学院始まって以来の汚点だ」
胸の前で腕を組みながら不機嫌な顔で俺を見ている麗菜。
(何だよ……元はと言えばお前が脱ぎ方を説明しなかったのが悪いんじゃないか……)
心の中でそう叫びながらモップで廊下をしっかりと掃除する。
「文句を言わずさっさとやる!」
「何も言ってないだろう!」
「心の中で言っていただろう」
「お前は俺の心が読めるのか?」
「ああ、お前のような単細胞の心を読むことなど造作もないこと」
「じゃあ今なにを考えていたか当てて見ろよ」
「よし、当ててやろう。あ~あ。俺が女性恐怖症じゃなかったら、女子寮にいる女の子たちと〇リまくりなのにな……だろう?」
「……」
「ふっ、図星か」
「そ、そんなことより……」
「なぜ急に話題を変える? スケベ心を読まれたことがそんなに悔しいのか?」
「そ、そんなんじゃないぜ。ほ、本当に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと? 何だ?」
「俺のルームメイトのことだ。彼女は一体何者なんだ? 寮生たちに聞いても知らないって言うし、加納麻梨亜も話をはぐらかすし……彼女は一体」
「そんなに知りたければ教えてやろう。彼女はレイだ」
麗菜が高慢な口調で言い放つ。
「何を偉そうに言ってるんだ。彼女の名前はもう知ってるって。俺が知りたいのは彼女の素性だ」
「だから、彼女はレイだ」
「お前バカか?」
「きゃあっ! 綾辻君! 大丈夫? 死んでない?」
麗菜の延髄切りをまともに食らい、目の前に星が飛んでいるが何とか生きている。
「何すんだよ。お前が悪いんだろう? 同じ答えを言いやがって」
「私は悪くない。悪いのはお前だ。私はちゃんと答えたではないか。お前のルームメイトであるレイは……」
麗菜は窓ガラスにハーッと息を吹きかけた。窓ガラスが白く曇る。麗菜はそこに『霊』という文字を書いた。
「お前のルームメイトのレイは霊なのだ」
麗菜はとんでもない事実をサラっと言ってのけたのだった……。
突然の告白に、一瞬頭が真っ白になった。だが消えかかる窓の『霊』の文字を見ながら気持ちを落ち着ける。冷静になると、寮生のあの態度やトメさんの意味深な言葉の意味が理解できた。
「じゃ、じゃあお前はあの部屋に幽霊がいることを知った上で俺をあの部屋に住まわせたのか?」
「そういうことだ」
「何でそんなことするんだよっ!」
「何でだと? そんなこと決まっているじゃないか。同じ部屋で生活をするとなれば、お前が男であるということが遅かれ早かれ気づかれてしまうことになるだろう。その点を考慮すれば、レイとの生活はお前にとって都合がいい。だって幽霊だもの」
どこかの詩人のような言葉で締めくくる麗菜。彼女の言っていることも一理ある。例えばトイレの時だ。トイレに行くときには女体スーツを脱がなければならない。レイ以外の女の子がルームメイトだとしたら、毎回バレないかはらはらしながらスーツを脱がなければならないのだ。通常ならばそれを隠すのは可能だろう。だが今日のような緊急事態がこの先起こらないとも限らない。いや、必ずそういう状況に追い込まれることもあるだろう。もしかして麗菜はそこまで考えて俺をレイと同じ部屋にしたのではないか? 俺の中ではそんな結論に至っていた。
「それに……」
「それに?」
「お前と幽霊が一緒に生活するところも見てみたい。だって面白そうだし」
(本音はそっちだろう……)
俺は心の中でツッコミを入れた。でもまあ、麗菜の言うとおり、この方が都合がいいのは確かだ。春日由里絵が手渡してくれた女体スーツに俺は袖を通した。
スーツが身体に馴染んでゆく。手首足首から先以外は、女体スーツに包まれる。廊下の窓に写る全裸の姿は、どこからどう見ても女子高生である。俺は服を着ると、その場を後にした。
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