第17話 カトちゃんPAY
持っていた『カトちゃんPAY』が扉の端末に触れ、反応する。どうやら各教室の鍵も、女子寮と同じで、『カトちゃんPAY』で解除する仕組みになっているようだ。これならば、誰がいつ 、どの教室のロックを外したのかが管理できる。なんて素晴らしいシステムなのだ! などと感心している場合ではない。
「誰っ!? 誰がそこにいるの!?」
美術室の中で、女教師の焦ったような声がする。
(やばい! 覗いていたのがバレる!!)
もう限界に近付いている尿意と、見つかってしまうかもしれない気持ちが手伝い、普段以上の身体能力が覚醒する。俺は超高速のムーンウォークで美術室を離れると、そのまま理事長室近くにある柱の陰へと隠れた。遠くの方で、乱れた着衣を腕で隠しながらキョロキョロとしている女教師の姿が見える。しばらく柱の陰で隠れていると、誰もいないことに安心したのか、女教師は再び美術室の中へと姿を消した。
(ふう、やばかった…バレたかと思った)
安心したとたん、太ももに生温かいものが伝っていく感覚が俺を襲う。
(やばい! こんなことしてる場合じゃない!!)
俺は本来の目的を思い出し、理事長室の扉の前に立った。
すると、中から何やら人の声がする。麗菜の他に誰かいるのだろうか? 他に人がいるとなると少々厄介だ。俺は理事長室の扉にぴったりと耳をあてると、そこから中の様子を窺ってみた。
「んん……はぁあん」
女の荒い息づかいが聞こえる。
(ん? 何やってんだ?)
もう一度耳をくっつけ、中の様子を窺う。
「はぁあん……んん……ぁあああん」
鼻に掛かったような甘えた声が聞こえる。その他には声がしない。どうやら中には麗菜一人のようだった。
念のためもう一度確かめてみる。
「ぁあ……ぁはぁああん……んん」
やはり麗菜の甘えた声しかしない。
(おいおい、麗菜のやつ、また一人で……)
俺は理事長室の扉のドアノブを握り、それを回して扉を開けた。
理事長室の扉を開くと、そこにはピッタリとしたレオタードのようなウェアを着た麗菜の姿があった。
薄いピンク色の生地から肌が透けて見える。汗をかいているからその透け具合は激しい。形のよい膨らみに視線をやると、こちらが照れてしまいそうな程の透け具合だ。汗に濡れたウェアを着たまま、麗菜は理事長室に持ち込んでいたトレーニングマシンで筋トレをしていた。
「相変わらずややこしい奴だな。知らない人が聞いたら勘違いするぞ」
「ぅ、うるさい……はぁあん……誰にでも欠点はあるものだ……ぁあん……それより……はぁああん……何の用だ?」
「だから…人が聞いたら勘違いするから一旦筋トレをやめろ」
先ほどからずっとマシンでトレーニングを続ける麗菜に忠告する。筋トレをする際、麗菜は誰がどう聞いても勘違いをする声を出すのだ。普段は低い声で男の様なしゃべり方をする麗菜。だが、筋トレの時だけは鼻に掛かったような甘い声を出す。こいつの昔からの変な癖だ。本当にややこしい奴だ。麗菜は珍しく俺の言うことを聞くと、机の上にあったスポーツドリンクを手に取った。腰に手を当て、オッサンのごとくグビグビと飲み始める。
「ぷふぁ~! このために生きてるな!」
オッサンの様に唸る。スポーツドリンクを机の上に置くと、麗菜は俺の顔をじっと見つめた。
「で、用事は何だ?」
「ああそうだった……。このスーツ、一体どうやって脱いだらいいんだよ。おしっこが漏れそうなんだよ」
「ふっ……それはそれで面白いじゃないか」
「人事だと思ってこの女……もしスーツの中がたっぷんたっぷんになったら、ここで腹を割いてやるからな」
「……それは困る」
「じゃあ脱ぎ方を教えろ」
「ふっ、簡単なことだ。背中にあるポッチを押せ」
「せ、背中? どこにあるんだよ」
「背中の真ん中のあたりだ」
俺は右手を左の肩から背中に回し、ポッチを探した。なにやら背中に突起の様なものがあるが、指先がほんの少し触れるか触れないかの場所にあるので、それを押すことができない。ならばと、俺は下から手を伸ばしてポッチを押そうとした。だが下から手を伸ばしても、指先が触れるか触れないか微妙な場所にある。
「恐ろしく身体が固い奴だな。毎日ストレッチをしろ、ストレッチを……」
「おい。呆れてないで押してくれよ」
「まったく……しょうがない奴だ」
麗菜はヤレヤレといった感じで俺の背中にあるポッチを押した。ぴったりと張り付いていたスーツが緩む。俺は肩から順にスーツを脱いだ。
「やばい。おしっこができると思うと我慢できなくなってきた」
俺は下着の上から股間を押さえたまま廊下へと飛び出した。長髪のウィッグをつけたまま、下着一枚で廊下を走る姿はまさに変態だ。学院内に誰もいない時間で良かった。もし誰かにこんな姿を見られたとしたら……。
そんなことが頭をよぎったと思っていたら、目の前で絶句する女性が一人。俺の方を指さしながら、ワナワナと震えているではないか。
「き、き、き……」
目の前にいる春日由里絵は悲鳴を上げようとしている。俺は無意識のうちに彼女の口を手で塞いだ。塞いだはいいのだが……。
俺は今、リアル女体スーツ『北極三号』を脱いでいる。そして俺の手が春日由里絵の唇に触れている。彼女の柔らかな唇の感触が手のひらにあたり、身体を密着させているので、彼女の巨乳が俺の身体に触れている。次の瞬間、俺の頭の中には幼い頃麗菜から受けたあんなことやこんなことやそんなことが走馬燈のように駆け巡る。俺の意識は徐々に薄れていったのだった……。
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